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第四章
私、美女部に入ります
しおりを挟む「――さて、おさらいするか」
「はい」
朝食も食べ終えて、食後に紅茶もいただいて。気持ちを落ち着けたところで、振り返ることになった。
先生は近くのカウンター席に腰掛けた。私はソファに座っていた。膝の上のリッカは、すやすやと眠っていた。うん、ゆっくり休んでね……。
……あの処刑台のことは消えてくれない。脳裏に焼き付いたまま。
それでも、もう二度と繰り返さない為に。
そして、何も悪くないはずの――『被害者』を守る為に。
「今回の被害者は、クラーラ・メーディウム嬢。春の女神の巫女にして、話題の人物でもあった。話題の人物に関してはな……俺も、責任を感じているというか」
「いえ、先生……致し方なかったとは思いますし」
「ああ、そう言ってくれるんだな……」
肝心の歌手が不在になってしまい、代理を務めたのがクラーラさんだった。彼女は見事にやりきった。一気に注目の人となってしまったのもあった。
「俺もな……駄目元でもあったんだ。ちょうど会場でクラーラを見かけてな。以前、彼女が歌っている映像を見たことがあった。まあ、見事なものだった。歌の見事さもさることながら――幻想的でもあった」
とんでもない提案だったとは思う。それを受けてくれたのはクラーラさん。彼女のおかげで式典は無事終えられたのだから、感謝してもしきれない。先生のおかげであるとも思ってます。
「公にされた存在じゃなかったのにな……隠れ里で育てられたというしな。俺も謎のままだ。招待したうちの学園長のお考えもな」
招いたのは学園長先生? クラーラさんの入学理由は現時点では謎のまま、ううん――。
「クラーラさん、学ぶのに遅いってことはないとか。そんな感じでおっしゃっていたので、普通に学びたかったとか。学園生活を送りたかった……とか」
そういったこと、仰っていたよね。私がそうお伝えすると。
「学園生活を……か」
先生……? 何かを考え込んでいるの? 私がそれとなく視線を送ると、彼は『なんでもない』と首を振っていた。
「あとは……クラーラが狙われた理由か。まあ、分け隔てなく優しい子だったな。好かれてはいた……なんだけどな」
「それはそうだと思います……思いますけど」
被害者のクラーラさんは、人望のある生徒だった。編入したてでもすぐに馴染んでいた。
でも、それだけではなくて。裏の顔を知ってしまった私もだし、モルゲン先生も教師として把握していた気もしている。彼の神妙な顔つきがそう示しているような……。
「……」
「……」
先生も、ですよね? ……私もです。すごく、すごく言いづらいんです。
「……今、浮かんだよな? その可能性もあるのか……?」
「……はい。その、可能性の一つとして、ではありますが……」
きっとそう、私たちが思い浮かべているものは――痴情のもつれだと。
「断定には早いがな……だとしても」
――藁にもすがる思いだ、と。先生は唇を噛み締めていた。先生……。
「夜、出歩いているのな……中々補導できなくてな……はぁ」
先生も手こずるとは……煙に巻かれているのかな。
「それは私もです。夜遊びに出掛けるのを止められなかったですし……はぁ」
クラーラさんが自負するだけはあった……なんて立ち回りの上手いこと。
「……あ」
思い返すのは、クラーラさんに懸想していた少年のこと。いつもそっけなくされ、打ちひしがれていた彼。愛が人を変えるというのなら――。
「……おそらく、彼も候補に上がりますよね。彼――エドワード君が。クラーラさんのこと、慕ってましたから。強い想いもあったかなって」
とても気の良い子だし、純粋にクラーラさんを想っていると。私はそう信じていた。
でもそれこそ……人はどう変わるかわからない。
「……うん」
確たる証拠はない。私も疑いたいわけでもない。でも、疑惑の芽はある。
「連休最終日、エドワード君は……彼は」
おいそれと第三者に告げていいことではない。恋事に関することだから、配慮もしたかった。でもね、そうはいってられない。あの未来は御免だと……私は先生にも共有することにした。
「――クラーラさんと約束をとりつけてました。夜遅くまでです。承諾を受けたかまではわかりませんが……」
「そうなのか……」
私の発言に、先生は考え込まれていた。これこそ痴情のもつれではないか、一気に黒と思わしき人物として、名乗り出ることになったのでは、と。
「そして、焚きつけたのは私でした……エドワード君がもしそうだったとしたら、責任を感じずにはいられません……」
良かれと思ってしたことでも、それが今回の殺人に繋がっていたとしたら。私はなんてことを……。
私は震えながらも続ける。
「……殺人に関しては、何も証拠はありません。濡れ衣の可能性だって。でも、私は『あの未来』は嫌。その為なら、ああだこうだ言ってもいられないなって」
鍵は――『美女部』の中にあるとふんだ上で。
あくまでエドワード君には疑惑はもたれないように。クラーラさんもそこにいるはずだから。
「――私、美女部に入ります」
私は宣言した。
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