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第四章
縋られる日々⑥
曇り空の下、一隻の船が大海原を往く。長年使い古した船、掲げられた旗はドクロマークだ。
「ん……」
潮風が心地よい。私が目覚めたのは船の上。デッキにあるハンモックに揺られながらだった。
「はあ、気持ちいい。このままずっと――って!?」
私は飛び起き、周囲を見渡した。海を渡る船の上。何故ここに自分はいるのか、朦朧とした頭で思い出す。ええと、確か……。
今朝起きて、リッカを預けるために寮を出た。それからの記憶が私にはなくて――。
「リッカ!?」
一緒に散歩していたのはリッカ、あの子の姿がない。リッカと共に連れ去られてた? それとも――。
「……」
私は風を受けてたなびく海賊旗を見る。エドワード君といい、気の良い人たちなのかも。それでも実際はどうしたものか……急ごう!!
「――わんっ、わんわん!」
「!」
リッカの鳴き声がした。何度も何度も……私の名を呼ぶように?
「待ってて、リッカ!」
私は急ぎ、リッカの声を辿っていく。
デッキから船の内部へ。人の話し声が大きくなっていた。リッカは吠え続けたままだ。
「……」
私は扉の前に立って、構えた。いつでも氷の魔力を放てるように。呼吸を整え――扉を開いた。
「助けにきたよ、リッカ――」
飛び込んできた私だったけれど……動きが止まってしまった。
「……あー、鳴きやんでくれよう。お腹、空いているんだろ? おいしいご飯だよう?」
「……ほら、あれだろ。あの女の子と離したのが悪かったんじゃ。ご主人様なんだろ? でも吹き飛びそうだったしなぁ……」
強面の男たちが。
美味しそうなご飯や、おもちゃを床に並べて。
――白い子犬の機嫌をとっていた。
「!」
私に気づいたリッカは、それらに目もくれず。飛び越えては、私に突進してきた。
「うっ!」
何事もなくて良かった……ちょっと痛かったとか、それはいいの。
「くーん、くーん……」
リッカは私に甘えるように、体を預けてきた。私は彼を抱っこしながら撫でていた。
「……あなたたちは」
私は相手方を見渡した。どうみてもそうだった。出で立ちからして――海賊の人たちだ。
見た限りでは敵意はなさそう。リッカに対してもそうだった……とはいえ。
「……こちらの船はどこに向かってますか。私、手違いで乗ったんだと思います。それをお詫びしたいです」
私は相手を刺激しない言葉を探す。海の上、逃げるとなると泳ぐしかない。ダイヤノクトとの距離もわからない。ここは穏便に済ませたかった。
「……手違いとはなんだい? ――エドが連れてきたんだろう?」
「……エドワード君が?」
……エドワード君って、何故? 私は腑に落ちなかった。ララシアへの誘いはきちんと断っていたのに?
「おいおい、まじか……? これ、納得いってないやつか?」
「エド、あいつは……」
この人たちは動揺していた。てっきり相手の了承を得た上で連れてきたと。彼らはそう思っていたのかな? ……エドワード君、どういうこと?
「――そこにいたのか、シャーロット殿!」
そこで勢いよく入ってきたのは、噂をされた当人――エドワード君だった。なんだろ、浮かれてもいるようだった?
「おい、エド! 無断とはどういうことだ! 堅気のお嬢ちゃん、巻き込むんじゃねぇ!」
「む、無断ではない! 余は悪あがきをしたのだ! 諦めずに今朝誘ってみたら、承諾してくれたのだぞ! そうであろう、シャーロット殿!?」
エドワード君は入室早々、詰められていた。戸惑う彼は、私に同意を求めて来ている?
「いや、エドワード君? 私は君に――」
勝手に連れて来られたって、言おうとした時だった……この感覚、なに?
「……あれ」
頭の中で靄がかかっていた、今朝のやりとり。それを私は少しずつ思い出してきた。
リッカとの散歩に出掛け、女子寮を出たところ。待ち構えていたのはエドワード君だった。
エドワード君はララシアに行こうと頼み込んできた。でもこちらには先約があった。それも今後に関わる大事な約束……それなのに。
「私は……」
頼み込んでくるエドワード君に絆されてしまったのか。
――ララシア行を承諾していた。
「あ……」
意識が朦朧としていたとはいえ、承諾をしていた。ララシア行を受け入れたのは、ほかならぬ私だった……!
「申し訳ありませんでした! 疑うような態度をとってしまいまして」
私は慌てて彼らに頭を下げた。この人たちは巻き込まれてもしまっていて。
「いやいや! 気になさんな、お嬢ちゃん。こっちもな、エドが無理やりとかじゃなくて良かったよ」
「……はい。エドワード君も、本当にごめんなさい。私がいいって言ったのに、私が――」
エドワード君も許可を得た上で、だったのに……ごめんなさい。頭がぼんやりしていたとしても、承諾したわけだから……。
「いやいや、こうしてそなたが来てくれたことが、何より嬉しいのだ!」
「うん……」
疑惑をもたれたでしょうに、エドワード君は気にしないと明るく笑っていた。この大らかさ、心の広さ――私はいいなと思っていた。
「くーん……」
頭が朦朧としている中で、そう返事した私。リッカは心配になってついてきたんだね……。
「リッカ……」
ぎゅっと腕の中の子犬を抱きしめた。
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