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第四章
先輩女子たち
「……おっかしいなぁ。私、あんたにあれこれ話しようと思ったんだけど」
女子寮の寮長もじきに点検にやってくる。リナさんも時間ギリギリまでリッカを撫でまわすこととなってしまった。
「えっと、すみません。つい、モフモフタイムに付き合わせてしまいまして」
私は申し訳ないと思っていた。リナさんは真剣な話をしたかったのだから……。
「ほんとそれ。あんたはリっちゃんのことになると、ほんとこれだから」
玄関口に立っていたリナは、腰に両手を当てた。もう、と頬を膨らませていた。
「はうっ」
私は悩殺された……!
かつてリナさんへの接近手段として、推し活をしていたことがあった。
事件解決の為でもあったけれど、リナさんを推す心だって本物だった。状況が状況でなければ、がっつりグッズも作りたかったほど――前世のように。
「……これ、いける? かわいこぶれば、結構押せる感じ……?」
リナさんがブツブツ呟きながら、狙い定めるような目を向けてきた。
「……」
私は一瞬にして頭が冷えた。捕食されそうな感覚にも陥っていた……。
「ま……焦らない焦らない。ほんとはね、心構えとか話しておきたかったの。野郎に迫られた時の対処法とか、退散させる為のえぐい返しとか。あと、護身術とか。でも、時間も時間だから。今日はやめとくわ」
「その、リナさん。心配してくださるなら嬉しいんですけど、大丈夫かなって」
「大丈夫じゃないから。ぜんっぜん、大丈夫じゃないから。つか、あんな下心ありありの連中に囲まれて? 大丈夫といえること自体、大丈夫って言える?」
「こうとしか言えないんです……! 大丈夫としか……!」
リナさんに責め立てられ、私の精神は消耗していた……。
「というか、下心ありありということは、そんなことはないんじゃ……」
って、私は言いづらくも口にした。リナさんはというと。
「えー? えへへー?」
「あはは……?」
なんてことなく笑って返された。私も笑うしかなかった……。
「っと、時間か。じゃ、これだけ。もっと、くだけてくれていいから。敬語とかいいし、なんなら呼び捨てでもいいし」
「……!」
リナさんからの突然の提案だった。呼び捨て、敬語なし……年上相手に。
「……うん、リナさん」
不慣れながらも私は承知した。他ならぬリナさん相手ということもあった。
「ん、ありがと」
私の返事にリナさんは微笑んだ。満足して退室しようとしていた。
「あ、リナさん。お見送りだけでも」
お見送りにと、私は入口までやってきた。リッカはおすわりして、部屋で待機することにしていた。
「リッカ、すぐ戻るね?」
私は彼にそう伝えた。あと、『おすわりはいいよ』とも。彼はすぐに崩した。
「お見送り? 嬉しいんだけど」
「うん」
私は扉を開けて、リナさんも一歩前に。
女子寮の廊下まで出た。ここでお互い手を振って、解散しようとした時だった。
「――あら? シャーロットさんと……それに」
前方から女性からやってきた。女子寮の寮生だ。消灯時間直前の、このタイミングで……?
「こんばんは、クラーラさん……?」
「ふふ、こんばんは。見つかっちゃった」
艶やかな黒髪に、柔和な笑顔。大人びた彼女は、私の隣室の住民でもあった。彼女はクラーラ・メーディウムさん。編入生の一人でもあり、最上級生であった。
「……」
リナさんはクラーラさんのことを見ていた。そうだね……『例の件』もあって、複雑なんだろうね……。
「あなた、リナさんよね? 最近になって女子寮に来たって。ご挨拶遅れちゃったけど」
眉を下げるクラーラさんは自己紹介をした。リナさんは惑っていたけれど。
「……うん、リナ・ゼンガー、です。クラーラ先輩、大晦日の件、ありがとうございましたっ!」
いつもの『リナ・ゼンガー』だった。彼女はぺこりと愛らしくお辞儀をしていた。
「……いいえ? 未熟者ながらも、放ってはおけなくてね?」
「「いえいえ!」」
私とリナさんの声が揃った。
被害者となりえたルイ・ゼンガー氏。絶命は免れたものの、彼は大役を放棄する形となってしまった。抜けた穴を塞いでくれたのが、こちらのクラーラさんだった。
歌ではなく、別のことで有名だった彼女。それでも見事に代役を務めてくださったという。元々、歌の才能でもあったのかな? 私は実際に聴けたわけではなかったから。
「それでは、おやすみなさい? 二人とも」
クラーラさんが自室に戻ったタイミングで、リナさんはぽつりと呟く。
「今度、聴いてみようかな。やっと……割り切れたって感じ」
リナさんは心の整理がついたのか、代役を務めたクラーラの歌声を聞くことにしたみたい。私も聴いてなかったから、折を見て、と。
「それじゃ、おやすみ。リナも部屋に戻るから」
「うん、おやすみなさい……」
リナさんの顔は晴れ晴れとしていて、そのまま部屋へと戻っていった。私は彼女の背中を見送っていた。
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