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第三章
『彼女』の素顔
リナさんは長風呂だった。私はリッカを撫でつくしながら、彼女が出てくるのを待っていた。
「――ふう。お待たせ」
「いえいえ――」
お風呂場から出てきたリナさん、私は彼女を見るも驚いてしまった。
リナさんは化粧を落としていた。濃いめのメイクの下は――別人だった。
「……素顔のこと言わないでよ。みんなの夢、壊したくないし」
「いえ、そんなことは決して……」
ぱっちりとした目鼻立ちはそのままだ。ただ、猫のような上がり目ではなく、ぽってりとした唇ではなかった。美少女には変わりなくても、こうも印象が変わってしまうとは。
繊細で儚げな女性。保護欲を駆り立てる雰囲気だ。憂うような表情は、同性だろうと見惚れてしまう。さらに――。
「あ……」
座っていた私の前に、立膝をついたリナさんが迫ってきた。艶やかな黒髪は下ろされている。伏せた瞳で綺麗で、それでいて色気もあって。
「……」
伏せられた瞳が私に向けられて――視線が重なった。
もう、リナさんから視線をそらせなさそうに――。
「……ううん」
……妙な気分になりかけていた、そんな自分を叱咤する。妙にドキドキしているのは、私だけ。リナさんにも失礼だし、困りもするだろうし。普通に、普通に応じよう。
「……そんなことないんです。綺麗です」
綺麗なのは本当だから。いつか、中等部の彼が言っていたっけ――素顔の方が好みだって。もちろんキラキラしているリナさんだっていいけれど、素の表情も私は素敵だなって思った。
「……シャーリー」
リナさんは私をじっと見たまま、複雑そうにしていた。そんな彼女は、私の頬に触れてきた。さらに顔は近づいていき、瞳が覗き込まれているかのようで。
「……綺麗。綺麗なのって、あんたの方」
「あの、リナさん……?」
私の瞳から――全身にいたるまで。リナさんからの視線が注がれていく。
「本当に綺麗……誰にも汚されてない体」
どこか眩そうに、羨望するかのように。リナさんはそうは言うけれど……。
「……いえいえ、リナさんこそ綺麗で」
「……そう」
私がそう口にしても、リナさんからの反応は薄かった。
「……お風呂、入ってきたら? 着替えも貸してあげる」
「あ、ありがとうございます……?」
着替え、取りに戻ろうとしたけれど。いいのかな? リナさん、早速タンスからいくつか取り出していた。
「……うーん、サイズが違うからなぁ。オーバーサイズのなら、いけるかな? あ、サンプルのがあったかも。それにしようかな……ん? 入ってきたら?」
私たちは身長差があったから、リナさんは探すのが大変そうだった。それでも、私が上がるまでには探してみせるからって。お言葉に甘えようかな。
「それではお借りしますね? 入ってきます。リッカ、いい子にしててね?」
リナさん、平気になったみたいだけれど。リッカも賢いワンコだけれど、一応と。リッカは承知したと尻尾を振っていた。お利口さんだねぇ。私は立ち上がって、お風呂場に向かうことにした。
『脱衣所に置いておくからね? ふふん』
浴室の扉越しにリナさんの声がした。どこか得意げな彼女、私が着られるサイズを見つけたみたい。有り難くお借りして、と。
「……」
そして、お風呂上りの今。下着の方は元々、私が着用していたものだった。それらは洗濯されていたのか、綺麗だった。なんか、そういう技術があるのかも。迎賓館特典というのかな?
……それで、パジャマというか……ネグリジェというか。私は下着姿のまま、それを手にしては上に掲げていた。
そう、可愛らしいんだ……可愛らし過ぎるというか。こんなにもラブリー過ぎて、リナさんの為にあつらえられたかのような。
「――シャーリー? 出たんでしょ? もしかして……サイズ合わなかった?」
「いえいえ、そんなことは」
お待たせしちゃってるよね。それに、このままだと風邪も引きそう……着よう。
「……」
……着よう。着ようよ、私。そんな、躊躇ってないで。
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