268 / 557
第四章
南国より、愛を込めて
冬休みの思い出で盛り上がる。それは私のクラスもそうだった。
「――はい。本日から授業が始まります。みんな、気持ちを切り替えてねー?」
担任である彼女が、朝礼で軽く注意をしていた。生徒たちも軽く緩く返事した。初日ということもあり、担任の先生もそこまで咎めることもないようだった。
「さて、私からは以上です。あとはね、お土産があるみたいです。配ってくれるということです。立ってもらっていい?」
担任の先生がそう告げると、数名が席を立った。それぞれ、箱菓子を手にしていた。
「まじでー、ありがとー!」
クラスの委員長でもある彼を皮切りに、クラスメイトもお礼を一斉に告げた。私も小声ながら礼を告げた。
残りの朝礼の時間は、お土産配りにあてられた。回しながら渡す形。暗黙のルールで、昼休みか帰ってから食べることになっていた。
「あ、ありがとう」
私は今も軽く頭を下げて受け取っていた。相手もさらりと笑う。
「シャーリーちゃん、りっちぎー」
「そ、そうかな?」
隣の席の男子生徒、ロルフ君に笑われた。私の方も笑って返した。ぎこちなくなってしまったけど……。
「わあ……」
渡されたお土産たち、いずれも南国を彷彿させるものだった。お菓子の内容によっては、リッカも食べられるものかもしれない。昼休みになったら、開けてみようかな。
彼らの旅行先は同じ場所だった。私が当校中に耳に入っていたのは、そこの話ばかり。かなりの生徒が訪れていたんだろうね。
南方にある国家、『ララシア』。これまでヴェールに包まれていた謎の国であったそこは、近頃開かれた国となった。極上のリゾート地として、人気の旅行先となっていた。
「いいなぁ、ララシア。私もいってみたーい!」
「遠いけど、船でいけない距離でもないし。次は――三連休か、春休みかなぁ? 行ってみる?」
クラスメイトたちは羨望していた。その気持ち、すごくわかる。
お土産が全て配られ、朝礼が終了した。次の授業までの休み時間でもあった。旅行に訪れた彼らは、思い出話を語っていた。
とても熱かった。いかにララシアが素晴らしいか、熱弁をふるっていた。聞いている生徒たちもまた、思いを馳せていた。
話が盛り上がっている中、贈り主の女子生徒が輪から外れた。とある生徒が気になったようだった。
「……ねえ、リヒター君。甘い物、苦手だった?」
彼女は座っている男子生徒に近づき、不安そうに首を傾けていた。無表情のまま、机に土産を並べている彼に向けて。真顔でお土産を注視し続けている彼に。
「……ああ、失礼いたしました。いえ、可愛らしい包装だと思いまして。それに美味しそうです」
「ひゃあ……」
女子生徒の不安を和らげようと、彼は微かに笑った。それを見た彼女から声が漏れた。
基本表情筋が動かない彼は、リヒターさん。姓の方で呼ばれている。丁寧語がデフォルトの彼はクラスメイト。学園を自治する委員会にも属しているのと、財閥令嬢にも仕えている。
そんなリヒターさんは、日々学園の為にと奮闘していた。といっても、最近はその活動も縮小しつつはあった。
「あれ……」
それとなく見たリヒターさんを見て、私は思った。色々あって馴染みのある相手となっていた。無表情の中にも――疲労があると感じ取れるくらいに。
リヒターさんは視線を落とし、ララシア土産をじっと見ていた。
昼休みになった。リッカに逢いに行く為、私は自室に戻ってきた。
「シャーリー、おかえり!」
「ただいま、リッカ」
リッカは尻尾を振って駆け寄ってくれた。涎を垂らしながら。私は座り込んで、彼を待つ。お出迎えだねぇ、可愛いねぇ……!
「くんくんくんくん」
「リッカ……?」
私の制服のポケットを執拗に嗅いでいた。確かにそこにお土産はしまっていたね、うん。今は匂いを嗅いでいるだけでも、ポケットに顔を突っ込みかねない。チョコまで一緒にしているので、口にしたら大変だ。リッカが一般的な犬に当てはまるのかは不明にせよ。
「リッカ、おちつこう。ねっ?」
「くんくんくんくん」
「リッカ―……」
どこまでも嗅いできていた。人の言葉を発することもない。リッカは本能のままだった……。
「リッカ、ほら、おすわりっ」
「はいっ」
リッカは条件反射でお座りをした。涎を垂らしたまま、彼はお菓子がもらえるのを待っていた。賢いワンコだ……!
「うん、リッカ。これなら食べられるから」
私は包み紙からクッキーを出した。人間の食べ物を犬にあげること。それは推奨されたものではない……それでも。私は丸ごとあげることにした。なにせ珍しいお菓子だから。くれた生徒には気持ちだけ受け取ることにした。
「ううん、シャーリー。僕、君にも食べてほしい。一緒に分け合いたいんだっ」
「ああ、リッカ……」
リッカは健気なことを言ってくれる……口から涎が零れ落ち続けていても。私は大半をリッカに分け与え、自分も食べることにした。
「美味しいね、美味しいねぇ」
「うん、美味しいね……」
リッカは味わって食べていた。私は思いだけでも、満腹になりそうだった……。
平和な毎日だ。私は熟睡も出来るようになった。
何も恐れることもない。人の命が奪われることもない。
そんな安らぎの中、今日を終えていた――。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。