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第三章
リナ先輩に近づき過ぎたから
「えっと、話進んでいたりする?」
アルトは立ったまま、話を聞くことにしていた。
「はい。後程共有させていただきます。して、ジェム様? イベントのことを話されたかったのでは?」
そう、それ。私が言いかけていたもの。私はうん、と頷いた。
「あー……つか、もうイベントどうこうとかじゃなくてさ。シャーロットが……憎いんでしょ、奴は」
アルトはそう言ったあと、『あ……』って申し訳なさそうにしていた。はっきりと言ってしまったことに対してだった。それでも彼は続ける。
「憎い理由だってわかりっきってる。シャーロットが、リナ・ゼンガーに近づきすぎたから」
妬み嫉みが原因だと、アルトは断言していた。
「アルトじゃなくて私が……」
「うん。俺とリナ先輩、あからさまだったでしょ。ビジネスカップルだなって」
「えっ」
アルトは淡々と言っていた。私が驚くと、何で驚くのかと彼は不満げだ。
「そういうとこ、ほんとシャーロットなんだから。まあ、俺が誘いを受けたのもあるだろうけど。それもさ……あの人、どうみても俺に恋とかしてなかったし。目とかほんとそれ」
アルトがリナさんの瞳を覗いていたことがあった。アルトはその時に改めて実感していたんだ。これまでのアプローチもどこか本気でないと思いつつ、その時で確信を得たようだった。
「……シャーロットもさ、距離近づけようって頑張ってたし。じゃ、俺もってなるじゃんか」
アルトは私を労いつつも、渋い顔をしていた。それは、リヒターさんも同様だった。
「……ジェム様が近づきすぎた故に、でしょうか。その通りかもしれませんね」
「そうそう。君がリナ先輩の心に寄り添って、それで先輩も心を開いた。こう、見てるこっちも妬きたくなるくらい。それくらい、近づき過ぎたんだ」
この二人は急に結託しだしていた。通じるところでもあるのかな。仲良くなった?
「……近づきすぎたか。私もね、リナさんのこと好きだなって思ってた。でも、それが余計に拗らせていたとしたら」
今度こそ、リナさんとの接触を控えるべきなのか。私は思い悩んでいた。
「なにそれ羨ましい……いやいや、それどころじゃないし。普通にしている分にはいいんじゃない? ……俺もね、お友達ってのは微笑ましいと思っているから。ほんとそれ」
「やはりアルト様は甘いですね。過度の接触は控えるべきかと存じます。とはいえ、過度は過度。あなたの存在がリナ様の支えになっているかとも思われます。適度な交流ならば、問題ないかと」
「そっちだって甘いだろうが。でも、いいけどね。意見は一致しているから」
「あなたには言われたくありませんが、意見は一致はしておりますね」
仲良くなったわけではなく、いつもの言い合いだった……私は困りつつも、リナさんとの関係を反対しなかった二人には感謝していた。
交流イベントについては、リナさんと必要以上に関わらない。中止してもらうのも考えた、だけど。
「……あの人、サプライズって言ってた。元々来るつもりだったんだ。リナさんがいる限り、また来るかも」
あの位置だったからこそ、私は聞き取れた。熊の着ぐるみを着ていたという、浮かれっぷりからして、当初は彼女を驚かせる目的だったと思う。
それだけ、リナさんに深い感情を抱いている相手。怪しき人物は――。
「――ルイ・ゼンガーさん」
私は声に出していた。二人は一瞬だけ驚くけれど、異を唱えることはなかった。
「……ん、まあね。相当、娘を溺愛しているよね」
「はい。過保護なまでに――それ以上ともいえるような」
納得がいくと、そんな反応だった。疑いを持つのはよろしくないかも、だけど。次々とピースが嵌まっていく気がしていた。
「私、ルイさんを怒らせてしまってたことがあった。モルゲン先生から聞いていると思うけど」
「なにそれ聞いてない」
「聞いておりませんが」
彼らの声が綺麗に揃っていた。先生……てっきり共有してくださったかと。うん、でもお忙しかったのかな。仕方ないよね。
「私もね……考えていることがあって。それこそモルゲン先生もなんだけど。あのゼンガー一家には何かあって。私に憎悪をぶつけてきているのは――」
――ルイ・ゼンガーではないか。
「……」
あとは、兄であるケインさんが気になる存在だった。彼はところどころで現れてくる。距離をとっていた、と耳にしたはずなのに。
といっても……そのようなこと、する人かな? ケインさんこそ、ほぼ面識もないのに……。
「はあ、ありえねぇ……君みたいな子に対してさ。まあ、人それぞれだし。よし、ここで改めて共有しとこっ! 俺の方で、兄貴に伝えてとくからさ」
兄に対して冷たくはあっても。アルトはそういうこと、ちゃんとするんだよね。私も信頼していた。
「かしこまりました。正直……頭がおかしくなりそうです。我々はルイ様の加害者を追っていたはずが、そのご当人が容疑者の一人にもなっているのですから」
リヒターさんも改めて整理したいと、腰を据えて話し合うことにしていた。
いつもの面談室ではなく、シャーロット・ジェムの自宅にて。これからの作戦会議をすることになった。
「うん、よろしくね」
モルゲン先生には改めて共有しておこう。
あとは――温水プール事件についても。詳細に語れるのは、この場では私くらいだから。人工呼吸の件はくだりは省くとしても、できるだけ詳しく――。
「アルトの匂いがするー」
起きてきたワンコがやってきた。彼は鼻でクンクンしていた。次に、お腹を鳴らしていた。
「そうだよ。アルトも来たんだよ。そっか、もうお昼だね」
「わんっ」
涎をたらしたリッカが待ち遠しそうにしていた。ここから学園まで歩くことになる。昼食をとって、都に立ち寄り、それから学園へと向かうことにした。
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