春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
203 / 557
第三章

月夜の散歩

しおりを挟む



 女子寮に近づくと、小柄な人物の姿があった。よそいきのコートを着た、美少女がそこにいた。彼女がついた溜息は白い息になっていた。

「……リナさん?」

 リナさん、だよね? 彼女が女子寮の外で立っていた。いつからかな……私たちが夜の散歩に行く時にはいなかった。

「あ……」

 リナさんは、私たちが近づいていることに気づいたようだ。ゆっくりと近寄ってきた。私たちを待っていたって認識でいいのかな? 

「突然ごめん。あんたを待ってたの」
「いえ、それは全然。それと、待たせてしまったなら、こちらこそごめんなさい。中、入りましょう?」

 突然の来訪に驚きつつも、私は女子寮に入ってもらおうとした。リナさんの顔はどこか青白い。この寒空の下、待たせてしまったんだよね……。

「……いい。というか、ここの人も中で休んだらっていってくれたけど。こっちで断ったから」
「そうなんですか……?」
「……苦手なの。人、多いところ」

 気の良い女子寮の皆さんのことだから。リナさんに中で待ってもらおうとしてくださった。それを断ったのはリナさんだった。その理由も意外なものといえて……。

「……」

 私は彼女を見た。今、こうして目の前にいる彼女は――リナ・ゼンガーなの?
 感情豊かで、賑やかで。誰からも愛される。それが、リナ・ゼンガーのはずだったのに。

「ひとまず私の部屋にでも。落ち着いて話せますので」
「……別に、話があったわけじゃないから」
「そう、なんですか?」

 私はきょとんとした。目的がないのに訪れてきたってこと?

「はは……意味わかんない。なんだろ、なにしにきたんだろ……」

 リナさんの表情は晴れないままだった。

「……」

 私は沈んだ表情のままのリナさんと、それから愛犬を見た。

「リナさん。少しだけ待ってもらえませんか?」
「……?」

 私はリッカを連れて、一度女子寮に戻った。

 そこからすぐに、リナさんの元に戻ってきた。手にもっているのは、マグカップ。中身はホットミルクなんだ。それを彼女に渡した。

「うちの寮長さん、気にしてくれたみたいで。私が用意するまでもありませんでした」
「……そう。ありがと」

 受け取ったリナさんは、口にした。熱いっと一旦マグカップを離した。猫舌だったんだ、リナさん。彼女はふうふうと冷ましながら飲んでいた。

「リナさん。良かったら――お散歩行きませんか?」

 リナさんは用はないとは言っていた。ただふらりと立ち寄っただけかもしれない。それでも、私は彼女とも時間を過ごしたかった――憂う彼女をどうしても放っておけなくて。

「お散歩って……今、行ってきたんじゃないの?」

 リナさんは私たちの姿を見てそう言った。いかにもそうだった。

「はい。でも、今はいくらでも歩きたいんです。ね、リッカ?」
「わふっ」

 モフモフもやる気に満ち溢れていた。彼は散歩のおかわり上等だった。

「……いいけど」
「良かった。それじゃ、ゆっくり行きましょうか」

 リナさんがそっけなく返しても、私は提案を受けてくれたことが嬉しかった。笑いながらリナさんの隣に立つ。彼女の方も特に離れることなく、そのまま歩きだした。

「月、綺麗だし」

 リナさんは満天の星空を見上げながら呟いた。

「……」

 月が綺麗、ときたかぁ……。
 冬花の記憶として残っている、有名なフレーズ――『月が綺麗ですね』。この世界の住民であるリナさんは知らないこと、ただ月が綺麗だから見たまま言っただけだろうと。

「はい、月が綺麗ですから」

 私もそう思ったから。素直な感想を口にしていた。

「なに、真似とかしちゃって」
「ふふ、すみません」

 リナさんはマグカップを片手に歩きだす。私もリッカを連れて、続いた。





 静かな時間。ただ、夜風を感じて。ぽつりぽつりと会話して。

「……」

 私は今になってわかった。どうしてリナさんとは話しやすかったのか。自分とどこか似た空気感だったのかも。

 皆のアイドルなリナさんにも憧れるし、推してもいきたい。
 こうして穏やかなリナさんもまた――。

「ふふ」

 私は好ましく思っていた。


 穏やかな空気だった。だからこそ、リナさんも。ご機嫌だったリッカも。私もそう――。

「……」

 背後に迫る影に、気づいていなかった。

 決して手出しはしない。危害を加えようともしない。ただ、『対象』の少女を見守るかのようだった――。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます

山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった 「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」 そう思った時すべてを思い出した。 ここは乙女ゲームの世界 そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ 私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない バットエンド処刑されて終わりなのだ こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?

甘寧
恋愛
婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。 ……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。 ※不定期更新です。

彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。 なろうに別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。 一部加筆修正しています。 2025/9/9完結しました。ありがとうございました。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

処理中です...