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第三章
嘆いてもいられないと
「―さて、本題でございます。体を動かしたことによりまして、私自身も嘆いてもいられないと思えました。ならばこそ、共有を行いましょう」
「うん、そうだね。わかったよ」
今回は予想もしていない展開だった。大晦日を待たずして、終わることになってしまった。
「……話す、うん、話すね」
リヒターさんはイベントには参加してなかった。状況が把握できてない。そうなると、より詳細に伝えなくてはならない――あの惨劇を。
「……ジェム様。お話出来る範囲で、大丈夫ですから」
「リヒターさん……」
リヒターさんは穏やかに語りかけていた。落ち着く声だ、私は一呼吸をした。
語ったのは起こったこと――前回の結末まで。
話しづらそうにしていた私を、リヒターさんは頷きながらも聞いてくれていた。
それから鳥籠の件も。私は話すことにした。
「例の鳥籠にね、一つ追加されていたんだ」
「……またですか。いえ、続けてください」
「うん。ハート型のピンクのもの。可愛い感じで、バウンドするように動いているっていうか」
「かしこまりました。本当に……難儀なものですね」
リヒターさんは眉を寄せていた。彼も考えているようだった。私もせめてもう少し手がかりを掴めていたらと悔いた。
「ああ、そうだ。ジェム様、こちらは責めるつもりは毛頭ございません。むしろ色々と判明したわけですから。躍進かと存じます」
リヒターさんは私を安心させるかのように微笑んだあと。
「――その小さい何か、でしょうか? 力を増幅させていたとしたら」
「それって……」
それが何か。小さいということだけで、どんな素材か。どのような大きさか。それはわからない。でも、それが『力を与える』代物だとしたら。
「私を引き合いに出させていただきますが――あの腕時計のように」
「!」
かつてのリヒターさんに力を与えていたもの。それと同様のものだとしたら。
どこまで繋がっているかもわからない。あの殺戮者、あの狂人も。
かつてのアルトやリヒターさんと同じであると、そういうことなの?
「……ジェム様。こちらもあくまで仮説です。私も……おそらく彼もでしょうか。重い感情はあれど、あなたへの害意は無かった。あなたを殺すなど、もっての外です」
リヒターさんはそう強調していた。
「――此度の殺人者と、鳥籠は無関係であると。それが私の考えです」
「そっか……」
執着されることは、重苦しくもあった。それにさらに、憎しみまであったとしたら。今回ばかりは完全に参っていた。リヒターさんのその言葉が救いであった。
「……まあ、鳥籠の件は今は置いておきましょうか。今回は、ルイ・ゼンガー様がお亡くなりになったわけではありません。これこそ不可解ですが、ゼンガー家を狙っているのでしょうか?」
「そうなのかな……」
リヒターさんは新たに仮説を立てていた。被害者はいずれもゼンガー家の人間。といっても、リナさんは意図せずといった感じだった。
「……しっくりきませんか? しっくりきませんか。可能性の一つとして御考慮いただけましたら」
「うん、わかった」
私もそう……一つの考えが浮かんでいた。それを口にするのは、あまりにも難しいことだった。
「それと、イベントとか――」
家の呼び鈴が鳴った。私は言いかけたところで、びくっとなった。
「ぐーぐー」
リッカは眠ったまま。警戒するような相手でもないのかな。
「ちょっと対応してくるね――はい、どなたでしょうか?」
私は玄関近くまで移動し、伺った。
「……俺。今、いい?」
「あ……うん、開けるね」
この声はアルトだった。私は扉を解錠した。
「ジェム様……?」
「ん? どうかした?」
「……いえ、なんでもございません」
どこか戸惑っているリヒターさん、彼はそれ以上は言わなかった。
「……シャーロット。あと、リヒターもいるし」
アルトは沈痛の表情のまま、お邪魔しますと入ってきた。
「はは、リッカ寝てやんの……」
アルトはソファに寄って、眠る子犬の頬を撫でた。リッカは気持ち良さそうにしていた。
「……来るの、遅れてごめんね。色々、気持ちに整理つけててさ」
アルトはカウンターの近くまでやってきていた。それでも座ろうとはしない。一定の距離を保ったままだった。
「……うん、俺さ。馬鹿なこと言い出しかねなかった――シャーロット、閉じ込めちゃえばいいじゃんって」
「アルト……」
『って、言ってるじゃん』と、アルトは儚く笑った。彼は今にも泣き出しそうだった。整理つけたとは言っていたけれど、今でもその思いに引きずられているかのような。
「ほら、リヒターもさ。何抜かしてるんだとか。それじゃ意味ないだろとか。言ってくれちゃってよ」
アルトはいっそ罵ってほしそうだった。リヒターさんなら理路整然に叱ってくれるだろうと。
アルトはそうしてほしかったのに。
「ご期待に沿えずにですが、私は申しません。お気持ちは……重々理解出来ますから」
「はは……なにそれ」
アルトは溜息をついた。
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