春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

……リナ、泳ぐね



 むわっとした熱気。ここは冬の寒さを感じさせない。深さのあるプールに、南国の植物も植えられていた。学園の温水プールというよりは、レジャー施設のそれに近い感じだった。

 私はコートを脱いで、端に寄せておいた。そこで声を掛けにやってきたのは、リナさん。

「あれ、シャーリー? 来てくれたんだ」
「はい、リナさん」

 リナさんは普通に接してくれていた。そんな彼女は水着姿だった。
 といっても、上はTシャツを着ていた。丈が短くて……おへそがチラチラと見えていたり。私は意識して目をそらしていた。
 視線が彷徨う私、足の方が目に入ってしまった。ショートパンツからちらつかせるは。

「はうっ!」

 生足。
 リナさん、肌白っ……細っ……美脚が過ぎる! わ、私はどこを見ていいのやら。

「「「いい……」」」

 皆さんも見惚れていた。声が揃うのもわかります。いいですよね、素晴らしいですよね……!

「みんなー、集まってくれてありがとー! お待たせしちゃってごめんねー」

 水着の天使は、ギャラリーたちに愛を振りまいた。ファンたちはひとたまりもなかった。

「リナね、今日はサービスしたくて――」

 ファンに向けていた笑顔が、消えていた。

「パパ……」

 それは、自分の父親を目にしたからだった。リナさんは『どうして……』って、声を漏らしていた。

「……俺はね、怒ってはいるよ」
「……パパ、リナはね」
「でも、お説教はあとでだ。芸で生きている身からしたらね、お客様の期待に応えなくてはならない。重々身に染みているからね」

 それだけ告げると、ゼンガーさんは壁に寄りかかった。後方から威圧感を出している。浮かれきっていた彼らも、すっかり大人しくなっていた。それは私にもいえることだった。
 空気はすっかり重苦しくなってしまった。

「……もう、パパなんて気にしないの! みんなー、リナに注目!」

 空元気なリナさんが、声を張り上げていた。彼女はプールサイドで次々とポージングを決めていく。

「ほらほら、みんなー?」

 リナさんは明るく振る舞っていたけれど、精彩を欠いていた。無理して笑っている、それが誰の目からみても明らかだった。

「……ていうか、泳がないの?」

 一人がそう、ぽつりと。水着を着たリナさん、場所はプールサイド。泳ぎのシーンがあっても不自然ではないと。

「……え」

 リナさんが、固まった。

「えー……? 別に水に入らなくてもよくない? 可愛いリナの水着姿だぞ?」

 それでも、彼女は笑顔でゴリ押したというか。

「そうだそうだ! 堪能できる機会なのに、そういうこというかぁ?」
「そ、そうだけど……ごめん」

 水着姿で充分だろうという周囲の声もあって、発言した人は逆に謝っていた。これで収まったと思っていたのに。

「――リナは皆に好かれているね。私も嬉しく思うよ」

 腕を組んで見ていたゼンガーさんは、微笑んでいた。相変わらずの……だけれど。

「でもね? もう、気が済んだだろ? ――なあ?」
「……っ」

 リナさんの体が竦んでいた。

「……」

 なにこれ。
 リナさんの全身に視線が降り注がれている。それは舐めまわすかのようなもので。
 簡単に掴めそうな腕も、おへそも――露わになった足、そのつま先に至るまで。

「……『俺』としてもね、晒したくないんだ。ほら、いい子だから――」

 父であるゼンガーさんが、リナさんににじり寄っていた。

「あ……」

 リナさんは……一歩一歩、と下がっていく。そうしていくうちに――もうプールの淵まで。

「……リナ、泳ぐね。トビウオのようなリナを、リナを見て……ね?」

 逃げるかのように――リナさんはプールに倒れ込んだ。

「リナさん!?」

 私は青白い顔のリナを目にしていたのに……彼女を止めるのが間に合わなかった!


 ……リナさんは浮かび上がってこない。

「……何をしているんだ、君は!」

 一歩前に出たのは、ルイ・ゼンガーだ。娘を助ける気なんだ。彼はコート、次いでジャケットを脱いでいた。

 親が助けるのなら、ファンたちは事の経緯を見守る。子を案ずる彼に任せようと。
 そう、それはそうなんだけど……だけど!

「――リナさん、助けます!」

 私の本能が衝動を突き動かした。

 ゼンガーさんより先に。私は迷っていられなかった。
 助けるのが彼ではまずい……きっと、リナさんも望んでいないって。

 私は制服のブレザーのみを脱ぎ捨て、プールに入っていった。


「……!」

 私はプールの中に潜っていった。水中でうっすらと目を開けると、リナさんの姿を発見した。気を失っているようだ。私は急いで彼女に近づき、抱えた。

「……」

 重みが……気を失った人間の重いこと。リナさんをなんとか抱えたままにするも、思ったようには動けない。


「……この」
 ゼンガーさんもプールの中に入ってきていた。彼は私を睨みつけている。おかしな話、そうだと思った。娘を助けようとしている相手、その人物をこうも憎んでいるというの?
 妬ましそうな顔をしているというの。

「くっ……」

 だめだ……この人にだけは渡せない。
 リナさんを守るように、私はプールサイドへ急ぐ。

「……ご、ごめん! リナちゃん、引き上げるよ!」
「こっち!」
「ありがとう。お願い……」

 呆然と見ていた彼らも、数名プールに下りてくれた。リナさんを引き上げ、やっとのこと、彼女を救い上げることが出来た……。

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