春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

『リナ』は歌は上手かったから




 昼下がりの木々はまた別の景色だった。日差しを浴びて、鈴がキラキラと反射していた。私が綺麗と呟いたその先に――。

「……!」

 外れの方にある木。そこにもたれかかっていたのは。ツインテールでメイクも決まっている美少女。制服も彼女ならではの独創性のもの――リナ・ゼンガーがそこにいた。

「……」

 今すぐにでも彼女の名を呼びたかった。けれども踏みとどまる。

「――」

 リナさんは歌い出していた。一度聞いたことある歌声だった。透き通るようで、優しい音。聞いていて心地良い音だった。

「……下手くそ」

 リナさんはすぐに歌うのを止めた。彼女は自分の歌声に毒を吐いていた……あんなに上手なのに?

「……おーい、そこの子? リナのファン? 黙っていられるの、怖いんだぞー?」
「す、すみません……」

 私の存在に気がついたのか、リナさんは愛らしい顔で笑う。ニコニコしながら、彼女は近づいてきた。
 目の前に立ったリナさんは私を見上げた。

「でも、見ない顔だしー? あー! 編入生の子、ってとこ? わあ、リナったらかしこーい! ぜったいせいかーい!」

 リナさんは一人で拍手していた。

「あの……」
「そんな緊張しないのっ! あ、リナがあまりにも可愛過ぎるからぁ? それなら、理解できるかも。リナってば、世界一可愛いからっ!」
「その……」

 今度はウインクと決めポーズだ。
 私はたじろいでいた。リナさんは生きていた。その彼女に逢えたのはとても嬉しい。ただ、胸も痛くなっていた。
 このリナさんが。目の前にいる彼女があまりにも。

「……なによ、なんか言ってよ。あんたまで、そうなの? あんたまで、私が――リナじゃないっていうの」

 あまりにも、悲しそうだったから。

「そんなつもりはないです。上手く反応できなくてごめんなさい……」
「別にいいけど。こっちも見ず知らずの子に――」

 リナさんの目は大きくなった。私を見ている。

「あんた……」

 その目で私をあますことなく。凝視されていることに、こちらは落ち着かない。

「……ううん、気にしないで」
「はい……」
「――ね、あんた暇なんでしょ。こんなところに一人で来るくらいなんだから。話、付き合ってよ」

 リナさんは片方の腕だけを掴み、私を引っ張っていく。かなり強引だった。

「あの、私は……」

 リナさんは引っ張り続けている。強引でいて――その力は実際には強くない。私は振り払うことだってできたのに。

「……ちょっと、愚痴りたい気分になっちゃった」
「愚痴、ですか……?」
「そういうこと……いいよね?」
「……」

 私には。

「……私でよければ」

 私には、それが出来なかった。リナさんは弱っていた。どうしても放っておけなかった。

「ありがと。そうそう、私の名はリナ・ゼンガー。『リナ』は学園のアイドルで皆の人気者なの」
「……はい。私はシャーロット・ジェムといいます。編入生です。よろしくお願いします」
「……シャーロット・ジェム。うん、よろしくね」

 鈴の木の下で、二人は並んで立っていた。肩が触れ合う距離で。

「そんなリナがね、今日ダメ出しされちゃって。ファンのみんながね、リナの歌声を聴きたいって。リナは応えたんだけど……」

 ――思っていたのと、違うって。リナさんは涙声ながら、そう口にしていて。

「それは……」

 胸が苦しくなった。繰り返しの日々、それは。記憶としてはなくても、積み重なる思いのようなものがあったから。
 ファンが向けるリナさんへの疑心、それが引き継がれていたとなると……苦しくて。

「わかるけどね……『リナ』は歌は上手かったから。父の才能も継いでいて」

 リナさんは喉元に手をあて、口ずさんでいた。私からしたら、とても素晴らしいものだ。それでも彼女自身も、その場で聴いていたファンからしても。

「まずいって思っちゃって。こうね、リナらしく可愛く謝ってみたんだけど。もう……大ヒンシュクでさぁ……」

 リナは思い出したのか、体が震えていた。

「急に……だったから。なんでこんな急に怒りだすのかなって……」

 繰り返しの日々の中、大抵の人は記憶が消えている。リナさんも例にももれずであって。

「……うん、私が怒らせたんだ。このままじゃいけないよね。無理やり解散させちゃったから、明日、仕切り直す」
「……そうですか。はい、待ち望んでいると思います」

 私もそうだと信じたかった。その返事を聞いたリナさんの顔はどこか安心していた。

「……ん、ありがとね。私、背中押して欲しかったみたい。じゃ、行くわ」
「はい」

 リナさんの気分は少しは晴れたようだ。私はそこまで力になれたかはわからない。彼女としては話を聞いてもらえただけでも、後押しになったのかな。
 しっかりとした足取りで去っていくリナさん。私は見守っていた。

「大丈夫なはず……」

 そうだと思いたかった。明日には撮影会を再開でもして、また明るいリナさんを見せてくれるはずだと。




「リナちゃんの撮影会、明日再開だってよ」
「良かったぁ……心配してたんだ。リナ様、これでもう大丈夫なんだよね……?」

 学園長室に訪れた帰り、ファンたちの噂話が聞こえてきた。うん……良かった。みなさんも気にしていたんだ。

「……」

 私は大丈夫だと信じ、明日の撮影会に備えることにした。
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