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第四章
どんな荒波をも乗り越えて
「それでね、お願いが――」
私は言いやめた。視線を感じたからだ。ここは私たちだけではない。カウンターの向こう側に人がいた。
「……あれ」
私は見覚えがあった。前にギルドの入口ですれ違った、モノクルが特徴的な男性だった。ともあれ、これから話す内容は憚られるもの。そう考えていたところ。
「あー、続けて? アインスト……モルゲン先生ね、彼から事情聞いているから」
「そうなんですか……?」
「そうなんですー。お金ももらってるからね、そこはちゃんとするから」
「ありがとうございます……?」
リナさん、モルゲン先生も動いていると仰っていた。今は協力者と考えるべきかな。私はお礼を言い、続けることにした。
「……みんな、察しているということで。私、ララシアに行きたいんだ。手段とか相談に乗ってほしくて。今、閉ざされた状態だから」
「わふっ」
リッカが自信満々に返事した。私はそうか、と思い出した。リッカは水の女神と通じていた。脱出した時は無理をさせてしまったものの、招き入れるなら出来るのかな。突破できるのなら、大変有難いことだよね。ありがとう、リッカ。
「……つか、相談だって」
「これぞジェム様といったところでしょうか。お一人で向かわれるつもりだったのでしょうね。いえ、リッカ様もおられるますか」
「ちょ、なんなのー。てっきり一緒に行くかと思ってたのにー?」
三人は口々に不満をもらしていた。それって、共にララシアに向かうつもりだったってこと……?
「そんな……何があるかわからないし。今回ばかりは、本当に……」
いつも危険なところに付き合ってもらってはいる。でも、今回は事情が事情だった。それもあって私は躊躇していた。私が指名手配されていることもある……。
「……こっちは、そのつもりだったのにぃ。でもね、気にしないんでね」
口を尖らせたアルトは、腕に巻いたブレスを見せつけてきた。ギルドの会員証にあたるものっぽい。
「はい、ファストトラベル――! これで、もうね。俺、行ってきちゃうからね。先行でね。もう一人連れていけるし」
アルトが切り札として、示したもの。前に一緒に旅行に行きたいからと、頑張って取得したもの。そう教えてくれていた。
「……君が生きていられるなら。ほんとね、頑張った甲斐があった」
「アルト……」
アルトは満ち足りた表情をしていた。私こそ救われる思いだった。
「……で、ここは君とリッカを連れていきたいところなんだけど。先陣をきりたいわけでもあって」
アルトは頭を悩ませていた。そんな彼は、リヒターさんを見た。リヒターさんの方は嫌な予感がして、尻込んでいるなぁ……。
「……これもシャーロットの為。シャーロットの為。……リヒターに彼氏になってもらうしか!」
アルト、ファストトラベルの同伴者の条件を突きつけていた。この世の終わりのような顔をしながらだった。
「……。はい、かしこまりました。ただ、私に戦闘力はご期待なさらなず」
リヒターさんは拒否しなかった。それが適切だと思っているようだった。
「うん、前に聞いた。なんか、器用そうってだけだから。ほら、はよ来い」
「……。はい、よろしくお願いいたします」
雑に呼ばれたリヒターさんは、不本意そうながらもアルトの側に寄った。
「わんっ」
「うん、そうだそうだ。リッカもおいでー」
自分も、とリッカが腕の中に飛び込んできた。
「じゃあ、行ってくる。やり遂げようね」
「お二人もお気をつけ――」
リヒターさんが言い終わる前に、アルトは稼働させた。彼らは一瞬にして姿を消した。ギルドの技術に残された私たちは感心しえいた。
「いやー、若いねぇ。一生懸命だねぇ」
男性が感心していたのは、勢い任せの若造たちについてかな。
彼は感心しつつも、私たちをある場所へ誘導してくださった。向かう先は、ギルドの隠し港だとか。
「さあ、お嬢さん方はこちらへ。ギルド一の高性能、どんな荒波も乗り越えた船さ」
モルゲン先生が大枚はたいてくださったからこそ、乗れるんだよね。私たちは頭が上がらなかった。と、ここで得意顔だった男性の顔が曇っていく。
「……ララシアの海域は特殊だからね。しかも、向こうの天候は大荒れときた」
「大荒れですか……?」
この人は前もって情報を掴んでいたようだ。先行組の事が心配になった。大丈夫かな……。
「まあ、弟君たちは上手くやるでしょ。お嬢さん達の方が、安全を約束できないかな?」
「ちょっとぉ……」
どんな荒波を乗り越えたんじゃ……口を尖らせたリナさんも突っ込みたそうだった。
「引き返すかい?」
「……」
「……」
男性からの問いに、リナさんと顔を合わせた――答えはノーだ。
条件は厳しくとも、今は好機と信じて。私たちは船に乗り込んでいった。
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