春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

染められる日々③




 放課後の撮影会。気まずそうにやってきたのはケインさんだ。リナさんに腕を組まれて彼はやってきていた。来てくださったんだ……。

「あの、シャーロットさん。昨日はすみませんでした。それでその……」

 ケインさん、動揺を隠せないのか、目が泳いでもいた。

「もう、リナだってば。この子もリナなの!」
「ええっ……?」

 ケインさんはますます混乱していた。

「あの、リナなんです。私も」
「私、じゃない。一人称は、リナ!」
 リナさんはすかさず指摘してきた。そうだった、リナだった。

「……とにかく。リナは良かったの? 水着姿もそうだけど、そもそも」
「もうお兄ちゃん、心配性なんだから! リナ、ちゃんと泳げるよ?」
「いや、だって……」
「ほら、お兄ちゃん。早く早く」

 リナさんはぐいぐいと引っ張っていった。



 温水プールにて、リナさんの撮影が開始していた。ケインさんは目を見張っていた。プールに入った彼女は、見事な泳ぎっぷりだった。『リナ』のように、優雅に泳いでいたのだ。

「お兄ちゃん? ちゃんと見ててねー?」
「う、うん」

 ケインさんはまだ信じられなかった。泳ぎ方も、リナ、妹そのものだった。水の中を人魚のように泳ぐ、妹を彷彿させるものだった。

「ああ、リナだ……」

 次第に、ケインさんも違和感がなくなっていく。彼は夢中になって妹の姿をとらえていた。
 ファンたちもそうなんだ。ここ数日騒動があったものの、今ここにいる彼女は輝きを取り戻していた。

「素敵……」

 ここにいるのは、リナ・ゼンガーだ。無敵で超絶可愛い、リナ・ゼンガーなんだ――。




「ふう……」

 今日もリナさんの部屋に泊まっていた。お風呂上りの私たちは、素の顔に戻っていた。

「今日の入浴剤良かったぁ。リピしよっと。私、夜食作るけど、何食べたい?」

 リナさんは料理上手でもあった。ヘルシーでいて絶品の料理もごちそうしてくれていた。

「えっとね、リナはね――」
「……シャーロット。二人きりの時はいいから」
「あ……」

 そうだったと私は思い直した。リナでいるのは、あくまで外にいる時だけ。狼から身を守る為の武装。二人の時には必要ないことだった。

「……いいんですね。普段からこうしてないと、なかなか身につかないかなって」
「ふふ、不器用な子」

 リナさんは愛しそうに笑った。そして、自身より背の高い私を抱きしめた。

「あのね、あんたの為だからね――リナでいたらね、何も怖いことなんてないの。あんただって、わかってくれるでしょう?」
「はい、わかります。リナさんはそうですよね」

 リナさんであることを望んでいたんだ。リナであることを強要されていたのではなく――彼女がそうであると望んでいた。ずっとそうだったんだ。
 未だに何を怖れているのか知らない。ただ、それがリナさんにとって必要だとよくわかっているから。だからこそ、やめさせるなんて望まない。

「……もう、私だけじゃないの。あんたもだってば。……本当にもう、シャーロット。自覚もってよ。狼たちが舌なめずりしてるの、気づいてないの?」
「私は……」

 私の脳裏に浮かぶのは、『彼ら』と共に過ごした日々。欲望をぶつけられ、溺れ、そして怖がりもした日々のこと。それでも、彼らは今でもそうなのかな……?
 リナさんが抱えている闇はわからない。でも、私自身はそうなのだろうか。

「……なに、シャーロット? 誰かのこと考えてる? やっぱり、思い当たるんでしょ」
「いえ、そんなことは……」
「……ふん、むかつく」

 リナさんはきつく抱きしめてきた。少し苦しくなった。




 イベントまでの日々、リナさんとほとんど過ごしていた。瓜二つの二人。言動までもそうだった。背の高さや体格の違いなど、些末なこと。

 大抵の人たちは区別がつかなくなっていた。

「……?」

 アルトやリヒターさんが話しかけてくる時、私の頭は朦朧としていた。

「……」

 時折彼らが見せる表情に、引き戻される時もある。自分がシャーロット・ジェムであると。
 その度に。

「ほら、散った散ったー。その子、リナのなんだからねー?」

 その度に――リナさんのものということ。

 そして、自分が――リナであるということを。

 思い知らされる。




 このまま、リナでいられたなら。もう、こわいことなんてない。

 コンプレックスの固まりだった、自分に戻ることもない。

 意識が塗り替えられていく。そして、リナに染め上げられていく――。



  溶けない雪のようだと。そう言っていたのは誰だったか。

 唯一溶かしてくれるというなら。終わりを、結末を迎えられるとしたら。

 それは、彼女に溶かしつくされること。彼女との未来を選ぶことなのでしょう――。

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