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第三章
アイドルとワンコとモブの撮影会
約束の場所は本校舎、玄関口だった。私たちは早目に行ったつもりだったけれど、すでにファンの皆さんがスタンバっていた。
あとからも続々と人が集ってきた。野次馬の生徒たちもいるようだった。
「みんなー、おはよ!」
溌剌とした声と共に現れたのは、リナさん。来てくれた彼らに手を振っていた。そこから申し訳なさそうに告げる。
「昨日はごめんね? ……リナね、ちょっとスランプ気味なの。それでね、新しいことやってみたいなってなって!」
「!」
リナさんが目配せしてきた。私たちの出番がきた……心の準備が……!
「……」
「はっ!」
リナさんが口だけで『なにしてんの』と急かしてきた。笑顔のままだ、内心はさぞイラついていることでしょう。
「大丈夫大丈夫。あくまでリッカ、リッカだから」
今回、大注目ワンコであるリッカと撮りたい。それがテーマでもあって。
リッカは腕の中できょとんとしている。うん、リッカに関しては問題ない。私的には宇宙一可愛い犬だ。リナさんと並んでも遜色なく、問題ないと自負していた。
「リナさん、お待たせしました。それと、すみません……失礼します。この可愛い子はうちのワンコです」
「わんっ」
私は頭をへこへこさせながら、リナさんの隣に立った。
「……」
リナさんは若干逃げ腰だった。それでも笑顔を絶やさないのはプロ根性だよね。
「……ワンちゃん、カワイイよねー。リナとワンちゃんの優勝コラボってことで。あ、シャーリーはね。この子の飼い主でしょ? リナに何かあったら大変だから、抱っこしてもらってるの!」
「あはは……」
私は確かに言っていた。リッカが聡くても、何かの拍子で噛みつく可能性もあり得ると。リッカをしっかりと抱っこすることにした。
それから撮影に入った。主役はもちろん、リナさん。それと白いモフモフ。抱っこしている飼い主は舞台装置に過ぎない。その舞台装置がうまく笑えてなくても問題なかった。まともに映ってないともいえたから。
「……うーん」
「えーと……」
リナさんもリッカも可愛い。けれど、観客からの反応は思わしくなかった。こう、思っていたのと違う、的な。
「……もっと、モフモフとじゃれるリナ様見たいのに」
ファンの一人が呟くと、次第に賛同していく彼ら。もっとくっついてほしいと。
「ちょ、ちょっとあんたたち? リナ、ソロの方が嬉しくなーい? 今なら、リク受付しちゃうけどなー? 色んなポーズしちゃうよ?」
犬が苦手なリナさん。この状況で辛うじてなのに、さらに密着するともなると。それは避けたかったようで、彼女はあれこれ提案していた。ファンたちも心は動くも。
「リナちゃん! 犬と戯れる君も見てみたい!」
「リナ様! 私もそっちの方がいいです!」
可愛いの相乗効果の方が期待が勝ってしまった。
「そんなぁ……はあ」
この空気からして、リナさんが断ることも逃げることもできなさそうだった。こっそり溜息をついた後、彼女は笑顔を作った。
「……リナ、ワンちゃん好きだけどぉ。知らないワンちゃんだとドキドキしちゃうの。ワンちゃんもそうだよね? リナの可愛さに、緊張しちゃうよね?」
「へっへっへっへっ」
リッカは純粋な目を向けてきた。撫でてくれるのかと、期待に満ちた目でもあった。
「くっ……」
リナさんは抗えなくなっていたようだった。リッカの可愛さからも、そして。
「――『リナ』として、そうよね……私は、そうしないと」
ファンに求められているからと、彼女は決意しているようだった。それも――重く。
「……まあ、リナが緊張しているってことで――触るわよ」
リナさんは薄目状態となって、恐る恐るリッカに手を出した。とりあえずてっぺん、頭でも撫でておけばいいだろうと。リナさんはそんな感じで……すみません、待ってください。
「――待って。リナさん、頭はやめといた方が」
「ひゃう!?」
緊張が高まっているところに、私に唐突に話しかけられたからか。リナさんの心臓が跳ね上がっているのがみてとれた。
「な、な、なんなのよ! 急に話しかけないでよ!」
リナさんの心臓はまだバクバクいってそう。緊張している時にそれはないだろうと、目で訴えてられていた。
「ごめんなさい。でも、特にリッカが。頭、撫でられるの好きじゃないんです」
「うー」
リッカは噛みつかないまでも、例のすごい顔をしていた。顔の皺が真ん中に寄っている、リッカ渾身の怒りの表情だった。
「な、な、なによ。これだから犬は……」
リナさん、もう取りやめたくなっていた。体調が悪くなったと言おうとして、逃げようとしていたが。
「……う」
ファンの皆さん、期待に満ちた目を向けていた。リナさんは逃げられない状態になっていた。
「……リナさん。ちょっとずつ、触ってみませんか? この子、賢いし大人しいですし。それでも怖かったら……まあ」
「……は?」
私はダメ元でもあった。リナがさん苦手なのも承知な上で、そう伝えてみた。リッカは初心
者向けな優良ワンコだ。大人しくて優しい子であるから。もちろん、こちらも注意を払う。
「一回だけでも。ほら、この子も待っていますから」
凄い顔をしていた事実は置いといて、リッカの目も輝いていた。私も、ね? と笑う。
「……ちゃんと見てなさいよ」
リナさんは私の耳に、低い声で囁いてきた……。
「は、はい……」
体が密着した時に、リナさんの良い香りが漂っていた。耳にもかかる息。私の頬が赤に染まるも……ここはどうにか気を取り直すことにした。
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