春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第四章

初めまして、のはずなのに


 
 翌日の昼休み、リナさんと一緒に食べようって約束していた。楽しみ。

「――ジェム様、お出かけになられるのですね。ごゆっくりお過ごしください」

 教室の扉の近くで、リヒターさんが声を掛けてきた。私は一度立ち止まって、彼を見た。

「あ、リヒターさん。リナさんと約束しているけど、良かったらどうかな」
「お誘い有難く存じます……生憎、先約がございまして」
「そう……無理、しないでね」
「ご配慮痛み入ります」

 リヒターさんは元々の用があるようであり、教室を出ていった。どこか浮かない表情をしているようだった。彼が所属している、自治委員絡みのことだろうかな……?




 放課後になった。今の私は自由に過ごせる。リッカとの散歩にも時間をあてられる……! 平和ならではだね……!


 私は校舎内を歩いていた。

「失礼します」

 学園内にある図書室、お目当ての場所に到着した。

 かなりの広さを誇り、天井も高めに設けられている。壁面一杯に本が陳列されていた。高所にある本は、至るところにかけられた梯子を利用していく。
 生徒の数はそれなりだった。読書に集中している生徒や、課題に取り組んでいる生徒。活用目的はそれぞれだね。

「ええと……」

 何気に初めての利用なんだよね。これまでのループで訪れたことはあるものの、貸し借りまでには至らなかった。平和な今だからこそ、私は念願の図書室利用に至ったんだ。

 私はカウンターへと向かっていく。まず手続きをお願いすることにした。知っていたし、説明も受けていたけれど、ここは知らないふりをするしか。

「――こんにちは。初めてご利用の方、ですよね? 僕は図書委員のエミル・ジュッツェです」

 制服は男子のもの、中性的で綺麗な顔立ちの彼。儚くも美しく微笑む彼。ふわふわな頭の上にあるのは、二つの獣耳だ。この国では珍しくもある――獣人だった。

「初めまして。私はシャーロット・ジェムです。高等部の一年です。初めての利用です。手続き教えていただけますか?」
「そうなんですね。ふふ、嬉しいな。喜んで――」

 私はお辞儀をして挨拶をした。それを受けた彼は微笑んでいた。綺麗に笑う人だなぁ……。

 エミル・ジュッツェさん。私は彼のことを存じていた。 
 獣人族の彼の名前も。図書室の利用方法も。彼が図書室のボスとも言われていることも。
 これまでのループで彼とも接触していたから。いつでも彼は柔和に接してくれていた。

「……」
「……?」

 彼はじっと見ている。何かを考えているようだった。彼は口を開くと。

「ジェムさん……でしたよね。僕達、どこかで会ったりしてない? おかしいこと承知で言うけど、どうも初対面とは思えなくて」

 真剣な顔をしていた。彼自身も口にしていて不思議な様子で、それでいて確信をも持っているようであった。

『――やっぱり、僕達。どこかで会ったことある?』
「……」

 私は考える。これまでもジュッツェさんはそう言ってきた。それこそ、本当に初対面であろう時ですらも。その時点で投げかけてきたんだ。

「……すみません。私が忘れている可能性もありますが、おそらく初対面だと思います」

 私はそう答えるしかなかった。私の記憶の中では、この人とは図書室でしか面したことがないと……そのはずだと。
 ……そうだよね?

「そう……だよね。ごめんなさい、おかしなこと言っちゃって」
「いえ、そんなことは。ええ、本当に今が初めてかなって」
「――本当に、そうなのかな」
「え……」

 これまでならば、すんなりと引き下がっていたのに? 今は違う、ジュッツェさんは納得がいってないようだった。

「……本当に、初対面だと思います」

 私の声は震えていた。
 ……初対面のはず、なんだけど。彼と図書室で初めて対面した時、胸がいやにざわついてしまった。そのことを私は思い返す。
 こんなにも美しく、透明感のある彼。痛みや苦しみとも無縁そうな、人畜無害そうな人なのに――恐怖心すら芽生えてしまいかけたこと。

「……。手続きをお願いしてもよいでしょうか?」

 杞憂だと思うことにした。私は意識して普通に接することに。

「はい。カード用意するから、待ってくれるかな――ふふ、実りある時間をお過ごしくださいね」
「はい」

 柔和な笑顔を見せるジュッツェさん。こんな人をどうして怖ろしいと思えたの……?






 彼の説明を受け、利用カードも渡された。久々の図書館巡り、私は心から楽しんだ。
 お目当ての本はあった。私は貸し借りの手続きをお願いすることにした。

「こちら、お願いします」
「はい……あれ」

 ジュッツェさんの目に止まったのは、一冊の本だ。

「……ごめんね、何でもないんだ」

 何でもないと笑って返すと、彼は通常通り処理をしていた。気になるけど、尋ねるまでもない。私はお礼を言って、図書室を後にした。

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