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第三章
染められる日々⑤
「で? 先輩のパパさん? ……なに、してくれちゃってんのかな? ねえ?」
「ひいっ」
アルトは静かに怒りを滲ませていた。今は被害者面をしているこの男が――私たちを殺めたのだから。
「……アルト様。お気持ちはわかります。ですが、抑えてください」
周囲にいるのは自分たちだけではない。それに、今のルイ・ゼンガーは何もしていない。驚かせたにしろ、危害を与えてない……今は。
「……くそっ」
アルトは忌々しげにしつつも、ここは大人しくすることにしていた。といっても、ルイ・ゼンガーの拘束は解かないまま。
「……ふん、俺はサプライズにやってきたに過ぎない。なあ、リーナ? パパ、張り切ってきたんだよー? どうかな、リナ?」
「パパさぁ……」
ルイ・ゼンガーは猫撫で声で話しかけていた。リナさんが近づいてきたこともあり、より彼の顔は恍惚とした表情となった。
「ああ、リナぁ……」
「うけんね、笑える。撮ったろ」
「……リナぁ?」
「そうそう、視線もっとちょうだい。国民的歌手の無様な姿、きゃはっ、リナ撮っちゃった」
リナさんは淡々と撮影していた。娘のコスプレをした、着ぐるみも着た、拘束された人を。
「……リナ、何をしてるんだい? パパ、危険な状態なんだよ? パパ、ピンチなんだけどなぁ? こんな乱暴な若者にやられそうなんだけどなぁ!?」
「……ふざけんなよ」
「……リナ?」
……ドス黒い声を出したのはリナさんだった。うってかわって、高めの声を出す。
「そいつらはどうでもいいし。顔も撮ってないから――つってもね、はい退場ー」
「うわっ!」
「!?」
アルトとリヒターさんを軽々と持ち上げたのは――ぬいぐるみたち。腕を抱えられ、引きずられて退場されていく。
「アルト! リヒターさん!」
「……だから、なんなのよ――今はいいけど」
追いかけようとした私を、リナさんは面白くなさそうにしていた。でも、今はそれよりと、ルイ・ゼンガーにもぬいぐるみ数体をあてがう。
「ソイツもつまみだしといて」
「リナ!」
ルイ・ゼンガーの叫びなど、リナさんは聞き入れもしない。命令を受けたぬいぐるみは、乱雑に彼を引きずっていた。彼の顔が擦り切れようと、お構いなしだった。
「あはは、あはははははは! いい気味……ざまあみろ」
滑稽な姿に、リナさんは指をさして笑っていた。
「……リナさん、一つよろしいでしょうか」
私は……彼女を遠くに感じていた。高らかに勝ち誇ったような彼女が。それだけでなく、気にもなっていた。
「もう、言い方! ……いいけど。リナは優しいから! うっかりさんなあんたも許してあげる!」
リナさんは頬を膨らませていたけれど、すぐに笑顔になった。私の近くに戻ってきた。
「ね、見たでしょ? リナ、とっても強いんだから! あんな男、目じゃないの。ふん、ざーこ、ざーこ!」
「……リナさん、その力。いいんですか?」
「もう、さっきから……あ」
リナさん、今になって気がついたんだ……。
それは、『エマ』の力のはず……隠さなくていいのかなって。周りも戸惑っている。リナ・ゼンガーにそのような能力とか結びつかないでしょうし。
「……えっとぉ? リナが可愛いから、ぬいぐるみさんが守ってくれたの!」
えへっと極上のスマイルを見せた。周辺にいた彼らはそれなら仕方ないと、虜になっていた。
「――リナはね、可愛くて無敵なの。もう、あんな奴なんてこわくない……」
「リナさん……」
「こわくないんだから……」
彼女の桃色の瞳が、妖しく光った。それでも私はどうしても気になってしまって。
強い、無敵と連呼する彼女の瞳が揺らいでいることを――。
「んん……」
その日の夜。私はベッドの中、微睡んでいた。
「あーあ、大熟睡中……なんだから。今日一日、色々やろうと思ってたのに」
ぎしりとベッドが弾む音がした。リナさんがベッドに乗ってきたのかな……私の黒髪を撫でてもいる?
「……ま、いいけど。こっちはこっちでやらせてもらうから」
朝が訪れて、昼になり。やがて夜になる。時間の感覚が無いまま、過ぎていく――。
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