春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

『リナ』は無敵だから



「――ふう、すっきりした」

 しばらく泣いていた彼女、私を抱きしめる腕を解いた。

「よっと」

 座り込んだまま、持ってきたバッグを手繰り寄せた。中に入っているのは、メイク道具。手鏡を片手に、手慣れた動きで施していく。メイクが終わると、いつものツインテールも結わえた。私はその様に見惚れていた。

「――はい、リナちゃんかんせーい!」

 いつものリナ・ゼンガーがそこにいた。

「あの、エマさん?」
「エマさん? ……じゃないっての。リナでーす。みんなだいすき、リナちゃんです!」

 彼女はウインクとポーズを決めてきた。いつもの彼女がそこにいた。

「……はい、リナさん」

 今は彼女が望むままに。だからこそ、リナさんと呼ぶことにした。

「なんか、武装みたいですね」

 私はそう思ったんだ。そうやって自身を奮い立たせていたんだって。

「ははっ、なにそれ。でも……そうかもね。『リナ』は無敵だから。『私』を守ってくれてるの」
「そっか、素敵ですね」
「でしょ?」

 彼女は不敵に笑う。そして、私より先に立ち上がった。

「……お兄ちゃんも、モルちゃん先生も待たせているから。行こ?」
「はい」

 リナはしっかりとした足取りだった。また、リナで在ろうとしているのでしょう――。





 家から出てくると、私は仰天した。泣いているのは、ケインさん。宥めているのが、モルゲン先生だった。

「……ごめんなさい、エマさん。俺は、リナが大好きだったばかりに……あんな酷い態度を」

 ケインさんは彼女の本当の名を呼んだ。ひとしきり謝り続けていた。顔をぐしゃぐしゃにしながらだった。

「もーう、お兄ちゃん」
「いてっ!」

 リナさんはずかずか近づいて、ケインさんの額にデコピンをした。

「リナはね、リナなの! ……こっちこそ、ごめんね? リナがあざとらし過ぎると、可愛さ限界突破で、みんな困っちゃうのにねー?」
「えっと、エマさん……?」
「……私の方がね、望んでいたんだよ。当分はね、リナなの。だからね、お兄ちゃん? これからもそういうことで、ね?」
「いいんですか……いいのか?」

 まだ飲み込めてないケインさんはこのくらいにして。今度は先生にも向ける。

「モルちゃんさー、生徒のプライバシーに突っ込み過ぎ。ま、リナは優しいから。今回は許してあげる!」
「……お前はそれでいいのか」

 先生は尋ねる。それは、プライバシー侵害のことか。それとも、リナで在り続けることか。

「んー? 何がかなぁ? さー、帰ろ帰ろ」

 リナさんは体を伸ばすと、さっさと歩き出す。

「そうだっ!」

 と、振り返った。

「ねーえ? ――今日、泊まりにきてよ。色々話したいことがあって」

 それは私に向けてだった。

「……それは、シャーロットさんにも迷惑じゃないか?」

 ケインさんが遠慮がちに止めようとした。急すぎる話でもあると。

「えー、なんでー? リナとこの子、『オトモダチ』だもん。迷惑なんてことある? ねーえ?」
「ええ、迷惑ってことはありませんが……」

 私がそう答えると、リナさんは、より笑顔になった。

「……おい」

 先生も制止しようとしていた。彼なりに思うところもあるようだった。
 それでも。私は……私はただ、『彼女』に吸い寄せられるようだった。

「……はい、今夜は大丈夫です」
「ふふ、良かった……あのね?」

 彼女の目は蕩けきっていた。その瞳はうすら桃色がかっていて。

「……私、本当に嬉しかったの。私を助けにきて、受け止めてくれた。ありがとね――シャーロット」

 私の名を呼ぶ彼女。愛しさが込められていた、それに――私までも満ち足りた気持ちになっていた。
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