352 / 557
第四章
幸せだったと思います
日が暮れる時間となっても、私たちは海で遊び続けていた。
リナさんにリッカも加わり貝殻探しツアーを行ったり。海賊たちにリベンジだとアルトが勝負を申し込まれたり。といっても、海の競技と平和なものだった。体を休めていたリヒターさんも巻き添えをくらっていた。
夕日が沈み、水着から軽装へと着替えた。海辺で遊ぶ時間もここまでだ。
海賊船で夕飯が振る舞われた。豪快で精のつく料理は大評判だった。
それから、それぞれの時間を過ごす。もう一度、海辺に出たり。砂浜で語りあったり。そんな思い思いの時間があった。
「――すみません、お時間ありますか」
「ん? お嬢ちゃん、どうした?」
私は食後の片付けと共に、海賊の一人、翁さんのご子息に話しかけていた。
「……。前にエドワード君も作ってくれまして。料理が本当に美味しくて。教えていただけませんか?」
「教えるったってなぁ? 切って、焼いて、詰めただけだが――」
彼は戸惑うも、私の顔を見た。
「……いいぜ。調理場に案内する」
その顔を見た上で、彼は承知してくださった。
「……お願いします」
人目を避けるように、私たちは調理場へ入っていった。
「……お嬢ちゃんは、何もかも知っている。それでいいのか?」
「はい」
調理場に着いた私たちは、早速話し始めた。料理を習いたい、そんなの建前だとこの人は承知だった。
「まあ、俺もな……今になってなんだ。思い出したんだ――故郷は崩壊していたと」
「……はい」
「……俺らがな、ララシアに嫌気を差して出て行った。その間にこんなことになるなんてな」
彼は後悔しながら、顔を俯かせた。エドが、と声を出す。
「ある日な、うちの親父がガキを押しつけてきたんだよ。こっちが親父を連れ出そうとしたら、逆にってな。……遺児だって言ってたな。感情を失くしていて、城に篭っていたんだとよ」
それがエドワード君と海賊たちの出逢いだった。彼は振り返る。
「城っていうからよ、期待はしてたけどな――王族の生き残りって」
「……そう、ですか」
そのエドワード君が実はそうだったと。私は宮殿で見せられた過去で知る事は出来た。その彼が名乗り出ることはない。それなら……私は口を噤むしかなかった。
「……よりにもよって、海賊の子だぜ? 押しつけるにしても、もっといいとこあっただろ。荒事ばかりで、エドも危険な目に遭っていた。幸せになんて出来たのかねぇ……」
「幸せだったと思います」
男性は瞬きをした。あれだけ自信がなさそうな私が、はっきりと告げてきたのだから。彼は小さく笑った。
「……そうかい。俺も救われた気分だよ」
「本当に幸せなんだと思います。これからも……エドワード君と一緒にいてくれたらって」
「はは、そうだな。あいつ念願の学校に通ってはいるけどな。俺らは親代わりだ。あいつが巣立つまで、いや、酒が飲める年齢になったらなったで連れ回すかねぇ」
「それ、素敵ですね。はい、一緒にいてくださったら……エドワード君もきっと」
私は安心したように笑った。もう、大丈夫だと思えた。エドワード君にはこんなにも温かい人たちがついている。
「――さて、こんなところか。お嬢ちゃんも戻りな。なんかな、連れの子ら怖ぇんだよ……普通に話しているだけだってのにな」
「はは……」
私は笑うしかなかった。
「はい、ありがとうございました。もう一つだけいいですか――」
「ん? まだ、聞きたいことあるのか? エドのこと気になるのか? んー?」
彼は楽しそうに揶揄ってきた。
私は笑顔のままだった。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。