春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

――えっと、私。わかるかな?





「……うん」

 私は鳥籠の夢に戻っていた。ドールハウスを模したそれはそのままだ。扉にあるハート型の錠前が大部分をしめていた。
 大きくなったそれは、もう攻撃することなく静観しているようだった。何も怖れをなしてないかのように。

「シャーリー!」
「リッカ!」

 暗闇から姿を現わしたのは、白い子犬だった。彼は鳥籠に突進するかの勢いでやってきた。

「フガフガフガフガ」
「リッカ……?」

 リッカは来るなり匂いを嗅ぎまくっていた。相当だった。

「シャーリーの匂いだぁ。僕、全然わからなくなってたの……」
「そっか……」
「でも、シャーリーに逢えた! 良かった!」
「うん、私もだよ……!」

 リナさんを一人遺してしまったけれど、こうしてリッカにも逢えた。

「……うん」

 彼女はまだ、捕らえようとしたままだ。鳥籠がそうだから。

「……リナなの。ルイだけでなくて、リナも悪い人? 僕、何も出来なかった」
「リッカ、それはね……」

 リッカも預けられた時に、彼女が正気でないと悟ったんだろうね。ただ、そうした時もリッカは何も出来なかったって、そう泣いていたリッカだったけれど。

「でもね、シャーリィは戻ってきてくれた。僕、今度こそ頑張るから」
「リッカ……」

 リッカは頼もしい表情を見せてくれた。私も頼りにしていると頷いた。




 自室のベッドで目を覚ました。見慣れた部屋に私はホッとした。

「うー……」

 まだ夜明け前。それなのに、ベッドから下りていたリッカが唸っていた。階下の玄関に向けてだった。

「……行ってくるね」

 アルトたちではないよね……リッカが警戒するくらいだから。無言で私のあとをついていく。

「どなたでしょうか」

 私は扉の向こうの相手に尋ねた。

「――えっと、私。わかるかな?」
「……」

 私はすぐにわかった。エマ――リナさんだ。夜明け前ということで、彼女は声は潜めていた。
 まず、この時点で来るのはおかしい。彼女は私に出逢ってすらいなかったのに。

「……おはようございます」

 私は扉を開けた。そこにいたのは、いつものツインテールに化粧ばちばちな彼女だ。
 ――ついさっきまで共にいた少女だった。私は結局、その後彼女がどうなったのか、わからないままだった。

「……やっぱ実在してたんだー。あ、私。リナ・ゼンガーでーす。で、あんたはシャーロット・ジェムでしょ? 合ってるよね?」
「えっと……?」
「って、そこの看板にもあるっつうの」

 リナさん一人ではしゃいでいる。私は要領を得なかった。

「あ、ごめん。あのね、夢に出てきたの。私はね、あんたのこと知らないはずなのにね。でも、とても……大事に思っていた」

 リナさんは愛しげに語っていた。

「……そんな子がね、殺されたの――ルイ・ゼンガーに」
「……」
「やだ、夢だってば夢。でもね、やけにリアルで。私も……もう殺したくなっちゃって」

 夢だと笑い飛ばしていた彼女が、底冷えするような目をしていた。

 私は『あれから』彼女はどうしたかはわからない。あんなお膳立てされた状態で、憎き男がいた。何が起きてもおかしくない状況。だとしても。

「……信じてます」

 私はそう伝えた。

「ふん……何がよ」

 リナさんにとっては、そうなのでしょう。何が信じるのか。突拍子のない言葉だって。

「信じてますから」
「……だから、何が」

 リナさんは私のことを見られなくなっていた。話題を変えることにしたみたい。

「――ところでさ? あんた、その恰好地味じゃない?」
「……ええ、そうだとは思います」

 寝起きそのままだった。日頃の服装もそうだといえた。

「でしょ? ねーえ、シャーロット? リナがね、もっと可愛くしてあげる。髪の毛もさ、ツインテにしてさ? そのお顔も、メイクでもっと映えさえるし! せっかくスタイルもいんだからさ――」

 リナさんは品定めしてきた。私は彼女の意図がわかっていた。彼女はきっと『リナ』の姿をさせようとしている。

「……別人かぁ」

 憧れないわけではない。私もね、そうだったんです。『リナ』の恰好でいられた時は強くなれた気がしていました。強めのメイクが、私の気持ちを引き上げてくれていたんです。
 それでもです、それでもなんです。

「……それでも。私、この姿でいたいんです。私は、シャーロット・ジェムです。そして、リッカ。この子と一緒に暮らしたい」

 私は威嚇し続けている子犬を抱っこした。驚いたリッカは、大人しくなった。え? え? と私の顔を何度も見ていた。

「あなたが『リナ・ゼンガー』として、生きる。それは否定はしません。でも、私はそれは望まない。私は――」
「……」
「私は、あなたじゃない。あなたにはなれないから。リナさんにとって、私は代替品だったの?」
「……」

 リナさんは唇を噛み締めたまま、何も言わない。

「……いいえ、違いますよね? あなたなりに私も守ろうとしてくれたこと。だから、私もあなたを守りたい」
「……!」

 リナさんはそのまま俯いてしまった。地面を見つめたまま、顔を上げることはない。

「……リナ、こわくない」

 リッカは警戒を解いた。この子犬の目にもそう見えた。今のリナさんは警戒することもない、迷える存在なんだって。

「……じゃあ、守ってよ」
「リナさん?」
「守って。私を……じゃない。『あの人』を守ってほしい。私が――年末にしでかす前に」

 リナさんは体を震わせながらも懇願した。それが――彼女の願いだった。

「はい……守りきってみせますから。あの人の為なんかなじゃない――あなたの為に」

 その願いに応えるように、私は誓った。

「帰る」

 リナさんはそのまま走り去っていった。


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