春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第四章

プロローグ――縋られた日々①

 ふわふわの手触り。撫でる手から伝わるのはぬくもり。白いモフモフは今日も、私の側で寝ていた。

 今日もね、無事一日が終わってよかった。君も疲れたんだね、ぐっすりだ。

 いつもと違う景色。ほら、波の音が聞えてきた。私達が寝ているベッドからも見えるね。差し込む月明り。海がね、月の光を浴びていてね。すごく綺麗。

「海か……」

 『今の私』は初めて訪れた。でも、『前世の私』は違う。

 この世界に私は生まれ変わった。前世の記憶も所持していたんだ。

 人と人は分かたれようとも。強い思いによって、やがては再び巡り合うと。生命は巡り巡るものだって。小さい頃に教わったこと。
 この世界に伝わる伝承。未だに私にはピンと来ないもの。縁だってないと思っているもの。

  私は前にいた世界では、それほどの関係は築いてなかったって、そう思う。それほどの思いを抱かれたなんてことも、そう。

 私の前世、皇冬花。日本で暮らしていた女子高生だった。受験も終えて、卒業の日を迎えて――私、冬花は死んでしまった。死因は転落死。私一人ではなく、ある男性と一緒にだった。

 片桐先生。私の元担任でもあって――好きな人でもあった。
 大人で優しくて、ぼっちだった私に寄り添ってくれた人。私は好きになっていた。相手が教師だったとしても、想いは止まらなかった。片思いで終わると思っていた。



 転機があったのは、二年生秋の修学旅行。
 私たちは沖縄を訪れていた。賑やかな観光地に楽しそうな人たちを、私は一人遠巻きに見ていた。馴染めなかったから。そのまま班行動、自由行動と過ごして。

 最終日――私は決行した。

 夜明け前に部屋を抜け出した私は一人、海岸に出ていた。
 どうしても、海をじっくりと見たくなってしまっていて。あと、羽目を外してもみたくなっていたんだと思う。誰かに目撃でもされたら、相当怒られることになるとしても。それでもだったんだ。

 その光景に惹かれた。夜空と朝焼けが溶けあうかのような、綺麗な色合い。日の出前の、ちょっとの時間。

『わぁ……』

 ――マジックアワー。そう言われてるけど、本当に言葉通りだと思った。

 うん、来て良かった。私は帰ろうとしていた、その時だった。
 ――片桐先生もいた。先生は一人でいた。
 嬉しい半面、相手は教師。私は気づかれる前に去ろうとしたけど、先生にはバレバレだったよう。

『すみませんでした……勢いと出来心からでした』

 先生は海から私に視線を向けて、笑ってくれていた。お咎めは無し、それどころか先生は『こっち』って、私を誘導してきた。私はただ嬉しくて、疑問も持たずについていった。

 会話は少しだけ。他愛ない話。それでも私にとってはかけがえのない、大切な時間だった。


 海辺を歩くくらいと思っていたら、違ってた。先生と一緒に高台の方までやってきた。人気もない、静かな場所。地元の人も観光客も不思議といなかった。

 景色はそれはもう、素晴らしかった。それを先生と一緒に見られるから。

 そんな私を先生はじっと見ていた。締まりのない顔をしていたの、見られたかな。私は真顔に戻ろうとすると、先生は笑った。

 それから、連れてきた理由を教えてくださった。
 基本単独行動の私を、気にしてくれていたって。思い出を作れたのかなって。

 ああ、って私は思った。勇気を出して、同級生と行動すれば良かったなって。先生に心配かけたのもそうだし、仲良くなれる良い機会だったかもしれない。私はこの修学旅行をどうにも出来なかったって。

 でも、先生はそうじゃないって首を振った。ただ、私が参加してくれたのも嬉しかったって。
 うん、そうなのかな。先生に出逢った頃に比べたら、私は笑うようにもなった。先生が救い出してくれたから。

『思い出はちゃんと出来ました』
 もう、充分だった。充分過ぎるものだった。修学旅行の思い出になっていた。
 それだけじゃなかった。先生もね、自分の思い出にもなったって。どこか嬉しそうに言ってくれた。そんな先生を見た私は。

 もう、止まらなかった。
 相手が教師とか。気遣ってくれただけとか。単なるお世辞とか。
 たとえそうだったとしても……私は。

 止まらなくなっていた。だから。

『好きです』

 この言葉を止めることは出来なかった。顔を真っ赤にして、汗ばむ体で、もう冗談と取り繕えなくなるほど、私から先生への想いは溢れ出していた。

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