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第四章
中等部の王様
放課後になり、寮に帰る時間となった。ここ最近、私は充実していた。リッカとの時間もとれており、読書をする余裕もある。なんて平和な毎日、何も憂うこともなく――。
「……」
美女部の件、結局断ってないとみなされていた。私としてはどうしても断りたい。いずれ話をしたいと考えていた。
「ジェム様。やはり、お考えでしょうか」
帰りの挨拶をしようとしたところで、リヒターさんが話しかけてきた。私は頷く。
「うん。美女部のこと。荷が重いかなって。中等部にいって断りいれてきたくて」
「ええ、ご賢明な判断かと存じます。ジェム様が関わることもございません」
「だよね、それじゃあね。また明日」
「――いえ、参りましょう」
私は向かおうとした。席を立ってついていこうとするのはリヒターさんだ。
「リヒターさん? 一緒に来てくれるの?」
「ええ、もちろん。お一人で向かわせるわけがありますか」
「それは嬉しいんだけど……」
昼の時点でもリヒターさんは疲れきっていたのに……? 放課後まで付き合わせるのは、さらに疲弊させることになるよね。私は気が引けていた。
「いえ、私もいい加減話に片をつけたかったところです。連日ご勘弁願いたいところでもありました。何が何でもついて参ります」
「そっか……それなら、お願いしようかな」
「何よりでございます。お一人にさせなくて済みました」
リヒターさんも都合がつくのなら。それからと、彼は忠告してきた。
「――呑まれるとでも申しましょうか。中等部、しいては美女部に至りましては」
リヒターさんは本気で言っていた。私も喉を鳴らす。彼がこんなにも疲労しているのは、ただ説得にてこずっているだけではないと。他の何かがあるというの……?
「もちろん、私も控えさせていただきます。何かございましたら、なんなりとご用命ください」
「リヒターさん……」
私の胸がざわついていた。自分が平和を堪能している中で。
何かが水面下で蠢いているかのようで――。
中等部に校舎に入った途端だった。得も知れぬ異様な雰囲気に、私たちは息苦しくなっていた。変わらぬ学園で、ここだけが別空間のようだった。
「……ああ、キング。今日も麗しい」
「俺、目があって微笑まれたらさ……こう」
中等部の生徒たちは陶酔しきった目をしていた。皆が皆そうではないけれど……。
「……最近になって、顕著になっております。エドワード様と関わる方々……皆々様が」
リヒターさんが重い口を開いた――エドワード君の崇拝者が増えていると。
「こんなことになってたんだ……」
私は愕然としていた。平和な高等部からしたら、あまりにも違い過ぎていた。また、彷彿もさせられることもあって……私の額に汗が伝う。
私と親交がある彼ら。その一人の学園のアイドルはいうまでもなく、リヒターさんもそうだった。妙なカリスマ性があった。彼を慕うがあまり――狂わせてしまうような。
「……ううん」
あの時のように、蛮行凶行に至っているわけじゃない。同じケースと決めつけるには、早すぎるよね……?
リヒターさんの案内で、中等部の最上階へと向かっていた。元は応接間あった豪奢な部屋が、今やエドワード君専用のものとなっていた。
「失礼いたします。自治委員のリヒターでございます。部の件で参りました」
「ふふ、どうぞお入りください」
ノックをすると、扉はすぐに開かれる。招き入れてくれたのは、美しい女子生徒だった。彼女は優雅に微笑んで、丁重に歓迎してくれた。
「ふふふ」
「うふふ」
広々とした応接室に集うのは、『美女』たちだ。楽しそうに談笑している。見事なまでにエドワード君より年上ばかり。お姉さん好きなのかな?
「……あの、エド様。私、やっぱり場違いなんじゃないかって」
部屋の隅にいるのは、自信が無さそうな少女だった。可愛い子なのに、他の華やかなる女子生徒たちに圧倒されていて……。
「……私、エド様に憧れて入りました。でも、私の見た目じゃ」
エドワード君に憧れ、好意があるようだった。
「ふむ」
中央の長椅子に腰かけ、女子を侍らせていたのはエドワード君。そんな彼は、所在なさげな少女の隣に立った。
「――そなたはな、十分美しいぞ」
「エド様……?」
額に触れられた少女は、頬を赤く染めながらも見上げる。エドワード君はニカっと笑いかけた。
「あとは自信だな! 余はな、世の女性を大事にしたいのだ。女性は皆、美しくもあり、もっと美しくなれる可能性も秘めておる――そうして余の傍で、開花してほしいのだ」
「は、はい……」
見つめかれ、至近距離で囁かれ、少女はひとたまりもなかっただろうね。
その様子を微笑ましく見ているのが、他の女子生徒たちだった。妬みなど存在しない、平和に満ちた空間だった。
「――どうだ。余は決して、不純な思いなどではないぞ」
エドワード君は再び、座り直した。美女を侍るのも忘れない。侍るといってもあからさまに触れているわけではなくて、節度はあるようだった。
「……エドワード君」
何も間違ってない、否定などさせまいと、暗に言われているようだった。言われるのは百も承知の上、自分の在り方を見せつけてきたんだ……。
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