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第三章
染められる日々④
朝と夜のリッカの散歩はそのままだった。大抵リナさんも一緒にいるけれど、今日は違っていた。
「へっへっへっへっ」
この日ばかりはリッカは嬉しそうだった。尻尾を振りながら夜道を歩いていた。こっちも上機嫌になって、今日あったことを話す。
「――それでね、リナはね」
「……くーん」
リッカの尻尾は垂れ下がった。
「……シャーリーはね、シャーリーだよ」
リッカは人語で話しだした。人の目もあるかもしれないのに。リッカ、どうしてそんなに必死なの……?
「あのね、リッカ。リナはね――」
『リナ』にはわからなくて……まだ話そうとするも。
「シャーリー……」
この子犬はとても悲しそうな顔をしていた。見ている側が切なくなるほど――。
「あ……」
……違うって。私は頭を抱えた。私はシャーロット・ジェムでしょうが……!
まただった。正気に戻っては、また意識をとられて。そして、正気に戻って。それの繰り返しだった。
「……」
ただただ苦しい。いっそ、このままリナに染まってしまえば――。
「……私は、何をしているの」
私はリッカを見た。楽になろうとした自分を責めていた。
何より、このかけがえのない子を悲しませていたこと。リッカもそう、心配してくれていた彼らだって。
「……リッカ、私は大丈夫。私はシャーリーだよ」
イベント当日となった。寮ではなく、迎賓館を使っての開催となった。日頃訪れることもないので、一般の生徒たちは興奮していた。
大半がリナさんのコスプレをしていた。一部だけを取り扱った人もいる。照れもあったり、でも楽しそう。
リナさんも一人ひとりに歓迎の言葉をかけていた。彼女は本当に嬉しそうだった。
鈴の鳴る木の行き来は自由だった。そこもロマンチックにライトアップされている。私もリナさんに連れられて訪れていた。
「――ところでさ。アル君たち見かけた? アル君とか、あんだけ張り切っておいてねー? さては、逃げたなー?」
「アルトは、ちゃんとやります。遅れてるかもしれませんね」
「……なに、なんなの」
恰好はリナのまま、でも、言動は私そのものだった。
「あのさぁ……」
リナさんは訝しむ。
「ねえ、最近変だよ? ちゃんとリナでいようねって、そうしようって」
「……」
リナさんは私の腕を掴んできた。私を思ってのこと、それは私にも伝わっている。だからこそ、心苦しい。
「リナさん、私は――」
私が言いかけた時だった。
「――はは、はははははははは……」
「!?」
にじり寄るかのように、ふらつくかのように。こちらにやってくるのは――熊の着ぐるみだ。あの狂人がまた、近づこうとしていた。
私はリナさんを庇おうと前に出る。そして、狂人の背後にいる存在を確認した。
「……うん」
リナさんのコスプレというよりは、ゴスロリ姿のアルト。そして、コスプレ免除してもらったリヒターさんが控えていた。
彼らはすぐにでも捕らえようとしていた。もう、同じ過ちを繰り返さないようにと。私は彼らを信じ、リナさんを守ることに集中した。
「なーに? ……邪魔なんだけど!」
リナさんが気づくといなや、指を鳴らした。現れたのは巨大なぬいぐるみたち。
「えっ!?」
闖入者である着ぐるみは、狼狽していた。自分よりも一回りも大きい存在に、怖れをなしていた。そのまま後ずさりをしようとまで。
「……えっと、とりあえず? 捕まえます」
「ぐはっ!」
あまりの情けなさに、アルトも何ともいえない状態だった。といっても、前回のこともある。油断はせずに一気に闖入者に打撃を与えて、拘束していた。
「え、雑魚い……」
アルトはそう言わずにはいられないようだった。前回の彼は一瞬にしてやられた。どれだけの強靭な狂人かと思いきや、今回は勝手が違っていた。一般人そのものだった。
「くっ、離せ、離すんだ……!」
とはいえ、抵抗は激しかった。かなりの腕力の持ち主でもあったよう。
「リヒター」
「はい、外します。失礼します」
互いに目配せした彼ら、リヒターさんの方で頭部を取った――そこに現れるは、正体。
「な、なにを勝手なことをしてくれるんだ! 俺はただ、驚かせようと思って!」
「……ルイ・ゼンガーさん」
熊の着ぐるみの正体は、ルイ・ゼンガーだった。しかもご丁寧に、ツインテールのカツラ、そしてリナさんっぽいメイクまでしていた。相当仕上げてきていた。
いきなり弱体化、ううん、本来の力だったのかも。とにかく、前回も彼である可能性が高かった。
「ああー……」
「……でしょうね」
やっぱり。アルトとリヒターさんは同じ感想を抱いていた。
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