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第四章
余は逃げぬ
「ぶはっ」
「シャーロット殿!」
海に投げ出された。沈んだ体を慌てて浮上させた。泳ぎに長けたエドワード君が私を抱き寄せてくれた。助かった……。
「……すまない。だが、こうするしか」
「うん、わかってるよ。ありがとう」
「む、むぅ……」
先程までのエドワード君とは違う。瞳の色も茶色に戻っていた。この彼なら安心できると、私は彼に体を委ねていた。彼の方は複雑そうにしていた。
「君に、伝えたいことがあるんだ」
今はどれだけ伝えられるかな。全てを伝えても、今はどれだけ受け止められるかな。今はただ、伝えられることだけを。
「君は、悪くなかったんだよ」
「気休めは――」
エドワード君は眉を潜めながら言う。でも私の瞳を見て、そうでないと悟ったようだった。
「気休めじゃない。本当のこと。君は悪くなかった。裏で糸を引いていた人がいた」
「……!」
「今はそれを伝えたくて。残りはいつかは、話すから」
「……ああ」
エドワード君は拒みはしなかった。私は今はそれでいいと思った。
「……それにしても」
波は静まらない。豪雨も続くまま。ひとまずと陸を目指そうとする。
――鳴き声がした。穏やかで、聞いていて安心できる声が。
「……まさか」
安心した私とは違い、エドワード君の顔が蒼白していた。
私は察した。エドワード君は『あの時』以来、白イルカとは会っていない。まだ、負い目が残ったままなんだね……。
「……だが、余は逃げぬ」
エドワード君はまっすぐ前を見た。そこに現れるのは、白イルカだった――神々しい光をまとった、水の女神様だった。エドワード君は眩しくなり、目を細めていた。
白イルカはゆったりと近づいていく。
「済まなかった。余が未熟だったばかりに――」
エドワード君が言い終える前に、寄り添ったのが女神様だ。さらに一声鳴く。どこか、悲しそうな声だった。謝っているかのようだった。
「……違うぞ。そなたのせいではない」
言葉はわからずとも、エドワード君には伝わったようだった。
「ああ、余が未熟だったのだ。そんな弱き余が……ララシアを終わらせるわけにはいかない。だからこそ余は、真実から目を背けはしない」
弱さを抱えながらも、エドワード君はついに立ち上がった。呼応するかのように鳴くのは女神様。
「あ……」
私は空を見上げ、感嘆の息をもらした。雨が止み、空が晴れ渡っていた。女神様は飛び跳ねながら泳ぎ去っていく。
やがて、光に溶けるかのように消えていった。
「帰ろう、シャーロット殿」
「うん、帰ろう」
私たちは穏やかな海を渡っていった。
泳いで砂浜に到着した。出迎えてくれたのは、お馴染みの彼らだった。
「わんわんっ!」
リッカは飛び込んできたので、私は抱き止めた。ずぶ濡れの私だろうと、リッカは構わず抱き着いていた。リッカぁ……。
「……お嬢ちゃん達、エドの為だったんだな。悪かったよ」
「いえ、こちらこそです。すみませんでした」
海賊の皆さんも事情を聞いたようだった。ここはお互い様ということで、和解が出来た。
「……皆、申し訳なかった。此度の事、ララシアの事。余がしでかしたのだ」
エドワード君は来るなり、頭を下げていた。皆さんはなんのことかと思う。アルトたちだってそう。事件の犯人までは想像がつくものの、ララシアのことまで関与しているのはわからないでしょうし。
「……」
いくら彼らでも、共有は出来なかった。私の口からは言えないと思っていた。
「……坊は、唐突だな」
杖をつきながらやってきたのはおじいさん――翁さんだった。げ、と声に出したのは海賊の一人。
「げ、とは何だ。このドラ息子が――いや、私は話をしにきたのだ」
真実を知る人物の翁さん、彼は何を話そうというのか。
「まずは、坊よ」
「……うむ」
エドワード君は覚悟をして耳を傾けていた。翁さんが伝えたかったことは。
「……すまなかった。坊に深い傷を負わせてしまった。一人の童に背負わせてしまった」
「翁!?」
翁さんも頭を下げて詫びていた。エドワード君も、息子と呼ばれた彼もとても驚いていた。
「……ふむ、翁よ。そなたの言わんとしたこと、わかったのだ」
驚きは続いていても、エドワード君の顔つきはしっかりとしたものだった。
「終わらせないぞ。余は、このララシアを続けていく。尽力していくのだ」
「……ああ、そうか」
翁さんは満足そうに頷いた。彼はもう一つ、と語る。
「今日は滞在するのか」
それは私たちもどうしようかと考えていた。昼はとっくに回っている。日が沈む時間も近い。
「親父よぉ。大嵐だぜ? 点検やら休息やらで、一泊はしていくとこだろ」
横から入ってきたのは海賊の人だった。
ララシアの海に通じた彼らの船もそうだとすると。ギルドの船も修繕や点検をする必要もありそう。もとより、体を休めたいのもあった。
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