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第四章
女神の巫女とワンコ
「私、あなたこそ心配なのよ。私はいいの、割り切ってるから。でも、あなたがね? 誰かの痛みに寄り添おうとして……それが大変なことになったりしてない?」
「私は……」
「私くらい要領良かったり、扱いが長けていたり、手の平で転がせたなら。でも、あなたはそうではないから。何事も程々ね?」
「あ……」
クラーラさんは階段の方へと歩いていった。夜遊びは確定しているみたい……。
「約束しているし、待たせてもいるから。私……行くわね?」
「……いってらっしゃい、お気をつけて」
これ以上は野暮なのかな……今度こそ送り出すことにした。
「ええ。……何事も程々に。私にも言えることね。そうね、頻度は控えようかしら」
「……!」
クラーラさんはそう告げて、微笑んだ。
「あなたで遊ばせてもらうから。ねえ、相槌専用でも私は構わないわよ? 夜通しもいけるかしら。ふふふ」
「はい、喜んで……」
私は言った手前、撤回出来なかった。
クラーラさんは巫女――春の女神の巫女であると。
今まで一部の人間にしか知らなかったことが、代役を務めたことにより、広まってしまった。私が営業している間も、お客様たちはその話題で持ちきりだった。
「それでは、私は行くわね……ご内密にね? イメージってあるから」
「はい、わかりました……」
あの春の女神の巫女として育てられた。やはり重責もあるんだよね……。
「あれ?」
……そういえば。
「寮長さん、来なかったな」
いつもは消灯の時間に来るはずなのに。寮長さんは来ることはなかった。
時間は深夜を回った。私はベッドに横になっていた。
「ぐーぐー」
リッカはベッドの上で、毛布にくるまっていた。私の足元が彼の定位置。最近のお気に入りである、クマのぬいぐるみも側に置いてある。
「……」
私はリナさんのことを考えていた。事件の当事者にして、ルイ・ゼンガー殺害事件――かつての犯人であった彼女のことを。
「ふう……」
彼女はルイ・ゼンガーに多大なる恨みがあった。それでも、出来れば殺したくなかったようだ。日頃は理性で抑えていたのもあった。それを、増長させた。歯止めをかけられなくしたものととなると。
「リッカ。それはちょっと……怖いかな?」
私は何とも言えない思いだった。リナさんの中にある憎悪、そして尋常ではない力を与えていたアイテム。それは――。
「ぐーすぴー」
すやすや眠る子犬の側にある、クマのぬいぐるみだった。不思議なもので、禍々しさはすっかり消え失せていた。
「……君は、不思議な子だね」
私自身も覚えのあるものだった。リッカといると、落ち着くのもそう、暗い感情も、思いも。不安も。迷いだってそう――囚われそうになるシャーロット・ジェムを、引き戻してくれる。
リッカはそんな存在だった。そして、特別な存在ともいえた。
――ダイヤノクト国。ここでは、春の女神信仰が盛んだ。そのような女神を、主人と仰ぐのがリッカだった。
「すぴー……」
「ふふ……」
穏やかな寝顔のリッカに、私は満たされていた。自身が死を迎える度に、彼を悲しませていたね……。
約束されていた死に怯えることもなくなり、明日も訪れてくれる。私もいつの間にか眠りへと落ちていった。
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