春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第四章

縋られる日々――ララシア⑪




 夜の海は静かだった。波が引いては返す音を聞きながら、リッカと一緒に海岸を歩いていた。

 ――鳴き声がした。歌うような声。白いイルカの姿、水の女神だ。

「こんばんは」

 ……神様。私は緊張しながらも、挨拶をした。白イルカは鳴いた。

「へっへっへっへっ」

 リッカも嬉しそうに白イルカを見上げていた。春の女神に通じるものでもあるのかな、親しみが込められていた。

 現れた白イルカと共に、私たちは歩いていく――。




 桟橋近くになると、白イルカは海へと消えていった。その様を私は眺めていた。

「不思議だね……それにしても」
「わん」

 神聖な存在。ただ、先程の儀式に現れなかったこと、それが気になっていた。

「……お待たせしました。遅くなりましてすみません」
「来たか」

 桟橋近くのベンチに座っていたのは、約束していたご年配の方だった。彼は立ち上がろうとしたけれど、私はいいですと遠慮した。リッカがベンチに飛び乗って、おじいさんの隣に座った。

「はは……元気なことだ」

 おじいさんは穏やかな目でリッカを撫でていた。リッカも満更でもないようだった。

「まあ、座りなさい」
「失礼します」

 促されて、私もリッカを挟んで座った。早速彼は話しかける。

「坊は相当、娘さんに惚れこんでいるのだな」
「……いえ、そんな」

 私は落ち着かなかった。こうも断言されたことも。まさかデートの様子まではわからないとは思いつつ。

「……この国を、そしてエドワード君を。私は見てきました」
「ほう」

 私から話を切り出すことにした。

「見た上で、お聞かせ願えたらって。そう思いました。お願いします。真実を教えてください」
「……真実、とな」
「それを伝えてくださるんですよね? 私はそれを知りに参りました。これは自分の主観です。ここはとても美しくて、豊かな国でもあって。あまりにも、何もかもが理想的過ぎて――それが、歪んでいるとさえ」

 そう思えてならないと、私はそう伝えた。私自身が囚われていた日々のように、彼らにとっては理想そのもの――それでいて、都合も良すぎるもの。

「……渦巻いておるな。幾多もの思いが。娘さん、どれほどのものを見てきたのか……体験してきたかのようだ」

 おじいさんは私を見やると、私に手をかざした。

「……いえ、どうなんでしょうね」

 この人はどこまでお見通しなの。私は曖昧に返すしかなかった。

「……元より、あんたに覚悟あったなら話すつもりだった。あんたなら、きっと聞き届けてくれると信じておる」
「はい」

 私はしかと受け止めた。彼の顔は緩んだ。



 ご老人が語るはララシアの『真実』。私もリッカも彼の『話』を――聞き届けた。



「……」

 私の胸は痛みだした。この『真実』を、彼は――明るく笑いながらも、抱え込んでいたんだ。

 何もかもが覆るような事。それを背負っていたのは……この人もだった。

「……ふう。私は、重かったのだ。それを軽くしたかったが為に、あんたを巻き込もうとしている。すまなかったな、娘さんよ……」
「……いえ、話してくださってありがとうございました」

 私は一礼した。おじいさんはまだ海を見ていたいようだったので、先に失礼することにした。
「くーん……」 
「うん……」

 リッカは悲しそうに鳴いていた。私も同じ思いだよ――その重みに押しつぶされそうだった。





 夜中を回ったホテルは、静けさが訪れていた。無人の廊下を歩いたところで。

「……シャーロット殿。遅くにすまない。逢いたくなってな」

 部屋の前で待っていたのは――エドワード君だった。この夜更けに訪れてきたのだ。

「……」

 まさかのエドワード君の来訪。私は心の準備が出てきてなかった。いずれは彼とは話さなくてはならない。でも、今かというと……。

「本当にすまない……ああ、誠に……」

 エドワード君は情緒が安定していないようだった。無碍に出来なかった私は、どこか別の場所を提案することにした。

「……そっか。せっかく来てくれたんだし。海ででも話そう――」
「……」

 言いかけたところで――エドワード君が抱きしめてきた。彼は抱きしめながらも、私の耳元で話す。

「……今は、そなただけがいい。今の余を、誰にも見られたくなくてな」
「……」 

 またしても……縋られてしまった。私は彼の背中を撫でながら、話しかける。

「……うん、いいよ。部屋でお話しようか」
「すまない……」

 今にも泣きそうな声ながらも、彼の抱きしめる力は強かった。

「うん、いいから。でもね、ドア開けたいから」
「ああ……」 

 抱きしめるのはやめてくれたものの、私の腕は掴んだままだった。


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