春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
218 / 557
第三章

ベクトルが向いているのは

しおりを挟む



「――ゼンガー一家、か」
「はい」

 温室プールでの出来事。私はリッカの夕の散歩帰りに、面談室を訪れていた。モルゲン先生に頼みがあったから――もっと踏み込んだ情報が欲しいと。
 あの一家は傍目は理想の一家――けれども、その裏は蠢くかのよう。私たちは表面しか掴めていない、限界を感じていた。

「俺の方でも探ってはいるんだ。もう少し踏み込んでみるか。そうだな……ルイ・ゼンガーはどうも狡猾だからな。中々尻尾を出さない」
「……はい」

 狡猾。そう、そうなんでしょうね……加えて、私にとっては理解が追いつかない人。

「……モルゲン先生。私、ルイ・ゼンガーさんを怒らせてしまいました。昨日の撮影会の件でです」

 どれだけ苦手意識があっても、今回の事件の被害者。できれば守れるためにも、良好な関係を得ておきたかった……。

「……昨日。ああ、水着撮影会か。うちの職員が保護者に連絡いれたんだよな。ただ、詳細が全然わからなくてな」
「はい……」

 だから、だったんですね? ゼンガーさんが参加していたのは。そういうことだったんですね。

「……シャーロット。ゆっくりでいい。何があったか話してくれないか?」

 先生は穏やかに語りかけてきた。私がゼンガーさんを怒らせたのは事実。そうだとしても、先生は私を責めることはなかった……いいのかな。

「お前が悪意があって、怒らせたわけじゃない。俺はな、ちゃんとわかっているから」
「はい……先生」

 先生が優しく微笑んでくださる……私の心は少し軽くなった。事件の顛末を話すことにした。

「――昨日の撮影会、ゼンガーさんも来ていて、それで。リナさん、急にプールに入っていったんです。彼女……溺れてしまいました。泳げなかったんじゃないかなって。それなのに……だったから」

 私は色々考えてみた。本来は泳ぎが得意なのに、意図せず溺れてしまったとか。
 それとも――ルイ・ゼンガーから逃げる為か。
 リナさん、最初は泳ぐのに抵抗がある姿を見せていた。だから、彼女は泳ぐのが得意ではない、勝手にそう考えた。ならば、やっぱり――。

 ……いえ、説明を続けましょう。沈黙が長くなってしまったから、先生もどうしたものかと見ている。

「……救助はその、ファンの皆さんのお力あって」

 私は迷ったけれど、自分が飛び込んだことは言わないでおくことに。実際、皆さんの助けがなければ、救助は困難だったでしょうし。

「先生はな、わかっているんだぞー」

 先生はそう仰った。何がわかっているのか……私もその意味はわかっていた。先生のことだから、察しているのかと。

「その……お父さんも、そうされようとしたのですが。私が、なんだろ。そうはさせたくなくて。他の人ならともかく……だから」

 先生が続きを待っている。そう、これは普通に救助活動だから。私はどうしても意識はしてしまうけれど……うん、お伝えしよう。

「私から、人工呼吸をしました」
「……そうか」

 先生の表情が一瞬曇るも、彼は笑顔になった。

「シャーロット、よくやったな。お前のしたことは立派だ」
「わんっ」

 先生も、お膝の上のリッカもそう。私の行いを肯定してくれた。

「……はい」

 私は救われる思いだった。

「話はわかった。それで、それだ。ゼンガー氏は機嫌を損ねたってことか? 娘の恩人だぞ? 理解の範疇を超えているな……」

 先生は話を聞いて、思案した。そして、提案した。

「狙いを絞ってみるよ――リナ・ゼンガーだな」
「先生……」
「可愛い教え子だからな。あまり掘り起こしたりもしたくはないがな……俺はな、彼女が要だと思っている。ルイ・ゼンガーの―ベクトルが向いてるのは――『リナ』に対してだ」
「はい」

 私も同意した。
 ……兄のケインさんとは、相変わらず疎遠のようだし。

「……月末、大晦日だよな。それよりもっと早く。何としても有力情報、手に入れて見せるからな」
「よろしくお願いします」
「ああ、任せろ」

 先生はにかっと笑った。その笑顔に私も安心した。

「くーん……」

 ただ、リッカが。彼は悲しそうに鳴いていた。

「……ルイ、悪い人なの?」
「リッカ、それは……」

 春の女神を歌え奉る一族の彼。その彼を険しい表情で語るのだから、リッカがへこむのも無理はないよね……。

「……リッカ、あのな。春の女神を大切に思うのは、変わってないと思うぞ?」
「うん……」

 リッカは沈んだ表情のまま、それでも先生の言葉を受け止めた。

「―さて。あの二人には俺の方から話しとく。ただ、あれだ。人工呼吸の下りは控えておくな」
「えっ……」
「肝ではあるだろうけどな。ゼンガー氏より先にリナを助けたことが気にくわなかった。それで十分伝わるだろうなって。あいつら勘づきそうな気もするけどな」

 今回の件は、あの二人にも共有はしておく。ただ、人工呼吸の下りは伏せておこうと。この場で留めておくことになった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。 なろうに別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。 一部加筆修正しています。 2025/9/9完結しました。ありがとうございました。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます

山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった 「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」 そう思った時すべてを思い出した。 ここは乙女ゲームの世界 そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ 私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない バットエンド処刑されて終わりなのだ こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?

甘寧
恋愛
婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。 ……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。 ※不定期更新です。

処理中です...