春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

冬ちゃん


「そうはいかないって。オレ、知っちゃったからにはさ」
「でも……!」
「他人事じゃいられないんだよ――冬ちゃん」
「えっ……」

 目の前にいるのは、この世界の住人。ロルフ・ヴァールザーガー。そのはずなのに。

 ねえ、私は……私はどうして。

「冬ちゃんって、君は……」

 どうして、こうも懐かしく思ったの? 

 どうして、彼と初めて会った時、話をしやすかったの?

 私はその答えが、今になってわかった。

「日向ちゃん、なの……?」
「そうだよ、冬ちゃん」

 ヒナタ――日向ちゃんと。私は前世での呼び名を口にした。
 前世での、日本での幼馴染――更木日向だったなんて。

「……はは、オレはすぐわかったんだけどなー」
「ごめん。なかなかわからなくて」

 今になってわかるだなんて……本当に申し訳ない。
 それにね。こんなに姿形が変わった私のこと、君は気づいてくれたというのに……。

「まあ、ピンと来ないかなー? 自分で言っちゃうけど、前世のオレ、超絶美少年だったし?」
「それはそうだね」

 前世の彼は、綺麗すぎる少年だった。幼少の頃はとくに、冬花より女の子らしい見た目だった。線の細い、儚い容姿だった。ただ、喋るとこうなのでギャップによく驚かれていた。

「うん……」

 前世。私にその言葉が重くのしかかった。そう、日向ちゃんもそうだとしたら。

「……私も、言っちゃうね。日向ちゃんも……生まれ変わったんだよね。前の人生を終えて」

 私は自分の胸元を手繰り寄せた。彼も生まれ変わりというのなら――日向ちゃんも生を終えたことになる。せめて、と願わずにはいられない。
 寿命を全うしてくれていたのなら。

「……」

 日向ちゃん……? 彼は黙りこくってしまった。私は不安に駆られてしまうけれど。

「……あ、ごめん。前世の記憶ってさ、思い出すの時間かかったり?」

 明るい笑顔になった彼は言う。

「オレね、人生やりきったよ。ちゃんと、満足して死んだから。だから、冬ちゃん。心配しないでね?」
「……そっか。うん、幸せな人生だったんだね」
「うん……幸せな人生だった」

 幸せな人生。その言葉が聞けて私は安心した。多くの人に囲まれながら見送られていったんだろうな。誰からも慕われる彼のことだから。

「オレの事はいいんだ」

 ロルフ君はそう言うと、鳥籠にそっと触れた。

「……キミのこと、助けてあげられなかった。苦しんでいたのに、オレは側にいてあげられなかった。今でも……こんなところに閉じ込められてるんだ」

 彼は悔いているようだった。その瞳は揺れたままだ。
 日向ちゃんは疎遠になってしまっても、生まれ変わってから時間がかかってしまっても。私を案じてくれていたんだ……。

「ロルフ君、私はね。この鳥籠はもちろん、どうにかしたい。大変だったりもするし。でもね」 

 今の私を、君に伝えたいんだ。

「いろんな人と出会えて、関われて、楽しいの」

 この人生になって、学園生活を過ごすようになって。人との交流が増えた。大変なことがたくさんあるけれど。

「――家族みたいな子にも、逢えたの」

 それでもね、私はこの人生も愛しく思えていた。

「シャーロット・ジェムとして、生きてるよ。生きていきたいんだ」

 私は笑っていた。

「それは、そうなんだろうけど……」
「それとさ、日向ちゃん」

 彼は悲しそうな顔をしたままだった。これもね、君に伝えたいんだ。

「――最近ね、冬花の人生のことも考えるんだ。お父さんお母さん遺して逝ってしまった、『私』のこと」
「え……」
「日向ちゃんも、知ってるんじゃないかって。教師と噂になっていたって」
「それは……」

 彼ははっきりと答えなかった。
 噂もあったでしょうし、心中とも思われた死に方。近辺に住んでいた日向ちゃんもそう、知っていてもおかしくないこと。
 それなのに、日向ちゃんは言葉を濁してくれたのかな……気遣って?

「ふふ」

 変わらない優しさだった。私は思わず笑ってしまった。
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