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第四章
幸せな、幸せな時間
「……リッカ? ただいまー?」
やっとのこと、自室に帰れた。迎えてくれたのが、おすわりしながらも機嫌が悪そうなリッカだ。
「……すぐ帰るって言ってた」
「う……ごめんね」
本の貸借だけなら、時間はかからないはずだった。エドワード君の相談に乗ったのも、ここまでかかるとは考えていなかった。最後の押し問答がかなり影響を与えてしまっていた。
リッカはそれだけが不満かと思えば、そうではなく。
「猫の匂い、すごい。猫に会ってたんだ……また」
私の匂いをしきりに嗅いでいた。念入りにである。リッカはまだ嗅いでいる。しかも『また』って……。
「リッカ……」
リッカはどうも猫と相容れないようだった。学園の従業員が飼っている猫と遭遇したことがある。向こうは友好的だったけど、リッカの方が私の後ろに隠れてしまっていた。
猫が恐怖を与えた存在だとか……?
理由は語らない。リッカ自身もわかってないようだった。
「猫には会ってないけど……」
私が思い当たるとするなら――獣人のエミルさんかな。
「うん。リッカ、その人ね。エミルさんっていって、図書室の人なんだ。猫の獣人でもあってね。とにかくね……穏やかで、優しい人だよ」
「獣人。うん、知ってる。猫の匂いするの、その人だったんだ」
「うん、きっとそうだね。すごいねリッカ。私は匂いとかわからなかった」
「そうなんだ。うん、僕はわかったの」
私と話している内に、リッカは落ち着いてきたみたい。一方で、私は悩んでいた。
「絵本をね、リッカ読むかなって。興味ないのかなって思ってたけど、春の女神様ならどうかって」
「……あのね、興味ないとかじゃないの。匂いがすごかったから」
「そうだったんだ……」
私、察すれば良かったんだ……。よかれと思ったのが、リッカを悲しませることになるのなら。すぐに本を返しに行こうかな……。
「絵本読みたい。シャーリー、読んでくれる?」
察してくれたのは、リッカの方だった。どこまで優しい子なの……尻尾まで振ってくれている。
「……うん。うん、読み聞かせするからね。それじゃ、読もうね」
「うんっ」
私たちは床に座り込んで、絵本を開いていく。リッカも大人しく聞いていた。
もっと読んでほしい。リッカにせがまれ、私は何度も読み聞かせた。いいんだよ、リッカ? いくらでも、いくらでも読むからね? 可愛いねぇ……。
静かで幸せな時間だね。次第に眠くなっていき――。
日が沈む散歩道を歩く。リッカは何度も私を振り返って、嬉しそうにしていた。気持ちは同じだよ。リッカに微笑みで返した。
寮に帰り、夕ご飯を食べて、まったりしていた。まだ、就寝時間までは時間はあった。
「ねえ、シャーリー。ご本、呼んでほしいの」
「うん、いいよ。絵本もいいけど、こっちもどうかな?」
絵本も良いけどね、旅行に関する本あるんだ。私は本を開いて、画像を見せた。掲載されていたのは、春の女神ゆかりの地――常緑の庭園だった。
「わあ……」
リッカは本当に嬉しそうに目を輝かせていた。
「ここね、前に話していたところだよ。モルゲン先生が授業で話してくださって」
「うんっ! 僕もいきたいねって」
「だよねだよね。鉄道のチケットもとってるから。あのね、リッカ。二人分かと思ったら、膝にのせたら一人分でもいいんだって。チケット代浮いたの、その分で美味しいご飯も食べられるよ」
「美味しいごはんっ」
リッカはより尻尾を激しく振った。うんうん、楽しみだねぇ……!
部屋の片隅にあるのは、キャリーバッグだ。村の人からお借りしたもの、未使用時は畳めるという。お土産代も貯めてきた分で賄う。明日の準備は万全だった!
「楽しみだね。一緒に遠出だね、リッカ」
「うんっ」
明日は早朝の出発となる。リッカはもっと本を呼んでほしそうだったけど、苦渋の判断で早目に就寝することになった。
昼寝の分、眠れないかと思ったけれど杞憂だった――気がつけば眠っていた。
優しい日常。もう、死に怯えることもない。明日だって、楽しい一日になるはず。
私は眠りの中、明日を待ち望んだ――。
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