春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

会場入り





 ついにこの日がやってきた。元はルイ・ゼンガー殺害事件が起こった日――大晦日の訪れ。

 ルイ・ゼンガーとの直接な接触は困難となり、当日になって私たちは会場入りをすることになった。多くの来場者に紛れてやってきた。

 ルイ・ゼンガーの歌唱が行われる式典。毎年行われている場所。都の外れにある森林公園に、特設ステージが造られた。
 民の憩いの場である公演は様変わりしていた。数多の蔦のようなものが張り巡らされていた。床は草花の絨毯のようで、いずれも冬を感じさせないもの。
 この場に春が訪れているかのようだった。

 会場は暖まってきていた。人が押し寄せてきていた。始まりが近づいてきたんだ。

「……モルゲン先生は、お越しにならないと」
「ん。兄貴、あっちだからね」

 来賓の席にいたのは、名家の方々。当主ではなく、子息である先生は家の名代でそこにいた。前髪を上げて礼装を着こなしている彼は、学園でみる彼ではない。名家の人間に相応しい姿だった。

「いいんだ。あいつ、あっちにいてくれても。いざって時には動いてもらうから」
「……うん、そうだね」

 私は頷いた。信頼しているんだね。腕の中のリッカも嬉しそうにしていた。

「まだ、時間はあります。極力近づいておきましょう」

 リヒターさんとも合流した。彼は下見というか、偵察に行っていたんだ。

 リヒターさんはシンプルな腕時計を見た。開始のセレモニーが行われている。ルイ・ゼンガーの出番はまだ先なんだ。何があっても動きやすいようにと、ステージ側へと移動しておくことに。
 その時だった。会場に悲鳴が上がる。

「!?」

 何事かと私たちはステージを見た。もう事が始まったのかと覚悟をするも。

『――やあ、皆さん』

 マイクを通じての美声、この声は……! 

『こんばんは、あなたのルイ・ゼンガーです』
「え……」

 ――ステージの上で、ルイ・ゼンガーが堂々と立っていた。

 あの人の出番、もっと後でしょう……!? 今は他の歌手が歌いあげる時間なのに、押しのけてステージに上がっていた。
 悲鳴は興奮したことによるもの、それは安心したけれど……。

『やあ、これは一面の春だね。こちらから見る皆さんも、とても綺麗だ』
 ルイ・ゼンガーの言葉に、会場中が沸き立った。なにせ、国民的歌手。盛り上がりぶりが違っていた。

『気分が高揚していましてね。本来は一曲、トリのみでしたが。いくつか披露させてください』

 ルイ・ゼンガーは頬を赤らめ、のぼせ上っていた。彼はいうならば。
 幸せの絶頂にいるかのようだった。

「……時間より早くきたって。これ、まずいんじゃ」
「……ええ、全くです」

 焦る私に、リヒターさんも同意していた。予定より早まって出てきた。この想定外の事態、どうしてくれよう……!

『ああ、今にも思いが溢れそうです……! 私にもわからない、それなのに! こうも情欲が駆り立てられる! ああ、彼女への、私の愛しい子への思いが……!』
「……」

 私は寒空の下、汗をたらりと流した。私は知っているから……彼の思いの行先を。
 愛してるといって彼女を追い詰めたこと。

「……はあ、ないわ。まじないわ。ほんとむり!」

 ――突如。心底呆れかえった声がした。少女の声だ。

「ああー……」

 ルイ・ゼンガーはその声に喜び、愉悦の表情を浮かべるも。

「――だから、今すぐ死んで?」
「……はわわわわ」

 特大なぬいぐるみに抱き抱えられた少女に、ひれ伏すことになっていた。ぬいぐるみに得体の知れない恐怖を抱いている彼は腰を抜かしてしまっていた。

「きゃあああああああ」

 観客たちは大騒ぎとなった。逃げ惑う人々に溢れかえっていた。

「……もう、気が散るなぁ。えーい☆」

 リナさんは手でハートマークを作って、観客たちに向けた。彼女からのラブビームをくらった彼らはというと。

「ふおぉぉぉぉぉ」
「ぬぉぉぉぉぉぉ」

 ――人型のぬいぐるみへと変貌していた。私たちは驚愕した。そんな芸当まで出来るだなんて。

「まじかよ、兄貴……」

 アルトは捜すも、兄の姿もない。ステージに近かった先生も被害に遭ってしまったってこと……!? そう考えている間にも、ぬいぐるみと化した人々は暴れまわっていた。
 彼らは自我を失っていた。

「きゃは、おおあばれー。やったれー」

 リナさん一人が大はしゃぎだった。彼女だけが……。

「――んでもって、ぱーぱ? 歌わないの?」
「え、いや、その……」

 ルイ・ゼンガーはすっかり腰を抜かしていた。この状況下で歌えというのかと、彼は涙目で抗議をしていた。

「――歌えっていってんだよ。リナね、優しいから? パパが歌い終わるまでは待ってってあげる」
「あ……あーあーあー」
「つってもね? 引き延ばしは無ーし。あんたプロでしょーが」
「あわわわわ……」

 ステージの上でやりとりが行われていた。がくがく震えながら歌うのはルイ・ゼンガー。音程を外し、発声もままならない。威風堂々たる国民的歌手の姿はなかった。
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