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第三章
リナのお部屋
三階の廊下を歩く。このフロアにリナさんの部屋があった。
「どうぞ」
「失礼します……」
リナさんが部屋の鍵を開けたので、お邪魔することにした。リッカの足も拭いておく。散歩をたくさんしただけあって、汚れていた。歩いたねぇ。
「わあ……」
天蓋付きのベッドに、アンティークの化粧台。クローゼットには収まりきらないのか、小物類やバッグを飾る棚もあった。どれもピンクを基調にした、お姫様のような部屋だった。
「……」
目に入るのはたくさんのぬいぐるみ。ベッドの上から床の上まで、いたるところにあった。かといって散らかっている印象はない。彼女なりのルールによって飾られているようだった。
「ん……?」
部屋の隅っこに追いやられていた、異質さが際立つ存在。
それは『くまのぬいぐるみ』――年季が入ったものだった。ぬいぐるみは足の裏を向けている。そこには文字が刺繍されており――。
「なあに? 気になるものでもあった?」
「あ、いえ……すみません」
気になったのは、あの年季が入ってそうなぬいぐるみ。明らかに部屋の雰囲気から異質であったから。といっても、部屋をジロジロ見すぎたかも……。
「欲しいものがあったら、言って? 譲ってもいいよ。たくさんありすぎて困ってたの」
「はは……いえ、大丈夫です」
リナさんは気分を害したわけではなさそうだった。彼女はそう言ってくれたけれど、私は遠慮した。さすがに悪いと思っていて。
「ほら、これとか、こっちも。デザイン可愛いよね?」
リナさんは目についたバッグや帽子をもってきた。それらはいずれも――。
「『パパ』がくれたものだけど。こんなにあってもだから。あんたにあげる」
「……いえいえ!」
どれも『リナ』さんに似合うもの、彼女に贈られたものだったから。
「いっそ、あれも――」
リナさんが目をやったのは、クローゼットの中だ。彼女は開けようとして――やめていた。どうしたのかな?
「……やっぱだめ。この子汚したくないし。触れさせたくもない」
「……?」
不穏でいて意味深な言葉をつぶやいていた。
クローゼットの中にあるもの、何かを隠しているようで。
見せたくない何かを――。
今は問えなさそうだった。あまりにもリナさんの表情が昏かったから……。
「あれ……」
そういえば、と私は思っていた。直近で彼女の父が贈っていたもの、これもまた小さなクマのぬいぐるみ。高そうなそれが、どうやら無さそうだった。
「……あー、汗かいた」
「リ、リナさん!?」
リナはコートをコートラックに掛けると、服を脱ぎだしていった。私は目を丸くした。
「リナ、お風呂入ってくるから」
「そ、そうなんですか? それじゃ、私達お暇しようかなって」
さすがに下着とかは脱衣所で脱ぐみたいだけど……リナさんはお風呂に入ると。このまま残ってもだし。人様の部屋で大人しくお座りしていたリッカ、彼を抱き上げてお暇しようとしていたけれど。
「なんで? 次、あんたが入るんだけど? とっておきの入浴剤、用意してあげるし」
「え!?」
「えって何。そのあと、お泊り。あの人達も女子寮に連絡してくれてるだろうし」
リナさんが話しこんでいたのは、この件もあってのこと? もう決定事項になっていた。
「というか、お泊りですか……?」
私が尋ねてみると、リナさんは目を伏せる。
「そういうこと……そういう気分なの」
「……そうですか。それなら、一晩お世話になりますね?」
リナさん、儚い表情をしていた。私としても、なんだか今の彼女を放っておけなくて。
お泊りのお誘いだって嬉しい。私は彼女の誘いに乗ることにした。
「……うん」
リナさんは安堵の表情を浮かべていた。私も良かったって思った。
「あんたのワンコも入るんでしょ? 犬用のシャンプーとかあるよね。とってきてもらおうか?」
リナさんはお座りしている子犬にも声を掛けた。その犬はすごい顔をしていた。濡れるのが嫌いなリッカの答えだ。
「な、なに。その顔……」
「すみません。この子、あまりお風呂好きじゃなくて」
「え、なにそれ。犬ってそうなの?」
「どうなんでしょうね……? 一応、清潔にはさせてますので」
リッカは拭かせてもくれるし、お風呂にもなんとか入ってくれるようになったし。各方面からの努力もあって体毛は綺麗だった。
「……ふーん、まあいいけど。そこのワンちゃん……リっちゃん? と一緒にさ、適当に寛いでてよ」
「わふっ」
そう言われるやいなや、リッカは寛ぎだした。順応性の高いワンコだった。羨ましいなぁ……。
「……」
私はソワソワしっぱなしだった。
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