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第三章
『彼女』を救いたかった
「リナさん……」
リナさんの気が済むまでか。それか気が変わるまでか。今すぐに命を絶ってもおかしくはない。
「くっ……」
広い会場が仇となってしまった。ルイ・ゼンガーを守ろうにも、ここからだと氷の魔力は届かない。それに……障害となっているぬいぐるみ達を凍らせる魔力量も足りてない。ああ……もどかしい!
ぞろぞろとぬいぐるみが迫ってくる。このままステージにまっすぐ向かったとしても、ぬいぐるみの群れに埋もれることになってしまう。
「……シャーロット」
覚悟を決めたのはアルトだった。彼は一振りの仕草をした――あ、そういうことかな……?
「わかった」
アルトの意図を汲み取り、私は氷の魔力を使った。作り上げたのは、氷の棍棒だった。
「はい、さすシャ。そいつら……人間だからね。あと、俺が多分一番頑丈だし」
だから……君に抑えていてもらおうと? ……君を置いて。
ああ……迷う時間なんて、与えてくれないんだ。
「……アルト、ほんとにいいんだね」
今は君を信じて、進むしかないんだ……。
「適材適所ってやつ。あとね、俺ならできるって思ってくれたからでしょ。作ってくれたの」
嬉しい、とアルトははにかんで笑った。氷の棍棒をスイングすると、リヒターさんに告げる。
「……リヒター、その子をお願い。なんとかして、リナ先輩の元へ連れてって欲しいし、守ってもほしい」
アルトの苦渋の選択だった。自分以外の人に、私を託すということは。
「アルト様、私は一般人です。戦闘の心得はございません」
「リヒターさぁ、この期に及んで……」
と、アルトは彼を見るも。
「――だとしても、何としても守り抜いてみせます」
「……ま、それぐらいは言ってもらわないとね」
アルトは及第点だと、彼らに背を向けた。対峙するのは、人型のぬいぐるみたち。
「参りましょう」
「……うん」
アルトのことが心配。それは確かだけれど……彼を信じて進む。
「……あのね、ルイのおうた終わりそう。リナが――もういいって」
リッカは耳を動かしていた。この騒ぎの中、聞こえているようだった。
もう時間はない。
「――行こう」
数多のぬいぐるみが立ちはだかろうとも。
「……くっ」
ぬいぐるみの数が多すぎる……! 私は凍らせながらも、ステージに向かっていく。でも、魔力も温存しないとで――。
「――頃合いでしょうか」
アルト同様に氷の棍棒で押しやっていたリヒターさん、彼が呟く。何だろうって思っていると。
「……!」
夏場に使うような、水の放出器。それが――一斉に放射されていた。
ほとんどのぬいぐるみが、水浸しになっていく。でも、それは単なる水浸しではなくて。
――ドロっとした、ゲル状のようなもの。それらがぬいぐるみにまとわりついていた。
「リヒターさん……」
この人……下見とは言っていたけれど、この短時間で……ううん。
大半の動きは封じられた。ありがとう、リヒターさん。
残りのぬいぐるみたちは鬼気迫るかのように襲ってくる。そう、何としてもリナさんに近づけさせないようにと。
「……私も必死ですから。あなたをお守りすると」
「!」
もう、ステージまで間近。あと一歩のところでの猛攻、リヒターさんは私たちを守るように立った。
……うん、アルトもそう。あなたもそうなんだ、リヒターさん。
「信じて……行ってくるね」
「はい、ジェム様」
力強い返事。リッカもワンと吠えていた。そうだね、一緒に助けようね――。
「ここまでありがとうっ」
「わんっ」
凍ったぬいぐるみを足場にして、私たちは――飛ぶ!
私とリッカは宙に飛び立っていった。迷いはしない。
「リナさん!」
「あ……」
――こうして助けにきた。
怯えきっているルイ・ゼンガーを助けに。それもある、でも何よりも。
リナさんを、エマさんを。止めたかった。
彼女を救いたかった。
強固な氷にて、ルイ・ゼンガーは固められていく。
「わふっ!」
リッカがリナさんから熊のぬいぐるみを奪った。口にくわえて、飛び去っていく。
「ああ……」
リナさんを抱きかかえていた巨大ぬいぐるみは崩れていく。彼女を守るかのようにでもあった、存在が――。
「……ありがとう、助けてくれて」
リナさんは瞳を閉じた。手を汚さないで済んだ――殺めないで済んだ。彼女はそのことを深く実感していたんだ――。
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