284 / 557
第四章
キングらしからぬ
しおりを挟む「……」
私は借りた本を抱えて、一人廊下を歩く。休みということもあり、誰もいない。静寂に包まれていた。
いけない、いけない……。これからはリッカとゆっくり過ごし、明日は待望のお出かけなんだから。気持ちを明るい方に切り替えないと。
「ううう……」
「……ひっ」
通りがかった食堂から……呻き声がした。私は恐怖した。明るい気持ちにもっていこうとした途端に……。
とはいえ、体調が悪い生徒でもいるかもしれない。そっと様子を窺うことにした。
「何故だ、何故なのだ……!」
食堂の隅の席に座り込み、両肘をついて顔を覆っている生徒。さらに呻き声を上げていた人物は――エドワード君だった。いつもの強気さは潜め、陰湿な雰囲気をまとっていた。
「ええと……」
体調が悪いというわけではなさそう。でもね、消沈しているエドワード君も気がかりで。
「自販機が、自販機が良くなかったのか……?」
「エドワード君、おはようっ?」
自販機のことをアドバイスに交えたのは、この私……! これはもう責任を感じていた。放ってはおけなかった。
「……む、シャーロット殿か。良い朝と言えたら良かったのだが」
「うん……」
まだ昼とはいえない、朝の時間帯だよね。この早い時間帯で、エドワード君はこうも落ち込んでいた。
自販機ときた。クラーラさん絡みだよね……。
「うう……余はな、今日の逢瀬も楽しみにしていたのだ。三連休の一日を、クラーラ殿は余にくれた。今度こそと、余は雪辱を果たそうとした」
やっぱりだった。私はそう思いつつも、エドワード君の話を聞くことにした。前の席を促されたので、そこに着席した。彼と向い合せになる。
「……クラーラ殿はな、前のデートは楽しかったとは言ってくれた。好みもな、聞いてみたがそれで間違いないと。でも、このような微笑ましいデートは好ましいと。年相応で新鮮だとも」
「……うん」
微笑ましいときた。新鮮ときた。おかしくない、おかしくないんだよ。それでもどうも……含みがあるように思えてならなかった。ああ、クラーラさんの裏の顔さえ知らなければ……。
「本日も大層眠そうであった。そのような状況でも、来てくれただけ感謝しているのだ。だが、ほんに眠そうでな。余はまず、自販機を思い浮かべたのだ。自販機でコーヒーを飲みに行こうと」
「……うん」
ここで自販機が……。
そして、クラーラさんがこうも眠そうな理由。うん、考えたくなかった……。
「……自販機を見て、何かを考え込んでおられた。それから、やはり眠いから……帰ると」
「なんか、ごめんね……」
「いや、そなたのせいではない……うう、シャーロット殿まで。余が不甲斐ないばかりに」
自販機が決め手になっちゃったのかな……責任を感じてしまう。
「……シャーロット殿。余は、何をやっているのだろうな。婦人を悲しませてばかりで」
「ううん。皆さん、色々あるかもだけど、君も楽しい思いしたいよね。デート楽しかったねって。満足して終わりたいよね。君だって頑張ってるのにね」
その方向性がどうにせよ、エドワード君が女性たちを楽しませようとしているのは確かだった。
「聞いているとね? 振り回したり勝手だったり、しているわけじゃないし。君は、ちゃんと相手のことを考えている。それならね、伝わるんじゃないかなって」
「余は……」
「上手くいかない時があってもね。そんなエドワード君に好感を持っている子、ちゃんといると思うよ。クラーラさんも伝わってはいるんじゃないかな?」
「……」
エドワード君は俯いたままだ。
「そうだよ、きっと……うん、きっと……」
私も肩を落とした。今回のことは余程堪えたのかな、エドワード君……。
「……そなたは」
「うん?」
エドワード君が小声で語りかけてきた。私は耳を傾ける。
「シャーロット殿は、そうなのか……余のこと馬鹿にしたりしないのか」
「馬鹿にって……私もしないし、他の子もしないでしょ」
私は驚いた。唐突でもあったから。
「……『キング』らしからぬと。不慣れなのかと彼女達に笑われた。思っていたのと違うとも」
中等部を掌握しており、美女部でも王のように振る舞う。でも、今はどうなんだろ。目の前のエドワード君は――。
「……笑わなくてもいいのに。一応、悪気はないと思うけど」
「いや、余は気にしておらぬ。何てことないと笑っておったわ!」
強がりだった。
「……キング、かぁ」
キングらしい、か。
私も噂でしか知らなかった頃は、そう思っていた。ただ、こうして彼と話をしてきたこと。それに、繰り返しの日々で知っていることもあるから。
「別に王様って傲慢って限らなくない? あ、違うかな。傲慢だけど、優しい王様だって普通にいない? 優しくて、でもってとっつきやすい」
「……え」
エドワード君は顔を上げ、私を見ていた。
「親しみやすいのってよくない? 私だって話しやすいし。デート後も、なんだかんだで気まずくなってなさそうだし。私が前に部活で見た限りだと」
「……む、そうなのか。そなた、話しやすいのか」
「私だとそうだね。こんな話下手が話せるくらいなんだから。君は十分すごいと思うよ」
「そ、そうか……そうなのか」
エドワード君は落ち着きがない。口元が少し緩んでいた。気分が浮上してくれたのかな? なら良かった。
不思議だね。こう、放っておけないというか。力にもなりたいって気持ちにさせてくるものだから。
ほんと、エドワード君は不思議。
0
あなたにおすすめの小説
彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します
八
恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。
なろうに別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
一部加筆修正しています。
2025/9/9完結しました。ありがとうございました。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます
山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった
「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」
そう思った時すべてを思い出した。
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ
私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない
バットエンド処刑されて終わりなのだ
こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった
さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?
甘寧
恋愛
婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。
……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。
※不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる