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第四章
君といると楽しい
しおりを挟む二人の学園巡りは続く。ノープランでもあったこのデート、次はどこへ向かおうかと話している時だった。
「――しかし、どこもかしこも寒いものだ。シャーロット殿もさぞ、冷えたものだろう」
「うん、寒いよね」
私はエドワード君を見た。気にしてくれている彼の方が――大層寒そうだった。南国出身の彼は寒さに耐性がないようで、身体をぶるぶる震わせていた。
「そうだ、校舎に入ろっか。温かい飲み物でも飲まない?」
「ほう、名案だな。高等部の食堂といったところか」
寒さに打ちひしがれているエドワード君に提案してみた。彼は目をキラキラさせている。
「そう。自販機なら稼働しているから」
「ほう、自販機……自販機か」
「うん……自販機」
「自販機ときたか……」
エドワード君、自販機に思うところがあるのかな? 記憶に無いはずなのに、なんだろ、この反応は……?
「ほら、冷えるから。行こう行こう」
とはいえ、押し切った。
休日の食堂は営業はしておらず、開放のみされていた。先客はいないようで、私たちだけだった。私は早速、自販機のところへ。
「なに飲みたい? 紅茶派? コーヒー派?」
「むむっ、いかんぞ。ここは、余が奢るのだ」
「自分の分、先に買っちゃった」
話している間に、私は好きな飲み物を購入していた。エドワード君はしてやられた、と悔しそうにしていた。あらら。
「……せめてだ。余の分は自分で買う。して、種類だな」
気持ちを切り替えたエドワード君は、種類を物色していた。温かいメニューを無難に選ぶと思われたけれど。
「まずは、これだな」
エドワード君はあろうことにも、冷たいジュースを選んでいた。それから、別の種類まで。さらにもう一種。三種購入したところで、高らかに言った。
「さあ、味を混ぜ合わせるのだ!」
近くの席に着くと、エドワード君は三杯をテーブルに並べていた。溢れ出しそうなぎりぎりを攻めていた。楽しそうにしていた。
「学生らがやっているのを見てな、一度やってみたかったのだ……おお、凄い色だ。味もどのようなものだろうな? 余はな、果敢に挑戦してみせよう」
「ええー……」
「どうだ、シャーロット殿。余はな、臆することもないのだぞ!」
「……ぷっ」
私は噴き出してしまった。目の前にいる彼が、あまりにも無邪気過ぎて。
「全混ぜときたかぁ。もう、ちゃんと飲みなよ?」
得意になっているのが、可愛らしくも思えて。エドワード君はその子供扱いに口を尖らせている。ごめん、それも可愛いんだ。
「わ、笑うこともなかろう。余は責任を持って……んぐ」
飲んだ感想は、エドワード君の顔に如実に現れていた。口に含み、そこから必死に喉に流し込んでいた。またしても涙目だった。
「……なんの、余はまだ挑戦するのだぞ。粗末にはせぬ」
「うーん。これとこれ、組み合わせてみたら? 無難な味になりそう」
エドワード君はまだドリンクを混ぜ合わせようとしていたので、私は助け船を出すことにした。彼がまだ飲めると主張していても、顔色が良くないわけだし。
「はい、どうぞ」
「……む、勝手に調合しおったぞ」
「あ、ごめんね。つい」
私は謝った。とりあえず感があった。これも当人にいうと怒られそうだね。うん、言わない。
「だが、せっかくだ。余はいただくぞ。ふむ……上手いな」
「ほんと? 良かった」
エドワード君がごくごくと飲んでいる。私はそれを見て心から安心し、微笑んだ。
「……」
「……どうしたの?」
飲むのを止め、エドワード君は私を見つめる。
「そなた、よく笑うのだな」
私から目を離すことなく、ずっと。
「……うん、今日はそうみたい。なんだろ、ほんと久々かも」
呑気だなと思いつつも頷いた。緊張は続いたままだったから、本当に久しぶりな気がする……こんなに笑ったのって。
「そうだね、楽しい」
「……そうか」
私は笑顔で伝えた。エドワード君の眼差しは温かい。
「……その、なんだ。正直なところ、余は気の利いた所へ案内をしていない。それなのにか。それなのに……楽しんでくれるのか」
どこか悲しそうに、それでいて自信がなさそうに。エドワード君はそう口にしていた。
私は思い当たった。これまでのエドのデート遍歴、それは振るわないものばかりだったと。
「……あのね、エドワード君。私だけじゃないよ」
「……シャーロット殿?」
「うん、私だけじゃない。他にもね、楽しいって思ってる子はいるよ。気の利いた場所とかじゃなくても、一緒にいられるだけでいいって」
エドワード君といると楽しい。話しやすい。それに君に想いを寄せている人だったら、尚更だと思うよ。好きな人と――。
「――好きな人と、一緒だから。嬉しい。楽しい。退屈だろうと、一緒にいたい。側にもいたい」
エドワード君が呟いた言葉に。
「え……」
私はドキリと反応した。それは――。
『好きな人と一緒なんだよ。それなら、嬉しいし、楽しいよ。退屈になる時もあるかもだけど、でも一緒にいたいって。側にいられたらいいんじゃないかって』
かつての私がエドワード君に伝えていたものだった。彼が覚えているはずはないのに……?
「……ああ、すまない。だがな、シャーロット殿。余も楽しいぞ」
「エドワード君……」
「こうした他愛の無い時間もな、余は楽しいのだ……」
エドワード君は目を細めて笑んでいた。
次に訪れたのは、空中庭園だった。いつ来ても綺麗な場所だと、私の心は華やぐ。辺りの花々を屈んで眺めていた。それを見守るのはエドワード君。
「――不思議なものだ。きっと、そなたが喜んでくれる気がしてな」
「……うん、素敵なところだって思うよ」
エドワード君は他意はないはずだから。私は素直に答えた。
私たちはベンチに並んで座る。手にしているのは、自販機で購入した飲み物。手は暖めながら、会話のやりとりをする。
そうして穏やかな時間を過ごしている内に、デートの終わりも近づいていた――。
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