春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

『妹』と『兄』



 仕切り直しの撮影当日。早目に現場についた私は、とんでもない事実を目の当たりにしてしまう。

 ――リナさんが来ていなかった。

 誰もが動揺している。昨日の件に続いて、今日もだった。

 リナさん本人がいないということで、今日もその場で解散となってしまった……。

「リナちゃん……傷ついていたよな」
「ごめんなさい、リナ様……」

 いつものファンの皆さん、彼らは純粋にリナさんのことを心配していた。それでいて、只事ではないと察知していた。彼らは捜しに行こうとしている。私も行こう……!

「……?」

 散り散りになっていく、ファンたち。そこに紛れて立っていたのは――兄のケインさん?

「……何やっているんだ、あいつは」

 私は穏やかな物腰の彼しか知らなかったから。あんな、顔を歪ませているような――。





「―おっと、すれ違うところだった」
「モルゲン先生」

 撮影場所から移動していたところ、だった。向こうからやってきたのはモルゲン先生だ。

「……リナ・ゼンガー。行方不明だそうだな。彼らが騒いでいた」
「……はい」
「それでだ。待たせたな、調査の結果が出た」
「調査って……先生、前のお話のですか」

 前に先生がゼンガー一家の調査の話をしていた。そして、リナ・ゼンガーに狙いを定めると。
 ――リナさんの件だった。

「ああ。『前』から伝手を辿ってな、ようやくだが、とある情報を手に入れた。彼女は……そこにいる可能性が高い」
「!」

 ここでは、ということで。先生は目的地に着いてから詳細を話してくださると。

「案内する。行くだろ?」
「はい。よろしくお願いします」

 そこそこ歩くと、先生は仰っていた。断る理由なんてありません。先生の案内でリナさんを追うことになった。






 先生の手配により、途中までは馬車で移動していた。森に入った途中で、私たちは降りることになってしまう。険しい獣道が続く。馬車も入れないほど、細く入り組んだ道だった。

「ここは……」

 私は目を見張った。薄暗い森の中、朽ちた小屋があった。人が何年も住んでないかのような状態でもあった。

「ここはな、『彼女』の生家だ。当時の写真を見た限り、昔はもっと普通だったがな。まあ、何年も住んでいないとなればな」
「……彼女って、リナさんのですか? 先生、それって」

 私は混乱しそうだった。あれほど裕福そうな彼女の家だというの? 昔は苦労があったかもしれない、そういうことなのかな……ううん。
 そうなると、ゼンガー一家と言っていいはずなのに。先生はわざわざ彼女のみで告げていた。

「あ……」

 私が振り返るのは――顔だった。
 よく似た父と息子。娘であるはずの彼女も、似てはいた。ただ、それは化粧で塗り固められた時の話。私は彼女の素顔を見ていた。
 ゼンガー家の顔とは違い過ぎる、その素顔を。

「ああ、彼女は――」
「……驚きました。先客がいたとは」

 雪を踏みしめる音がした。ケインさんだった。

「ケイン、お前……」
「……『兄』ではありますから。知っていて当然でしょう。もっとも、先生がどのような手段でここまで辿り着いたのか――考えるだけでうすら寒くもありますが」

 ケインさんはモルゲン先生を一瞥すると、横を通り過ぎる。ガタが来てる家の扉を叩く。

「……いるんだろ。なあ、わかっているんだよ。皆さん、待っているんだぞ」

 最初は優しくノックしていた。

「『リナ』、なんだろ? ほら、いつまでそうしているんだ?」

 でもそれは次第に……力任せになっていって。

「ほら、出て来いって……ああもう!」

 何度も何度も乱暴に叩く。しびれを切らしたケインさんは、ドアを壊す勢いで開けようとしていた。
 扉は強固なまでに開かない。すぐに壊れそうな扉なのに、びくともしなかった。これはまるで。

 ――彼女自身が拒んでいるかのようだった。


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