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第四章
教師の冬休み
新学期が始まった。生徒たちは冬休みを楽しみ尽くしたようだ。休みが終わったことにうんざりしつつも、思い出を語り合っていた。楽しそうだなぁ。
「――よう、シャーロット」
校舎に入ったところで、私は呼び止められた。
「モルゲン先生。おはようございます」
――アインスト・モルゲン先生。
声を掛けてきた男性教師。彼は、他の生徒からも挨拶をされ、一人ひとりに笑顔で返していた。アンニュイな見た目とは裏腹に、快活な教師で知られてもいた。
「冬休み、終わってしまったな。お前にも楽しんで欲しかったけどな」
先生は察しているのかも。課題もだけれど、店のことにかかりきりだったのだろうと。
「私、楽しかったですよ。忙しかったのはそうですけど、楽しかったんです」
旅行にいったり遠出をしたわけでも、寝正月を過ごしたわけでもない。それでも私にとっては良かったんだ。言い切った私を見て、先生も満足そうに頷いていた。
「……そうか。それもそうだなぁ。ちゃんとしたものだ――思い出、出来たんだな」
「……」
どうして。どうしてなのかな。
私は時として、モルゲン先生と『彼』を重ねてしまう――かつて、自分が恋をした相手と。
「……シャーロット?」
心配そうに先生が声を掛けてきた。私はハッとする。そうだ、私はシャーロット・ジェムじゃないの。
「……楽しかったのは確かですけど。忙しかったなぁって、今になって実感が沸いてきまして」
私は誤魔化すかのように笑った。目の前の教師もそうだよ、片桐先生じゃない。貴族の子息で高等部の教師でもある、モルゲン先生なんだ。
「ああ、そうだなぁ? ほら、今からでも遅くないぞ? ――ほら、今月にも三連休があるだろ?」
先生が指すのは、一月下旬にある三連休のこと。記念日で休みになるのは、この世界でもそうだった。私はその日も営業しようと考えていた、だけれど。
「そうですね。うん、休んだっていいかもしれませんね」
私が思い浮かべたのは、まずは愛犬のことだった。働いている間、リッカは二階で大人しくしていることがほとんどだ。思いきって遠出もいいかも、期待に胸が膨らんでいた。
「……」
あとは、交流をそれなりに深めた『彼ら』のことも浮かんだ。感謝も込めてというのもある……うん、あるんだけれど。
こう、いろいろあったというか。覚えているのも多分、私だけだろうから……色々と、今でも気まずい時もあったりして……。
「……先生な、リッカを喜ばせるのが一番平和と思うぞー?」
「はい……」
モルゲン先生も記憶を有していらっしゃる。それに彼のこと、どこまで見通されていることか……。
そんな先生からの打診、愛犬との休日が良さげと。はい、先生。同感です。
「といってもな、せっかくの学生生活だ。友人とのお出かけも、いいと思うぞ。とはいえ、お前の休日だ。好きに過ごすのが一番――おい、特定の生徒に贔屓って言ったの、誰だー?」
私と話しつつも、他の生徒の小声を見逃さなかった先生……地獄耳だ。
「よおし、俺と冬休みの話するかー。お前のも語って聞かせろよー?」
しかもすぐに特定したのか、その生徒に近寄っていく……おそろしや。
「うわ、モルちゃんに絡まれたー。惚気になるけど、いい?」
特定の生徒に贔屓。その言葉に緊張していたのは私のみ。先生たちはなんてことなかった。単なる軽口だった。
「……そうだよね」
前世じゃないんだから……違うんだから。
「よーし、聞かせろ。家と学校で冬休みが潰れた俺に、聞かせてみろってんだ」
先生は肩まで組んで、生徒に顔を近づけていた。ここまでの接触は、相手をみてやっているみたいだった。
先生たち、楽しそうに盛り上がっていた。他の生徒達も悪乗りしてきた。
「それでは、失礼しますね?」
私は会釈をして、教室に向かうことにした。
「おう、それじゃあな――ほら、お前達もそろそろな? いや、羨んでないぞ? ああ、まったくな?」
先生は私に挨拶をしつつも、群がる生徒たちの相手もしていた。まだまだ続きそうだった。
「……」
惚気。羨む。先生はそう揶揄われてはいるも、あくまで揶揄っているだけ。あの生徒たちが本気で先生に縁がないとは思ってない。
――先生の左手薬指。それが証明でもあった。彼には心に決めた相手がいるという。
私にも薬指に指輪があった。生まれた時からあったもの。誰かとの将来を約束した、とかじゃないと思う。私にとってはお守りだった。
先生がしているもの、私がしているもの。意味合いはきっと違う……。
「……うん」
相手は教師だよ。なんてことないと、私は背筋を伸ばして歩き出していった。
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