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第四章
エド・クラウン一人の存在によって
「そなたは……」
エドワード君は目を見張っていた。それから笑った。
「……ふ、面白い。そなたは手強かったのだな。ならば――」
エドワード君は近づいてくる。伸ばされるのは手――私の腕を掴んで、引き入れようとしている。強引ともいえるような――。
「――なりません。無理な勧誘はお控えくださいと、申したはずですが」
リヒターさんがその腕を捕らえた。彼にしては強い語気でもあって。
「くっ……痛いぞ、痛いんだぞ! 自治委員自ら暴力行為か!」
エドワード君の言う事は本当のようで、彼は涙目だった。払うにも払えないようだった。
「はて、暴力行為とは。正当防衛でございますが」
「リヒターさん、もう大丈夫だから。おかげ様で助かったから」
「……かしこまりました」
リヒターさんから腕を離されると、エドワード君は患部をしきりにさすっていた。
「ああ、ほんに痛かったぞ……ああ、痛い痛い」
まだ涙目だった。痛みに素直なのかな、年相応の顔を見せていた。
「……それほどまででしたか。加減も知らず、申し訳ございませんでした」
リヒターさんはさすがに申し訳ないと思ったようだった。そこまでだったのかと。
「まあ、よい……ああ、シャーロット殿よ……」
リヒターさんの相手は切り上げ、私の方に顔を向けてきた。
「ああ……冷やしてくれぬか。ああ、痛い……」
「え……」
『それで冷やしておいてくれる? 時間経てば溶けるから』
以前のループで、エドワード君殴られたことがあったから。彼に対して氷を与えたことがあった、あったんだけど……。
「ん? 余は存じておるぞ。そなたは氷の魔力があるのだろう?」
「それは、うん……」
そっか、それだけだよね……? エドワード君はそれを知っていたからこそ、軽口で言っただけに過ぎないって。
「……まあ、なんだ。懐かしい気もしてな」
エドワード君は穏やかな顔をしていた。そんな懐かしむような表情、どうして?
彼に記憶はないはずなのに……。
「とりあえず、氷嚢代わりに――あとはよろしくお願いします」
私は一つ、氷の固まりを発生させた。近くにいた女子生徒に手渡しておく。手当は彼女たちにお任せすることにした。そんな彼女たち、私の魔法に大いにはしゃいでいた。
「……ジェム様」
私の横にすっとついたリヒターさん。こっそり話しかけてきた。
「ジェム様までも。この度は――」
「ううん。むしろありがとうね?」
あの時、リヒターさんの介入がなかったら……力として抗えなかったのは確かだったから。
「ああ、余は痛かったのだ……慰めてくれぬか。いたいのいたいのとんでけーと!」
「ふふ、エド様ったら。いたいのいたいのとんでけー」
氷の固まりを美女にあててもらい、エドワード君はご満悦だった。その、私たちのこと忘れているかのような……ひとまず、一声かけて退室しようとしたところ。
「――ん? ああ、よいぞ二人共。無理を強いるのは、確かに良くない。ここまでご苦労だった。帰ってよいぞ」
エドワード君はすんなりと解放してきた。私たちは呆気にとられるも。
「はあ……話がついたのなら、私は何も申しません。ようやく解放されましたから……」
「失礼しました……」
疲労と開放感が混濁したリヒターさん。私も疲れ切っていたから……私たちはそそくさと退室することにした。
「……」
「……」
美女部から解放されて、私たちはどっと疲れがよせていた。さらにこの異様な雰囲気の廊下ときたものだから。一刻も早く、この中等部から去りたかった。
エド・クラウン一人の存在によって、これほどまでに――。
エドワード君は異国の民であり、公用語も異なっている。それなのに、語学は堪能だった。学業成績も優秀ときた。
「貴族かぁ……」
高貴なる身分の持ち主。中等部を掌握している。学園の美女も思いのままにするのだろうね……。
「……」
平和が続いて欲しかった。このまま、たわいのない日常が続いて欲しかったのに。
今は気づかないくらい微かなもの……それでも。私の胸騒ぎは止まらなかった。
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