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第四章
あんたが望む場所は
しおりを挟むごわついた布団。冷えた空気。美味しそうな匂い。ここは水の中ではない。ここは――。
「ここって……」
私はベッドの中で目を覚ました。自分の家でも寮のものでもない。周囲を確認する。なんとなくだけど、覚えのある場所だった。服は誰かの借り物だ。これも記憶にあるものだった。
「……あ」
ベッドの近くにあったテーブル。その上にあったのが、珊瑚のネックレスだった……エドワード君からの贈り物。寝ている時に、誰かが外しておいてくれたのかな。
「あの時は本当に楽しかったから。本当に……」
私は手放せなかった。身に着けるまでは出来なかった、こっそりと服のポケットにしまい込むことにした。
私は部屋を出た。誰かが料理をしているようなので、匂いを辿っていった。
「――シャーロット。目が……覚めたんだね」
「……!」
台所から少女が出てきた。泣き腫らした目をした、エプロン姿の少女。
「……なんなのよ、もう。あんた、ララシアに行ったきりになって。こっちからは何も出来なくなってて……しかも森の中で倒れてるし」
「リナさん……」
「でも……いいの。無事だったから」
私も泣き出しそうになった。こうして会えたことに気も緩みかけていた。
「……私、よく状況がわかってなくて。皆、無事だって信じたいけど」
「うん、リっちゃんもアイツらも大丈夫だから。つうか、ここまで運んでくれたのはアイツらだし。でも、大男の出入りは目立つでしょ? だから、別の場所で待機」
リナさんはいきさつを語ると、台所の方を見た。私の為に用意したご飯なんだって、教えてくださった。
「今はともかくね、食べること!」
「はい……!」
リナさんにしっかり言われた。いつもの彼女に、私もようやく笑うことができた。
そうなんだ。ここはリナさんが昔、暮らしていた家だ。
「隠れるにはうってつけでしょ。まあ……長くはいられないけど」
「うん……。リナさん、改めまして。連れてきれてくれてありがとう」
「いいのいいの」
ご飯を食べ終え、椅子に座って一息ついていた。落ち着いて話がしたいと、リナさんはお茶も出してくださった。いただきます、と私は口に含んだ。ホッとする味……。
「話、するね。状況は良くないの。それはわかってると思うけど」
「はい」
「だね。あんたは……指名手配をされてる。ま、これは不幸中の幸いかなぁ……? 金糸雀隊、だっけ。あいつらが追いかけて来ないから」
「うん……そうだね。それは……」
エドワード君が彼らを封じてくれたから。追跡するとなると、金糸雀隊がいかに秀でていたのか。今彼らが動けない分、行動はしやすい。
「エド・クラウンがやってくれたから。あんたを助ける為にね。一生会えなくなっても……ってところかな」
「……!」
リナさんは妙に鋭くもあり、理解もしているようだった。わかるのよ、と彼女は面白くなさそうに呟いていた。
「金糸雀隊が復活したら困難になる――その間に決断してほしいの。この国に留まるのも、潜伏生活覚悟なら出来なくもない。国外にだって、ツテはあるから。モルゲン先生がね、動いてくれたから」
「モルゲン先生が……」
「そうそう、モルちゃん様様なんだから。……もちろん、私達だっていくらでも力になるんだからね」
「……ありがとう、嬉しい」
追われる身となった私に対して、味方でいてくださる。彼らの温かさを嬉しく思うも。
「……でも、ごめんなさい。私、どうしても行きたい場所があって」
これだけよくしてくれているのに。それでも私が望む場所は、ただ一つ。
――ララシアなんだ。エドワード君が待っている場所へ。
「とても、困難な場所から。皆さんの負担に……ふぎゅっ」
私が負い目を感じていると、リナさんが両頬を押し込んできた。面白い顔になってしまったからか、彼女は噴き出していた。まだ、クスクス笑っている。
「ふふん、私達はね、とっくにお見通しなのよ。あんたならそうするって」
「ふぃふぁふぁん」
「そんな、あんただから……私達は」
「ふぉふぇ」
「……締っまらないな、これ。ごめんごめん」
リナさんは私の頬を戻した。悪びれもなく謝りつつも、微笑んでいた。
「……私達の時みたく、救ってあげて。ね、助けようね?」
「はい……!」
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