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第四章
魔法が溶けて、夢から醒めてしまう
ふわふわの手触り。撫でる手から伝わるのはぬくもり。白いモフモフは今日も、私の側で寝ていた。
今日も無事一日が終わったこと。私は喜びを感じていた。リッカも疲れたんだろうね、ぐっすり眠っていた。
いつもと違う景色がそこにあった。波の音が聞えてきた。寝ているベッドからも見える景色。差し込む月明り。海が月の光を浴びて、輝いていた。
「海か……」
今世になっては、初めて訪れた場所だった。私は海を見て、連想してしまった。冬花の時に行った沖縄……修学旅行だった。
あの時は、片桐先生との思い出が出来た。
今は、今世となっては。
楽しかった。たくさんはしゃいだ。笑い合った。この今世でも思い出が出来た。あ、と私は隣で寝ている子犬を見た。
「ふふ、へそ天だ」
リッカは、おへそを天井に向けていた。仰向けで大爆睡していて、気持ち良さそうだった。気候が温暖な土地、穏やかで温かい風。この土地ならではだった。
リッカの寝顔を見て、私の沈んだ気分も浮上してきた。リッカの存在もまた、私の心の支えでもあるから。
何が正しい……正しかったのかな。私はわからないまま。もっと別の選択をしていたら、とか。そうやって後悔を繰り返しながらも。私は新しい世界で生きている。それはきっと、これからも続くのだと信じて。
まだ、夜は明けてない……けれども、マジックアワーも終えて。
夜が明けた時には――。
「……」
私が思い浮かべた人物。今この場にいない『彼』のこと。今回の当事者でもあった『彼』のこと。
夜が明けてしまう。そうしたら。
魔法が溶けて、夢から醒めてしまう。
私は一人、夜の海を歩いていた。同室の彼女たちには黙って、部屋を出ていた。一人になりたかったから。
「……私は」
……今になってだった。私の体が震えていた。
楽しかった。夢のような時間を過ごしたけれど……それは一時の夢だったんだ。
私は自分の置かれている立場、それを忘れることはなかった。
――自分は大罪人であると。追われる立場であるのだと。
実際にクラーラさんに手を出した状況でもあった。仕方なかった、とかが通用する相手でもないんだ……。
「エドワード君に偉そうなこと、言っておいてね……」
このララシアの滞在が終わったら――逃亡の日々になるのだ。私だって、夢のような時間に浸っていたかったくせにね。エドワード君に説教めいたことを言っていた私……そんな自分に心底呆れていた。
「――シャーリー」
「……」
愛らしい声で呼ばれた……リッカだ。
あれだけ熟睡していたのに。出て行った時も、何も反応がなかったのに――こうしてやってきたんだ……。
ごめんね、リッカ……一人で考えたかったんだ。他ならない君のこともそう。
……春までの期間だとしてもね。君を付き合わせるのが、どうしてもね、私はね……。だって、リッカは――。
「シャーリー、どこいくの?」
「……!」
「一人で、どこにいくの。どうして、僕を連れていってくれないの」
「……っ」
リッカは尋ねてきた。でも私は……答えられない。彼の顔を見ることも出来ない。少しでも声に出そうものなら、泣き出してしまいそうで。
「シャーリーは、どうしてなの? どうして、一人になる必要があるの? 君は、何も悪いことしてないよ。助けたんだよ。クラーラも、エドワードも」
「……」
私は首だけ振った。
「……それでも、シャーリーが悪いって。そうなっちゃう。君は何も悪くないのに、いつも、いつもそう……」
今にも泣きそうなのはリッカの方だった。ああ、抱きしめたい。私はそう思った。もう、何も言わないなんて無理なんだ……だから。
「……今回は、言い逃れが出来ないんだよ」
「シャーリー!」
答えてもらったことに、リッカは嬉しそうにしていた。ああ、そうだ。リッカはいつもそうなんだ。ちょっとしたことでも、こんなにも喜んでくれるんだ……そう思うも、それでも顔は向けられない。
「今回ばかりは、危害を加えたも同然なの。でも、私は……生きるのを諦めたくないから。ずっと、後ろめたさを抱えたまま、私は逃げ続けなくちゃならない。そんなことに……」
やっぱりだった。私は喋り出したら涙が止まらなくなってしまった。こんなにも、私の涙腺は弱くなってしまったのかな……。
「そんな生活に……誰も巻き込めない。リッカこそ、そうだよ……! せっかく穏やかに暮らせるようになったのに。美味しいもの食べて、遊んで、ちゃんと眠る場所もあって……! あの生活に逆戻りなんて、させたくない、させちゃだめだって……!」
リッカが辛い日々を過ごしていたこと……それを知っていたからこそ。今なら村の人や、アルトたちだっている。彼らがいれば、リッカは穏やかに暮らせる。暮らせるのに……。
「……それなのに」
私は心のままに後ろに振り返った――そうして振り返った先には。
「シャーリー」
おすわりをしたままの……リッカが待っていた。こっちを向いてくれると信じて、リッカはそこに居続けていて……。
リッカ……。
「……ごめん、リッカ」
私はそう呟くと、駆けだしていた。それからリッカを力いっぱいに抱きしめた。痛いのかもしれない、それでもリッカは微笑んでいた。
「ごめん、ごめんね、リッカ。私……そうだとわかってるのに、君と離れたくない。苦労させるってわかってるのに……!」
自分がただそう望むから、私は手放すことなど出来なかった。リッカは小さな体で抱きしめ返してくれた……。
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