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第四章
縋られる日々――ララシア①
船内での散歩に、エドワード君も加わった。私たちに語って聞かせてくれていた。
「ほんに、ここの海賊団は悪いことはしていないぞ。世界を股にかけ、財宝を手にする――その財宝は収集目的。売ったりなどせぬ。財を得ているのは、あくまで交易商としてだ。余もな、幼少から多くのことを教わった」
「そっか……私、どうも先入観があったから。実際、いい人たちみたいだし」
「ふむ、先入観――シャーロット殿は十分だ。そなたは、もっと自身を誇ってほしいものだ。余を穿った目で見なかった、そなたの優しさを。余は、そんな……そなたに救われたのだから」
大人びた表情だった。私はどきりとしてしまう。
「……私はともかく、ここの皆さんはいい人だと思うよ。帰りのことまで気にしてくださったけど、そこまでは申し訳ないし。ララシアに着いたら私の方で……あ」
私は思い悩んだ。先約を破棄したことになり、黙っていなくなったことになってないかと。これはもう、早急に帰国しないと……!
「……ああ、シャーロット殿。余はな、わかったぞ。黙って出ていったと思っておるな?」
「うん、そうなんだよ……」
「おお……憂える顔の美しきことよ。だが、案ずることはないぞ。書き置きは残しておる。余と甘い一時を過ごしに、ララシアに旅立ったとな! 無論、リッカ殿のことも、三連休のみということも記しておるぞ!」
得意げなエドワード君とは対照的に……私は。
「あああ……」
絶望し、項垂れていた。
「な、何故なのだ? 余は残していったのだぞ?」
「う、うん。それは有難いんだ、助かったんだけど……」
エドワード君はちゃんとフォローしてくれたんだ、それは有難いんだ、でもね?
これはもう、面倒くさいことになると。皆さんに心配もかけてしまうし、某幼馴染がガチギレしてそうだし……ああ。私はそう思いつつも、アルトが言っていたことを思い出した――ファストトラベルがあると。
この際、伴侶や恋人どうこうは言っていられなかった。それで迎えにきてくれたのなら、結果オーライなんだよね。
「……大人しく、船に乗ってよう」
「……? よくわからないが、良かったのなら。うむ!」
私は気持ちが楽になった。エドワード君も安心してくれたみたい。
先程の部屋に近づくと、賑わう声が聞こえてきた。とても楽しそう。
「良いご家族だね。家族で、仲間って」
「……家族」
エドワード君は反芻していた。前に自分で言っていた言葉だったよね?
「……ああ、良い者達だ。余の家族、余は海賊ぞ……」
エドワード君はその通りだと言っていた。それでもどこか。
彼は遠い目をしていた。
海賊船が港に到達した。普通に歓迎されていた。国に咎められてないというのは、本当のようだった。
私たちは、今、降り立った。曇り空は一斉に晴れ渡った。見事なまでな快晴だ。
常夏の国。水上の楽園。エドワード君が生まれ育った場所――ここは、ララシア。
「くんくん」
リッカが匂いを嗅いでいる。南国の果物や、海産物。植物や、独特な香水の匂い。どれも、彼の興味をそそるものなんだね。
「ここがララシア……」
私も落ち着きなく辺りを見回す。まさに異国の地。行き交う人たちは、褐色の肌、国独自の服装をしていた。
こちらにララシア人、あちらにもララシア人。どこを見てもそう。ここには、ララシア人しかいない――。
「……なんで」
私はおかしいと思った。自分のような観光客がいないこと、ある?
「アルトの姿もないとか……」
心配になってすぐにでも、駆けつけて待機していてもいいはずなのに。どこを見てもアルトの姿はなかった。
船の便もそうだった。観光船などありもしない。他国へ向かう船もそう。となると、帰路に着く手段が無くなってしまう……。
帰ろうとしても、帰れないこの状況。
――まるで包囲でもされているかのような。
私が困惑している中、カツンと杖の音がした。
「――あんたかね、坊が夢中になっているという娘さんは」
「え……」
杖をついたご老人が、街の方からやってきた。威厳のある男性だ。
「――何も知らないのだな」
それだけ告げると、ご年配の方は背を見せ去っていった。圧倒されている私に対し、エドワード君は口を挟む。
「気にするでないぞ。あの者は昔から偏屈であった」
「偏屈って……やっぱりだけど、知り合いなんだ」
「……ああ、ちょっとしたな」
エドワード君は一瞬、暗い表情になる。それはあくまでわずかな間のこと。すぐに笑顔になっていた。
「……さあ、シャーロット殿! こうして訪れたのもまた、運命。南国の楽園とは、このララシアのことぞ! ――ララシアはそなたを歓迎するぞ!」
エドワード君が声高にそう言うと、私の腕をとった。そのまま駆けだしていく。
「ようこそ、ララシアへ!」
「あなた様を歓迎致します!」
私たちは花びらを浴びた。住民たちが籠から花びらを降らせていた。
頭に載せられたのは、花冠だ。リッカの耳辺りにも南国の花が添えられる。良く似合うと、エドワード君は照れくさそうに笑っていた。
「……ああ、綺麗だ。そなたが訪れてくれたこと、いたく感謝するぞ」
エドワード君は跪いて、私の手に口づけた――。
至上の楽園は、ここにあった。
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