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第四章
死を招く者が……?
「あ……」
私たちが上りきると、氷の階段も溶けて消失していった。
私は自分の手の平を見た。魔力の残量もほとんど無かった。体力が摩耗していたことも関係しているの? それとも。
――何者かの干渉があるというの?
「……帰ろう、リッカ」
「シャーリー……真っ赤」
無理がたたったのか、傷口から血が流れ出ていた。敗れた雨合羽や服の隙間、雨が傷口にもしみる。私は最低限の止血をした。それから、リッカに笑ってみせる。
「……ふふ、平気。なんてことないから」
「……わん」
駅まで着けば、そこにさえ辿り着けば。それを励みに、豪雨のなか歩く。
リッカには下りて歩いてももらった。風の勢いが止んでくれて良かったと、私は思っていた。
「はあはあ……」
頭が朦朧とする。視界も霞んできた。おかしい、おかしいよ――一向に駅に辿り着かない。
「くーん……」
リッカも鼻に意識を集中させる。元の道をきちんと辿っているはずなのに。
おかしい。何かがおかしい。何もかもがおかしい。
突然の豪雨も。引きずられるかのように滑り落ちたことも。こうして迷わせられることも。それはまるで――。
「……いやだ」
死が近づいてくるかのような。
あれだけ平和だった日常が。
崩れ去るかのような。
「シャーリー……」
沈む私を見て、リッカはたまらなくなったのか。
「……わん」
最初は小さく。それからやがて。
「わん、わんわんわんっ!」
「リッカ……」
豪雨の音に消されようとも、リッカは吠え続けていた。救援を呼んでいるかのようだった。
「わんわん! わんわんわん! ……くーん、くーん」
その声に呼ばれたのか。
「……え」
目の前からやってくる人物。他人の前だというのに、声をもらしたのはリッカ……? 彼は吠えるのを忘れるほどで。
信じられないと、表情が物語っていた。
「……」
私はもう、言葉にならなかった。
どうして。どうして、この平穏である場に。
どうして。どうして、この平和である時に。
頭巾と一体の覆面で顔を隠す者。胸元には国章も携えている、国家公認の部隊である存在。
今は一人のようだった。
それでも、たった一人の存在だけでも。
「……」
体の震えが止まらない。無機質めいた存在は、怯え震える私を歯牙にもかけない。
この覆面の存在に思想や感情があるならば――春の女神に関わることのみ。
それを私は知っていた。何度も、何度も相対してきたから。
彼らは女神の下に集いし、精鋭。国家に仇成す者を下す者たち。女神が好む鳥類から授かった名は――金糸雀隊。
私は知っていた。何度も、何度も。
謂れのない罪に問われた時、彼らの手によって――殺められてきたから。
私にとっての『死神』――そのものだった。
「……また、なの」
決まって殺人の罪をなすりつけられた時、彼らは処す為にやってくる。
また、事件が起きてしまったというの――誰かが殺され、誰かが殺したのか。
山奥なので、わからなかったということなの……? 私は冥福を祈るも、自分の事態を省みる。
そして、拳を握りしめた。魔力の残量はほぼ無いに等しくとも――抗ってみせると。
「……」
「……?」
いつもならば。真っ先に捕らえるか、殺しにかかるか。それが彼らの常だったはず。そのはずが、相手はそうはしない。私の様子を見ていた。
「……遭難したのか」
「え……」
決意をした矢先だった。思わぬ言葉に私は気が緩みかけてしまう。まずい、と気を引き締めるも。
「見たところ、怪我もしている……犬も連れて」
「……」
覆面で視線の先はわからないけれど、リッカを注視しているようだった。そのリッカは何も言わない。唸ることもしない。ただ、黙っている。
「――救護にあたる。こちらへ」
「え……!?」
私は思わず声を上げていた。即、斬りかかる存在が。この私を救護するといってきたから。
「……どういうことだ。人命救助を行うに過ぎないが」
若干高めながらも男性の声、彼は感情は覆面では読み取れない。それでもどこか不満そうだった。
「……」
私は痛む体ながらも、内心は『無理無理』を連呼していた。今は虚勢を張っているけれど、関わらないで済むならそうしたい。ましてや、怪我をしているのはリッカではなく、私だから。
私は決めた。リッカを連れて走り去ろうと――。
「気でも動転しているのだろうか――失礼」
「えっ、いや、本当にいいから……!?」
私は俵のように担がれてしまった。抵抗するも、相手の片腕だけで動きを封じられてしまっていた……なんて馬鹿力!
「暴れるな。傷にさわる」
「……!」
「……放ってはおけない」
「……」
……私は抵抗するのをやめた。決して、労わるような声だからとか。慈しむような声だったからと思ったわけではない。私は言い聞かせていた。これはそう――。
「……すみません、お願いします」
相手を逆上させない為だと。やり過ごす為。でなければ、この男と関わることもないと。
「……」
リッカもあとをついていく。沈む面持ちの彼もまた、私は気がかりだった。
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