春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第四章

キングらしからぬ

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「……」

 私は借りた本を抱えて、一人廊下を歩く。休みということもあり、誰もいない。静寂に包まれていた。

 いけない、いけない……。これからはリッカとゆっくり過ごし、明日は待望のお出かけなんだから。気持ちを明るい方に切り替えないと。

「ううう……」
「……ひっ」

 通りがかった食堂から……呻き声がした。私は恐怖した。明るい気持ちにもっていこうとした途端に……。
 とはいえ、体調が悪い生徒でもいるかもしれない。そっと様子を窺うことにした。

「何故だ、何故なのだ……!」

 食堂の隅の席に座り込み、両肘をついて顔を覆っている生徒。さらに呻き声を上げていた人物は――エドワード君だった。いつもの強気さは潜め、陰湿な雰囲気をまとっていた。

「ええと……」

 体調が悪いというわけではなさそう。でもね、消沈しているエドワード君も気がかりで。

「自販機が、自販機が良くなかったのか……?」
「エドワード君、おはようっ?」

 自販機のことをアドバイスに交えたのは、この私……! これはもう責任を感じていた。放ってはおけなかった。

「……む、シャーロット殿か。良い朝と言えたら良かったのだが」
「うん……」

 まだ昼とはいえない、朝の時間帯だよね。この早い時間帯で、エドワード君はこうも落ち込んでいた。

 自販機ときた。クラーラさん絡みだよね……。

「うう……余はな、今日の逢瀬も楽しみにしていたのだ。三連休の一日を、クラーラ殿は余にくれた。今度こそと、余は雪辱を果たそうとした」

 やっぱりだった。私はそう思いつつも、エドワード君の話を聞くことにした。前の席を促されたので、そこに着席した。彼と向い合せになる。

「……クラーラ殿はな、前のデートは楽しかったとは言ってくれた。好みもな、聞いてみたがそれで間違いないと。でも、このような微笑ましいデートは好ましいと。年相応で新鮮だとも」
「……うん」

 微笑ましいときた。新鮮ときた。おかしくない、おかしくないんだよ。それでもどうも……含みがあるように思えてならなかった。ああ、クラーラさんの裏の顔さえ知らなければ……。

「本日も大層眠そうであった。そのような状況でも、来てくれただけ感謝しているのだ。だが、ほんに眠そうでな。余はまず、自販機を思い浮かべたのだ。自販機でコーヒーを飲みに行こうと」
「……うん」

 ここで自販機が……。
 そして、クラーラさんがこうも眠そうな理由。うん、考えたくなかった……。

「……自販機を見て、何かを考え込んでおられた。それから、やはり眠いから……帰ると」
「なんか、ごめんね……」
「いや、そなたのせいではない……うう、シャーロット殿まで。余が不甲斐ないばかりに」

 自販機が決め手になっちゃったのかな……責任を感じてしまう。

「……シャーロット殿。余は、何をやっているのだろうな。婦人を悲しませてばかりで」
「ううん。皆さん、色々あるかもだけど、君も楽しい思いしたいよね。デート楽しかったねって。満足して終わりたいよね。君だって頑張ってるのにね」

 その方向性がどうにせよ、エドワード君が女性たちを楽しませようとしているのは確かだった。

「聞いているとね? 振り回したり勝手だったり、しているわけじゃないし。君は、ちゃんと相手のことを考えている。それならね、伝わるんじゃないかなって」
「余は……」
「上手くいかない時があってもね。そんなエドワード君に好感を持っている子、ちゃんといると思うよ。クラーラさんも伝わってはいるんじゃないかな?」
「……」

 エドワード君は俯いたままだ。

「そうだよ、きっと……うん、きっと……」
 私も肩を落とした。今回のことは余程堪えたのかな、エドワード君……。

「……そなたは」
「うん?」

 エドワード君が小声で語りかけてきた。私は耳を傾ける。

「シャーロット殿は、そうなのか……余のこと馬鹿にしたりしないのか」
「馬鹿にって……私もしないし、他の子もしないでしょ」

 私は驚いた。唐突でもあったから。

「……『キング』らしからぬと。不慣れなのかと彼女達に笑われた。思っていたのと違うとも」 

 中等部を掌握しており、美女部でも王のように振る舞う。でも、今はどうなんだろ。目の前のエドワード君は――。

「……笑わなくてもいいのに。一応、悪気はないと思うけど」
「いや、余は気にしておらぬ。何てことないと笑っておったわ!」

 強がりだった。

「……キング、かぁ」

 キングらしい、か。
 私も噂でしか知らなかった頃は、そう思っていた。ただ、こうして彼と話をしてきたこと。それに、繰り返しの日々で知っていることもあるから。

「別に王様って傲慢って限らなくない? あ、違うかな。傲慢だけど、優しい王様だって普通にいない? 優しくて、でもってとっつきやすい」
「……え」

 エドワード君は顔を上げ、私を見ていた。

「親しみやすいのってよくない? 私だって話しやすいし。デート後も、なんだかんだで気まずくなってなさそうだし。私が前に部活で見た限りだと」 
「……む、そうなのか。そなた、話しやすいのか」
「私だとそうだね。こんな話下手が話せるくらいなんだから。君は十分すごいと思うよ」
「そ、そうか……そうなのか」

 エドワード君は落ち着きがない。口元が少し緩んでいた。気分が浮上してくれたのかな? なら良かった。

 不思議だね。こう、放っておけないというか。力にもなりたいって気持ちにさせてくるものだから。
 ほんと、エドワード君は不思議。

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