春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第四章

水の中の彼は――


「アクセサリー、綺麗だね?」
「……あ、ああ。そうだろう。ララシアの至宝ぞ」

 エドワード君の反応が遅れていた。彼はその後、笑顔になる。いつもの得意そうな様子になっていた。

「へえ、本当に綺麗……」

 私は吸い込まれそうだった。いつまでも眺めていたいくらい。

「……もういいだろうか」

 どことなく落ち着きがないのは、エドワード君だった。彼は少しずつ後ずさってもいた。

「……?」

 距離ができたからか、私の妙な感覚は薄れていった。なんだったのかな……?

「……ごめん。でもこれだけ。防水加工とかしているの? つけて泳ぐっぽいし」

 私は気になったことを聞いてみた。あれだけ高価そうなのに、エドワード君はつけたまま泳ごうとしていたから。いざ預かってくれと言われたら、緊張してしまう……。

「……ああ、そうだ。ララシアに伝わる特殊な加工。余は肌身離さず――」

 エドワード君は大切そうに触れるも、私を見てハッとした顔を。

「……誓って、余のものだぞ。元より身に着けていたものだ」
「……?」

 エドワード君はやたらと青褪めていた。ペンダントを強く握りしめている。こうも不安そうな表情をされては……そのままにはしたなくて。

「うん、そうなんだね」
「ああ、本当に……」
「うん、わかってるよ。エドワード君ったら、疑うことなんてある?」

 私は屈託もなく笑った。
 エドワード君、不安にならないで。私は君を信じているからね。

「……シャーロット殿」

 エドワード君、ペンダントを握りしめていた。大丈夫かな?

「ほら、泳いできたら? 泳ぎ、得意そう」
「う、うむ。飛び魚のようだと、称されておった……泳いでくる」

 私が穏やかに話しかけると、エドワード君も落ち着いたみたい。彼は華麗に水面に飛び込んだ。

「わあ……」

 エドワード君は水の中を優雅に泳ぐ。自由自在に、水と同化しているかのように。私は彼の泳ぎっぷりに目を奪われた。あまりにも綺麗過ぎて。そして。

 水の中の彼は――とても幸せそうだった。

「……ふう」

 一通り泳ぎ、エドワード君は区切りをつけた。水を滴らせながらも、プールサイドに上がってきた。

「エドワード君、すごいね。本当にトビウオみたいだった」
「……うむ、そうだろう。余はすごいだろう!」

 私はエドワード君に近寄った。彼はタオルで髪を拭きながら笑う。満更でもないようだった。

「……すまないな、シャーロット殿。結局、余一人が楽しんでしまった」
「ううん、そんなことないよ。見てる方も楽しかったから」

 気にしないでと、私は笑う。それを目にしたエドワード君は。

「そんなことあるのだ! 一緒に泳ぐ方がもっと楽しいぞ!」
「ええー……」

 ……憤慨していた。私はその反応に困惑していた……でも、思い直す。

「確かに。私も思いっきり泳いでみたいな」
「そうだろう、そうだろう。この温水プールも捨てがたいが、なんといっても我が故郷だ!」
「君の故郷……」

 私の脳裏に映像が浮かんだ。エドワード君の故郷、ララシア。
 常夏の楽園。透き通るような水面。広大な海を泳いでいく。ビーチパラソルの下、涼んでいるのは愛犬で――。

「ああ、素晴らしいところだ……連れていきたいな」
「あ……」

 優しげに微笑むエドワード君。彼が年下だと忘れてしまいそうだった。私は返事もままならなくて……。

「……連れていきたいが。おいそれとそうも出来ぬ。いつかは、と思うがな」
「そっか、遠いもんね」

 エドワード君の大人な表情に調子が狂うも。私はようやく返事をした。彼は頷く。

「……まあ、確かにそうだが。行けなくもない――当てはいくらでもある。長期のみならず、短期の旅行とて可能だ」
「……そっか」

 私は喉を鳴らした。今度こそ、自然に。それとなく――エドワード君に探りを入れてみた。

「それじゃ、連れていったりしないの? 一緒に行きたい子とか。――それこそ、三連休とか」

 私は笑顔のまま、平静のまま――エドワード君に問う。
 事件が起きたのは、三連休の最終日。以前のエドワード君は、被害者と当日デートをしていたはずなんだ。夜遅くまで付き合うとも言っていた。

 でも今回は。あからさまにクラーラさんと行動をしていない。変化も起きうる。

「……」
「興味本位なだけ。エドワード君、せっかくの三連休なのに、皆さんと過ごさないのかなって」
「……皆とは過ごさぬ。そうだな……帰るかな。もちろん単身でだ」
「……うん、そうなんだね」

 私は笑顔の中、心臓が早鐘を打っていた。緊張した、それでも聞き出すことができた。
 彼は、クラーラさんと共に過ごす事がない。彼がこのまま関わらないでいたら。
 痴情のもつれ説が一番有力視されている為、それさえなければ――事件自体も発生しないのでは。

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