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第三章
あんたは知らない①※某人物視点
これはあんたが知らないこと。選ばなかった未来。
ふう。
ここでの生活もようやく慣れたかな。
私達が今いるのは、別の場所。あの冬の国から考えられない、温暖な気候の港町。陽気な人たちは、あてもなく彷徨っていた私達を受け入れてくれた。
あんたの氷の魔法、重宝されているよね。ここ、漁業盛んだし。あんたも役に立てたって、すごく嬉しそうで。可愛いんだから。
今日も頑張って働いてる。日の光を浴びて、ほんと綺麗。笑顔まで眩しいから、もうね。ほら、また他の男が目を奪われている。はあ、ここでも目をつけられるかぁ。もう!
そんなヤキモチばかりの日々だけどね、楽しいし? まあ、いっかって思ったりね。
ほんと今までやったことなかったことばかり。でも、やってみるとどうにかなるみたい。今はそれなりに生活はできるようになった。
夕日が沈んでいく。今日もね、お疲れ様。私達の家に帰ろっか。
広いとはいえないけど、私達が暮らしていくには十分な家。
ただいま、おかえり。
もう、『リナ』じゃなくていいよ。私も『エマ』に戻るからね。
お風呂に入ったことだし、あとは寝るばかり。あんたは先にベッドに入っていた。珍しい。
「ねえ、どうしたの? うずくまって、体調でも悪い? ねえ、大丈夫? 本当に……大丈夫?」
私の声に反応するも、この子は顔を見せてくれない。ごめん、心配だから強引にいくね。私は布団を持ち上げると。
「……ああ」
泣いてたんだ。わかってる。この子にとって、大事な子。あの白い子犬に会えないから。
「……ごめんね」
あんたにとって、大事な子だった。あのご年配は優しそうだったし、あの子も懐いてそうだったから。私、それくらいしか考えてなくて……あんたの家族だったのにね。
「ほんとにね、最初は冬休みの旅行くらいの気持ちだった。一時的にでも離れられたらって。でも、どうしてかな。私、まだ帰りたくない、そんな気持ちばかりが募っていった」
彼女は私の言葉を聞いてか、体を起こしてくれた。その瞳は、どこまでも私を心配してくれている。自分の悲しいって気持ちより、私を思ってくれていた。そのことがね。悪いって思っていても、嬉しくもあって。
「私、どこまでも逃げ続けたかったんだねって――」
あ。
抱きしめてくれた。不安に揺れる私を、あんたはいつだって抱きしめてくれるの。
「……ありがと。落ち着いた」
私はお礼を言って、離れた。まだ心配そうにしてるけど、大丈夫。だって、あんたがいてくれるから。
「私はね、あんたが好きなの。本当に好き――」
想いを、言葉にはしてきたけど、こうはしたことなかったから。私はこの子の首に腕を回して、瞳を閉じる。気持ちをこうして伝えたくなって。
キスをした。
「ん……」
唇を触れ合わせる。軽くだけど、何度も。この子も受け入れてくれる。
「……ふう」
私は唇を離して、目を開けた。顔を赤くした彼女が、私を見ている。無意識なのか、自分の指で唇を触れている。なんか、反芻しているみたいで。なんか、やらしいというか。
また、したくなっちゃうじゃん。
「……今日はここまで。また今度ね?」
まんざらでもないみたいだし……でも、あんたのペースも尊重したいし? だから……またということで。私もベッドに潜り込んだ。
あ、スペース空けてくれてる。毎晩のことだけど。あんたの気遣いはいいんだけど。
「こっち来て。もっと」
せっかく一緒に寝てるんだよ? もっと、くっつこ?
「……なんかね。あんたと前もしたことがある気がする」
あんたとするのは、さっきのが初めて。そのはずなのに。私はね、唇の感触を覚えている気がした。記憶にはないのにね。ねえ、初めてじゃないよね。
「え、なに? その反応? ねーえ、なになに?」
目は泳いでいるわ、顔は真っ赤だわ。これはあやしい。
「もしかして、私が気づいてない時とか? 寝ている時とか?」
私の発言に、この子の心臓は飛び跳ねたようだった。え、そういうことしちゃう? 起きてる時にしてくれても良かったのに。でも、なんだろ。それはそれで微妙に違うとも言いたげな。なにそれ。なんなのよ。
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