春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第四章

ララシアの少年①



 
 栄華を誇る宮殿。私は南国の花が咲き乱れる庭園を抜け、宮殿内部に入っていった。

 美しい姿のまま、残された宮殿。澄んだ空気もそのままのようだった。

 歩いている中、淡い光が私についていくように取り巻いていた。

『わははっ、今日も海が余を呼んでいる! さあ参るぞ!』
「え……」

 幼いララシアの少年がそこにいた。身なりの良い彼は、従者らしき人物に追いかけられていた。

『海は我が友よ! わはははは』

 無邪気に笑った彼は、宮殿内を駆けていった。

「……」

 私はまた、歩き出す。扉が開いていた。誰かの寝室のようだ。私は覗いてみた。

 そこにいたのは、先程の少年だ。二人の男女の間に甘えるように座っていた。
 男性の方は見覚えがある。儀式の担い手だった方、だよね。

『――父上よ。父上は、母上を愛しているのだな』

 直球に聞いてきた少年に、男女は照れていた。仲睦まじい二人がそこにいた。

『余はまだわからぬ。外界の者と会うこともないからな……』

 少年は寂しい顔を見せていた。父母であろう男女は気にかけるが。

『だが、良い。この宮殿にも美女はたくさんおる。余に仕える美女ぞ! ウハウハぞ!』

 おそらく従者の方のことかな。とても可愛がられているようだった。美女って……。

『……父上、母上も。よくしてくれる者達も。余には、海もあるのだ。寂しくなどないぞ』

 少年は心配させないようにと、笑ってみせた。父母はただ、少年を抱きしめた。


 また、別の場所から声がした。背筋を正した老人が、先程の少年と話していた。その老人もまた、私が覚えのある人物だ。直接接してたこともある方だった。

『おお、そなたが腕利きのシャーマンとやらか。よくぞ参った!』
『……私は陛下に話があって参っただけだ。子供の相手をしている暇などない』

 老人の尊大な態度に、見ていた従者たちの方が冷や汗をかいていた。

『む、そうか。邪魔をして悪かった。用が済んだらでよい、余の相手をしてくれぬか? そして、友になろうではないか! そなたのことを気に入ったのだ!』
『何を言う。私は童の相手なぞ――』

 ご老人は足早に去ろうとしたけれど、そうはしなかった。少年の瞳を見た。その茶色の瞳は、寂しさを宿していた。時間がある時だけだ、と伝えた。少年の顔は明るくなった。

 軽い足取りで去っていく少年を、ご老人は優しい目で見ていたけれど、その顔も険しくなる。


 私は王の間までやってきた。そこにいるのは、老人とこの国の王だった。深刻そうな話をしていた。

『――王よ。王に邪悪なる気配が取り巻いておる。あんたが信頼なさっている、臣下共。あやつらからだ。よからぬことを考えておる。どうか聞き届けてくだされ』

 老人は進言するも、王は聞き入れることはなかった。老人はつまみ出されてしまった。

『王よ、人を信じるその御心は素晴らしい。だが……』
『翁よ、どうかしたのか?』

 用が終わったのかと、浮かれていたのが少年だ。王は聞き届きはしなかった。やけくそでもあった老人は、少年に打ち明けた。どうせ聞き入れないと、老人は卑屈に笑うが。

『……あいわかった。よくぞ教えてくれた。感謝するぞ』

 少年は信じた。老人の真摯さに打たれたのもあるが、彼はそれだけじゃなかった。

『これから余のする話、にわか信じ難いだろうが。余は信じたのだ、そなたも信じよ――白イルカもよ、案じておったのだ。言葉はわからぬ。だが、不安そうにしておった――この国に何かが起ころうとしておる。……これ、跪くではない、やめい!』

 幼くして、この国を憂い。民草の言葉も聞き入れた。老人は敬意を表さずにはいられなかった。


 明るいひだまりのようだった場所が、次第に暗くなっていく。薄暗い廊下をかなり進み、奥にある一室。そこで密談していたのは臣下だ。

『……あの王族が治めている限り、ララシアはいつまでも閉ざされた国だ』
『慎ましいといえば、聞こえは良い。だが、これだけ豊かな財源を限られた分しか使わない。あとは神への捧げものとのたまって』

 彼らがもらすは、国への不満。そして不信だった。

『何が水の女神か。何が神か。神の教えなど守るこの国に――未来はない。停滞するのみだ』

 一人が見せたのは、謎のお香だった。

『苦労して取り寄せたものだ。儀式の日は間近だ。儀式を完遂させはしない――』

 何かをしでかそうとしている。私は彼らに触れようとするも、それは叶わなかった。
 これはきっと、過去に起こったこと――過ぎてしまったことだ。


 私は地下から一階に続く階段を上っていた。宮殿内は慌ただしくなっていた。外から聞こえるのは雷鳴だ。晴れやかだった空が、雨空へと変わっていた。
 騒ぎになっていて、誰もが嘆き悲しんでいた。また一つ、雷が鳴った。

『お、王が御崩御されたなんて……』
『今日は儀式の日でもあるのに……』

「……!」

 私も悲しみに飲まれた。彼らの嘆きがこんなにも伝わってくる。どれだけ慕われていたのかな……。

『ああ、神よ……お鎮まりください……』
『……儀式が執り行われない、その怒りでしょうか』

 彼らは悲嘆にくれてもいられなかった。この荒れ狂う海は、儀式が行われないからこそ。これは神の怒りであると、鎮めようと必死だった。
 それなのに……どれだけ祈っても届かないのか。海は猛り狂ったままだ。

『……余が、余が立つ』

 幼き少年が、ぶかぶかの冠を頭に携え、錫杖を手にもっていた。無茶だ無謀だと従者達は止めようとするけれど、少年は止まらない。窓から飛び降り、水面へと着地した。

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