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第四章
余から参ったぞ!
翌日の昼休み、私は食堂に向かおうとしていた。
「……」
「……」
向かおうとしていたんだけど……気になってしまって。深刻な表情をして席に座っている彼、リヒターさんのことが。
「……あの、リヒターさん? 私、お昼いってくるね」
「……ああ、ジェム様」
リヒターさんはゆっくりと顔を上げた……思い詰めた表情をしていた。言わずにはいられなくて、私は口に出した。
「リヒターさん、大丈夫……?」
「大丈夫、とは。ええ、私はまったくもって問題はございませんが」
「それならいいんだけど……」
近頃のリヒターさんを振り返る。彼はどうも疲れているようだった。前よりは負担が減ったはずなのに。
リヒターさんが頭を悩ませているとなると。
「……キング」
私は思い当たった。中等部の生徒で、特待生としてこの学園にやってきた。以前もリヒターさんはキングに手を焼いているようだった。
「ジェム様、お願いがございます」
推察されたとリヒターさん、気づいただろうね。その上で、彼は頼み事と。
「この件におかれましては、私の方で対処させていただきます。ジェム様は何卒、ご関与なされませんよう」
リヒターさんは立ち上がり、失礼しますと席を離れようとしていた。どうも私から遠ざけたいかのようで?
――と、リヒターさん側から回避させようとしても。
「――頼もう! リヒター殿、此度は余から参ったぞ!」
威勢よく入ってきたのは、中等部の生徒だ。制服が高等部とは異なり、白い詰襟のものだった。たとえ年配者だらけだろうと、彼は臆することもないようだった。よく通る声でもあったので、一気に注目を浴びることになった。
「ほら、『キング』よ」
「ああ、今話題の」
中等部での話題の人物――エドワード・アタラクシア・ロウラウンド君。
それなりの長身であり、おでこを出した短髪スタイルは毛先を遊ばせている。意思の強そうなアーモンド型の瞳は、好奇心旺盛さも覗かせていた。褐色の肌も元々のもの。
――彼は、南方に位置するララシアの民だった。貴族であるともいわれている。
「なんという事でしょうか……」
リヒターさんは頭を抱えた。向こうから来ては防ぎようがない、そう呟いてもいた。
「……そういえば」
私もループの中で、彼と話したことがあった。
『ふむ。長いだろうな! エド・クラウンで通しておる。あと、余は後輩にあたる。畏まらずともよいぞ。エドとよく呼ばれておるな!』
その時は『エドワード君』呼びでと返答した。彼はそれでも良いと朗らかに笑ってくれた。貴族というけれど、奢ることもなく気さくに接してくれる。
そんな彼は好感が持てる子だった……からの。
『期待以上だったぞ。余の美女部に加えたいくらいだ。我がハーレムの一員としてなっ』
この発言だった。私は一気に距離を置きたくなってきた。それに、リヒターさんを疲弊させている要因でもあるのかも……美女部の創設について揉めていたり?
「……」
いやいや……『美女部』って。学園の選りすぐりの美女を集めて、その中から嫁を探すという。エドワード君の為の部活であるようだった。
「おお、そなたが! 噂のシャーロット・ジェム嬢か!」
件の生徒は、私の存在に気がついた。目を輝かせながら近づいていこうとする。
「……私に御用があるのでしょう。さあ、どうぞ。お話ください」
リヒターさんが間に入った。かなりの警戒ぶりが伝わってくる。
「うむ。そなたにも用はあるが、何よりもシャーロット殿だ。ふむ、かなりの美貌だ。これは是非とも――」
リヒターさんからの圧力にも屈せず、エドワード君は食らいついていく。押しのけようともしていた。
「……エドワード君、いいかな」
うん……話さないとだね。私は彼を呼んだ。
「おお、シャーロット殿! さあ、遠慮することはないぞ! 話すがよい!」
エドワード君は実に嬉しそうにしていた。そんな浮かれに浮かれた彼に、これから話そうとすること。ああ、良心が痛む……。
「……あの、お誘いは嬉しいです。でもそんな一軍女子の集まりとか、磨き上げられた美の化身たちとか。心が耐えられそうになくて。美女という呼称に相応しい人は、沢山いると思うので。私じゃなくてもなので。というわけで辞退させてください」
私は頭を下げた。なんとも悲しい理由からだった。呆気にとられていたエドワード君も、ハッとする。彼はそこからは必死だった。
「な、な、なんともったいない! シャーロット殿、是非とも入部するべきだ! 誇りをもって美女であるためにも!」
「ええー……」
エドワード君は引き下がらない。どれだけ熱量をもって説得してこようが。
「ごめんなさい。辞退でお願いします」
私は辞退の姿勢を崩さない……不相応が過ぎるので、辞退ったら辞退するんだ……! それに、お腹が空いてもいた。みんなそのはず。
「あと、お昼ご飯も食べたいし」
「……ええ、その通りでございます。ジェム様、どうぞお向かいくださいませ。エドワード様、まず部の設立の承認が下りておりません。御用向きは、私ではございませんか?」
「うむ、確かに。まずは、目の前の障壁をどうにかせねばな」
また美女部どうこうの話が始まった。エドワード君はすっかりそちらに意識がいっていた。リヒターさんがそれとなく誘導していて、自然に彼を教室から出て行かせていた。
見事だ、と私は感心しつつ。心配は尽きないままだった。
「……休めないよね、リヒターさん――」
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