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第四章
そなたを選ぶ
しおりを挟むもうすっかり暗くなっていた。散歩の時間も遅れてしまった。リッカは尻尾を振って迎えてくれていた。お待たせ、リッカ。
私たちは校内を散歩していた。私はお詫びの意味も込めて提案した。
「リッカ。美味しいお水、買っていこっか」
「へっへっへっへっ」
売店にあるお水をね。リッカは嬉しそうだ。ぎりぎり閉店に間に合うかどうかの時間だった。私たちは急ぐことにした。
実際に着いたのは、閉店直後だった。間に合わなかったねと、私たちは顔を合わせていたところ。
「――待っておったぞ、シャーロット殿」
「……エドワード君?」
……驚いた。売店のベンチに座り込んでいたのは、エドワード君だった。私を見上げる彼は。
「余は話があって……ひいっっっ!」
「くーん……」
と、言いかけたとこで……エドワード君は竦み上がった。リッカはその反応に悲しそうにしていた。
「い、いや、すまぬ……余はな、犬に噛まれたことがあってだな。恐怖心が消えてくれないのだ」
胸が痛んだのか、エドワード君は釈明していた。ベンチの上に座り込んで、逃げの姿勢のままで。
ううん、エドワード君は逃げることはない。話あるって、そう言ってたものね。
「……うん。この距離からでよければ、話聞くね。リッカも、付き合ってもらっていい?」
「わんっ」
以前のように恋愛相談に乗ってほしいかな? 一定の距離を保ちつつ、話を聞くことにした。
「……すまぬな。余はな、乙女と放課後デートをしておった。だがな」
「うん」
だがな、ときた。どうしたんだろ。
「……肝心の余が、上の空になってしまってな。気もそぞろだった。それも――目撃してしまったからだ」
「目撃って?」
「……そなたらは、楽しそうであったではないか。親しげであったぞ」
「うーん……」
私は唸った。私相手に嫉妬しているのかな……クラーラさんとの仲を疑っている気がする。これはまた――拗れそうな……。
「シャーロット殿、そなたらはどういった関係なのだ!?」
直球で聞いてきた。ちょっと、心の準備が出来てなかったけれど、すごく見てくるし……答えないと。
「それ、誤解だよ。クラーラさん、交友関係広げる為に来たんだって」
「……そなたは」
「私?」
何故、と私は思うも、自分の立場を省みた。今の私は。
「たまたま居合わせただけだよ。私、美女部だし。エドワード君差し置いてとかないよ」
事情や思惑があるにしろ、彼のハーレムの一員だった。
「……シャーロット殿。まあ、わかってはいた……いたのだがな」
エドワード君は立ち上がり、あろうことにも近づいてきた。
「え……」
リッカが――子犬が側にいるのに、あれだけ怖れていたのに。エドワード君は厭わない。私は気持ち強めにリードを握った。
「……やはりな」
私の瞳を見つめては、エドワード君はそう呟いた。
「――恋を宿してない瞳だな」
「!」
以前にも言われたこと。エドワード君は覚えてないにしろ、私はいやに緊張してしまう。
「……」
それから彼が黙り込むから余計に。
「エドワード君……?」
「……余はな、それが――大層、面白くないのだ!」
エドワード君は重々しい表情から一転、ふんぞり返った。混乱する私をよそに、彼は宣言し始めた。
「うむ、そういうことだ! 余が上の空だったのも、そなたが気になっていたからだ! しかも、そなたは余を慕って入部もしてくれた。これはもう、もうなのだ!」
「……」
エドワード君は興奮しきっていた。私はポカンとしていた……事態についていけなくて。
「こうして逢えたのも運命。余はな、そなたに全力で参るぞ!」
「あ、そうなんだ……ええと」
「『あ、そうなんだ』とは、どういった反応なのだ……?」
「ええと、ごめん?」
私は整理をすることにした。私は必死だった。
エドワード君はあれかな。私をターゲットにした、で合ってる? なんか気になる点があったから? 美女部に自ら入部したから? 私は考えるも考えて――。
「……」
怖ろしい想像もしてしまった。仮も仮の話で――犯人がエドワード君で、しかも愛憎によって狙われてしまったとしたら……。
「私なら……」
まだ自分が狙われた方がマシだと思った。氷の魔力もあるし、先の事も知っている。それだけでも大分違うと。
「シャーロット殿、どこへ参りたい? 余はな、どこへでも付き合うぞ!」
「……エドワード君」
私がそう考えているとは知らず、エドワード君は純粋な笑顔を見せていた。血生臭い事態に発展するとは思えないもの。
こんな子が殺したりするの? ……それも、愛憎が起因となって? ……私は胸が痛くなった。
クラーラさん殺害事件は、犯人も動悸もわからないまま。エドワード君が犯人とも決定づけられていない。まだ決めつけるわけにはいかない。
「……うん。仲良くなりたいな、とは思っているよ。でも、ゆっくりでいいというか」
私は緊張しながらもそう伝えた。
「なるほどな。確かにな――だが、シャーロット殿よ」
「……わふっ」
エドワード君が一歩、一歩と距離をつめてきた。それとなく間に入るリッカも気にせずに。
「これは、予感に過ぎない。だが、余はきっと――そなたを選ぶ」
エドワード君は頬を染めながら宣言していた――。
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