春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
289 / 557
第四章

禁足地の花



 長く歩いた末、辿り着いたのが常緑の庭園だった――庭園の美しさに見入った女神が、時折降りてくるようになったと。伝承に残る場所でもあった。

「綺麗……」

 そこは、冬を忘れさせてくれる場所。緑が生い茂り、瑞々しい花々を咲かせている。手入れの行き届いた、美しさを誇る庭園だった。
 曇り空の下でも、これだけのもの。晴れていたらどれだけ美しかったのかな。

「くんくん」

 私が見惚れている間に、リッカが奥へと移動していった。匂いを辿りながらだ。

「リッカ、待って……!」

 リードをぐいぐい引っ張っていく。私は慌てて追いかけた。



「わあ……」

 リッカを追いかけた先――私は目を奪われた。

 深い木々の中、木漏れ日が差す。ここだけが天候が関係ないといわんばかりに。
 清浄な空気が漂い、神聖とも思える場所でもあった。

「すごい……」

 そこにあるのは、巨大な一輪の花。花の香りも芳しい。

「ああ、なんて……」

 ……見ていると堪らなくなってくる。温かな愛で守られているかのような、泣きたくなるような気持ち――私は祈らずにはいられなかった。

「へっへっへっへっ」

 リッカも口を開けて、微笑んでいた。リッカにとっての大切な存在――春の女神に向けるかのような眼差し。

「リッカが連れてきてくれたんだね」
「わふっ」

 光を浴びて、純白な子犬がより輝く。神々しくみえて――遠くの存在のように思えた。

「――お嬢さん方、いらしたのですね」
「こんにちは。さっきぶりですね」

 凛とした声がした。鉄道で一緒になったご婦人だった。

「お会い出来てよかった。お嬢さん、こちらに訪れてしまったのね」

 婦人は光に目を眩しくするも、巨大な花を見上げていた。彼女は語る。

「……そう、巡り合わせかしら。本当はね、こちらが女神様ゆかりの地――あちらの庭園はね、人の手が入ったものに過ぎないの。多くの人は、充分美しいと愛でるのでしょうね」
「……」

 充分に美しいと思った人がここにいた。私だ。俗人だ。

「……私も、入口の方で充分綺麗だと思ってました。それと、この子が連れてきてくれたので」

 私は恥ずかしさのあまり、顔が赤くなった。リッカは首を傾けている。

「ふふ、正直なお嬢さん。美しいと思える心、とても大事だと思いますよ」

 ごめんなさいね、と夫人は謝りつつも。

「――そして、老婆心に一つ」

 柔らかく微笑んでいた婦人が、無表情となった。その差に私はどきりとしてしまう。

「……『こちら』は神聖なる地。禁足地といえるかしら」
「え……」
「わたくしもすぐに戻ります。お嬢さん方、あなた方もすぐに立ち去りなさい――あの者達に見つかる前に」

 あの者。私が尋ねようにも、婦人は首を振る。そこまでは教えてくれないようだった。
 あえて、でもあったのかも――知らなくてもいいと、告げているかのようで。

「――以上よ。『あちら』の庭園は美しい、その通りなの。人の手によるもの、届く範疇。お嬢さん、あなたは正常なのよ」

 それを伝えたく、婦人は追いかけてきてくださっと。こうして踏み入れられる彼女自体、謎でもあったけれど……。

「では、わたくしはこれにて。ごきげんよう」
「教えてくださって、ありがとうございました……」

 婦人は光に溶け込むかのように、消えていった。

「……禁足地」

 彼女の戯言とは思わなかった。

「リッカ、戻ろう」
「……くうん」

 リッカの尻尾は下がった。女神を感じられる場所にもっといたかったよね……。
 それでも、リッカは引き返すことにしたようだ。我慢、させてしまったね……。

「……ごめんね。あっちの庭園も綺麗だから。じっくり見ようね?」
「わふっ」

 リッカは私の足元にすり寄った。気遣ってくれたんだね。どこまでも優しい子……。




「あ……」
「くーん……」

 庭園に戻ると、観光客たちはいなくなっていた。この大降りによるものだった。豪雨も豪雨だった。

 禁足地にいる時は晴れ間の中だったけれど、こちらでは雨が降り続いていたのかも。

「っと、カッパ!」

 私はひとまず自分のコートをリッカに被せ、リュックから雨合羽を取り出した。リッカも大人しく着させられていた。私もコートを着直して、その上から雨合羽を羽織る。

 リッカを抱え、鉄道駅へと戻ることにした。キャリーバッグを預けていたのが不幸中の幸いだったと思うことにした。

「リッカ……駅でもね、お土産売ってたから。そこで美味しいもの食べようね」
「わんっ」

 この豪雨では留まることも厳しい。楽しい旅になるはずだったのに、こうなってしまったから……せめてと。私は気持ち明るめに伝えた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。