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第三章
あんたは知らない③
しおりを挟むすやすやと眠るこの子を、私は眺めていた。ほんと、幸せな時間。
「やっぱ、いい買い物したわー」
寝てる相手の左手をとって、私は彼女の薬指をみた。おそろで買ったペアリング。ピンクの宝石が可愛いでしょ。
私がピンク好きなのもあるけど、あんたにも似合うって思ったから。薄くて温かな色味がね、あんたらしいなって。
「うん、似合って……ふわぁ」
私にもね、眠気は訪れている。うとうとしている感じ。眠るまでの間、思い出にでも浸っていようかな。
「……あはは」
旅行に出る前、あの男、家に来たでしょ? あんたにも酷いこと言って。
でも私、撃退できてたじゃない? ぬいぐるみちゃん達に埋もれるアイツ、ほんとに笑えて。だって、滑稽で無様で。あ、こんなもんだったって。自分でも引くくらい、大笑いしちゃってた。
「はあ……」
あの男はトラウマなままだけど、それでも昔よりは怖くないし。
「ねえ、『シャーロット』?」
前より変わったこともね、あるんだよ。前より、外で『リナ』であることを強要しなくなったでしょ? 名前だって、あんたの名前で呼んでる。
もう、『リナ』で守る必要はなくなってきている。私もね、あんたを守れるくらい強くなったから。
「ありがと、ぬいぐるみちゃん達」
生まれた時から、こうして私を守ろうとしてくれてたんだ。闇の中蠢く彼らに、私は感謝していた。ふふ、いい子たち。
「もちろん、あんたもね」
あどけない寝顔のこの子も、私を勇気づけてくれる。生まれたままの彼女。私の大切な存在。
となると。『リナ』の姿でなくてもいいって?
ううん、それはそれで違う。今でも必要。
だって、こんな可愛い素の姿。見せたくないんだもん。私だけの素顔だよ? 私だけの。
「……ふふ」
黒に染まった髪。もうね、元の髪の色、忘れちゃうのかな。私だけがきっと、あんたの髪の色、覚えてるのかな。
私だけが……ふふ、最高。
メイクで彩られていない、そのままのあんた。
もう、私だけなんだ。この顔も、こんな表情も。見られるのは、世界で私だけ。
あ、いつの間に寝てたんだ。ん? だってさ、いくらなんでも夢の中でしょ?
彼女が小さくなって、ドールハウスの中にいる。しかも、薄いピンクの透明な壁。スケルトン。なにこれ、可愛くない?
カワイイものに囲まれて、お姫様みたいなベッドでね? この子、すやすや寝ているんだもん。起こさないであげよっと。
ドールハウス。それはそう。あとね――鳥籠みたい。
黒色の髪の女の子を、こうして閉じ込めて。
もちろん、素の姿。うん、いいね。最高じゃない? 私だけの特権ってことで、いいんだよね?
誰にも見せないで済むってことで。
この子を独り占めしなかった私。うん、いるかもね。そんな私だっているんだと思う。こっちは理解できないけどね。でも、変なとこで良識あるから。彼女の為にって思ってとか。それなら、わからなくもないけど。
ねえ、『あんた』は良かったんでしょ。他の連中に意識がいっているあの子、やきもきしながらも傍にいるって、そう決めたんでしょ。ならそうすれば? 勝手にすればって感じ。
なんてね。
それはそれで、あとで泣きをみるのも見えてるし。今からでも遅いってことないから。うん、遅くないよ。間に合うよ?
だって、あんたも望んでたりするんでしょ? ――そういう関係。
あの子、あんたの前じゃわりとガード緩いし。懐柔していけば、いけそう。頑張ってね。
そして、あんたへ。私との未来を選ばなかったあんたへ。
ほんとはね、知られたくない部分もあったから。どこか安心していたりもした。
汚れた私を……あんたは知らないままでいてくれるから。
でもね、あんたは知ったとしてもね、きっと受け止めてくれる。そんな気はしているの。
受け止めた上で、今までと同じ感じで接してくれる。うん、そういう子だから。私のこと慕ったままでいてくれるんだろね。
ねえ、お願い。
知っただけで留めておいてね。優しい顔をするだけにしておいてね。
深入りしよう、そう考えてるなら。もっと、奥に入り込んで。もっと、知らなくていいことまで知ろうとするのなら。
それがあんたにとっては、善意ってだけだとしても。私は我慢できなくなっちゃう。
ごめんね。もう、逃がしてあげたくなくなっちゃうの。
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