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第三章
ほんとお疲れ様
散歩は途中で切り上げることになった……ある事情があったからだった。
「へっへっへっへっ」
リッカはここぞとばかり歩き回った。匂いも嗅ぎまくった。夜の鳥の音に耳も傾けていた。尻尾をぶんぶん振って、上機嫌だった。ご満悦ワンコがここにいた。
「ぜえぜえ……」
私は……さすがに体力が限界だった。それでも、楽しそうなリッカを見たら疲れなど見せられなかった。振り返るリッカにも笑って返した。なんとか笑えていたとは……思う。
「……」
リナさんはというと。もう、喋ることもできてなかった。ひたすら呼吸を繰り返していた。近くにあったベンチに一人だけ座っている。
「あの、リナさん……すみません。連れ回してしまって」
「べ、べつに……平気だし?」
リナさんはようやく喋れるようになっていた。彼女はマグカップに加え、外にある自販機で水も購入していた。それをがぶ飲みしていた。
いつもよりはゆっくり歩いたものの、リナさんを疲弊させたには変わりない。
「……ま、気分転換にはなったかな」
疲れたには疲れた。でも、リナさんの表情が少し明るくなっていた。
「あんたもさ、座ったら? 色々疲れてるでしょ?」
リナさんは私の疲労も気にしているようだった。座るように勧めてくださった。
「いえ、そんなことは」
「そんなことはあるの。はい、座る」
リナさんは隣の場所を、数回叩いた。これはもう座ってってことだよね。
「失礼します……」
「……はあ、ほんとお疲れ様」
「えっ……」
「目の隈なにげにあるし、いかにも疲れてるって感じ。なので、お疲れさまーってことで。うん……頑張ってるんだね」
リナさんがしてきたのは、彼女なりの労い。私の頭を撫でてきた。
「……ありがとうございます」
「ん」
私はくすぐったくなった。リナさん、こんな穏やかな表情を見せてくれるんだ……。
そんな彼女のことを、私は……姉のようにも思えていた。親しみというものが育まれていたんだ。
ああ、私の心が落ち着いていく――温かい気持ちになっていく。
「さてと。じゃあ、帰ろっかな」
「あ、送ります」
ここから迎賓館までは近い。といっても、リナさんを一人で帰らすのも、なんだか。
「……そう。じゃあ、お願い」
「はいっ」
リナさんも特に断ることもなかった。迎賓館に寄ったあとに女子寮に戻って、それでお風呂に入ってと――。
迎賓館がみえてきた。いつみても立派な建物だよね。一部の上流階級の生徒が暮らしているそこ、リナさんもそうだった。
整えられた庭園も見えてきた。お散歩コースとして良さそうって、私は密かに考えていた。実際は厳しいだろうから、考えるだけ。ああ、リッカも尻尾を振っていた。歩きたいねぇ、歩きたいよねぇ……。
この時間帯でも門番はいる。職務とはいえお疲れ様です……。
「それじゃ、おやすみなさい。リナさん」
「待ってよ――上がっていけば?」
「え……」
「……嫌なの?」
思ってもみない提案だった。返事が遅い私に、リナさんは不安を覚えているようだった。私はとんでもないと首を振った。
「いえ、ご迷惑でないのでしたら。あ、リッカも大丈夫でしょうか?」
「あんたが抱っこしてくれてたら」
リッカも連れ込んでいいとのことだった。それならと、リッカは抱っこしてお邪魔することにした。
「――ってことでぇ、この子、リナのお友達なんです。お部屋連れていきたくなっちゃって。いいですかぁ?」
リナさんは門番さんたちにそう説明していた。リナ嬢が了承ならと、彼らも反対することもない。
「――」
リナさんはまだいくつか話をしていたようだったけれど。
「お友達……」
その響きに酔いしれた私は知る由もなかった――。
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