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第四章
怒りを向けられても、恨まれても
しおりを挟む民衆の怒りの声がする。悲しみの声がする。悼む声もした。怒号が鳴り響く。この騒々しさの中、私は目を覚ました。
「……?」
うっすらと目を開けると、視界に広がるのは都の広場。詰めかけた民衆たちだ。
「ああ……」
そして、断頭台にかけられたことに気がつく。刃を向けるのは金糸雀隊だ――執行するのは黒い覆面の人物。誰かはわからないままにしているんだ。
金糸雀隊にとっても、民衆たちにとっても――女神の巫女を殺めたシャーロット・ジェムは大罪人。憎しみが枯れることのない存在だった。
誰しもが憎しみの目を向ける。女神に捧げる歌い手も務めた少女。有望であり、人望もあった少女――うら若き乙女を喪ってしまったと。
「……クラーラさん」
私は誓って殺めていない。困った隣人でもあったけれど、気さくに接してくれていた。当然悲しみの気持ちはあり、悼みたくもあった。
――エドワード君も。あれだけクラーラさんに心を寄せていたんだ。どれだけ悲しむことかと……。
「――今になって後悔でしょうか」
刃を向ける金糸雀隊が嘲笑の声をあげた。でも、嘲笑うは一瞬。
「……死してもなお、私はお前を恨み続けます」
「……!」
覆面越しでもわかる、憎悪の感情。深く、深く――私を憎んでいた。
それは広場に集った民衆たちも同じだった。殺せ、殺せのシュプレヒコール。
「そっか……」
そう……そうなんだね……。
平和な日常は終わってしまった。ううん、それは本当に日常だったのかな。
これこそが、自分の日常じゃないの――死から逃れないのが。皇冬花から続く、シャーロット・ジェムの日常だったのでは。あの日々は偽りだったのだと。
こうして死を望まれるのが、私の常ならば。
「は……」
家族同然の愛犬と共に笑い合い。幼馴染に振り回され、同級生と苦労を分かち合い、女友達でもある先輩と遊びに行く。前世からの付き合いの彼ともお喋りをする。
――温かい教師に見守れられながら、やっと楽しい学園生活を送れていたのに。
こんな。
こんな日常はまやかしだったのだと。
死から逃れない私に見せてくれた、儚くも優しい夢だったのだと。
「……」
私に未来などない。あるのは死のみだと。
「――いいえ」
私は前を見据えた。
『あのね、シャーリー。僕、楽しかったよ。ずっと一緒にいられた。僕、それが嬉しかったの。ほんとだよ』
リッカには心から笑ってほしかった。もっと楽しい思い出を作りたかった。
『シャーロットとも一緒に行きたいよー。君が乗り気になってくれればだし』
私だってね、ララシアには行ってみたかった。大切な彼らと共に。アルトもあんなにも張り切って、楽しみにしていたでしょうに。
『話がついたのなら、私は何も申しません。ようやく解放されましたから』
私はいつも思っていた。すすんで大変な役目を引き受ける、リヒターさんの負担も和らげたかった。
『今度はリナにも付き合ってよね』
私もリナさんと出掛けたかった。家族の件で色々あった彼女、ようやく心から笑うようになってくれたのに。
これからだったのに。
何もかもが、これからだったのに。
「……女。言い残すことはあるか」
「え」
思わぬ申し出だった。それは、長と呼ばれる者からだった。
「……随分親切なんですね」
自分でも思う、棘のある言い方。これまでの鬱憤もぶつけるようだった。
「……お前、長の情けを!」
「静まれ」
憤る女性を諫めたのは、長である彼だ。首を振っていた。
言いたいこと……何を言わせたいというの。
詫び、謝罪?
感謝の言葉?
そんなの……そんなの!
「……私は!」
私は息を吸い込んで、そして声を張り上げた。
「私は無実です! 誓って、クラーラさんを殺してなんていない! そうやって、そうやって! 本当に殺した人を見抜けないなんて……!」
私は自分は無罪だと叫び続けていた。この断頭台を破壊できるほどの魔力はもう、残っていない。宿命づけられることへの最期の抵抗だった。
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