春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第四章

彼の目に映る、ララシアの姿

 そうして、海辺を歩いた先で。

「……シャーロット殿?」

 水着姿のエドワード君がいた。彼は浜辺に座り込んでいた。ずっと泳ぎ続けていたのかな。

「散歩、してたんだ」
「……ふむ」

 私の目元を注視していたエドワード君。泣いた跡があったから、彼はそれを見抜いているのかも……。

「……いや。ならば、休まないか。ほら、余の隣が空いておるぞ」

 エドワード君はそれには触れない。普通に隣を勧めてきた。

「……うん、座るね」

 私も隣に座った。リッカもちょこんとお座りした。

「……そなたもまた、そうなのだな。夜が明けたら、そなたも過酷な日々に身を投じることになる。全て……余が招いたことなのに」

 ――不安になるのも当然だって、エドワード君は言う。巫女への加害者として追われることになるのもあって。

「余が、罪なきクラーラ殿にあのような……裁かれるは余ではないのか」

 自分を責めているエドワード君。彼は。

「余は責任を感じているのだ……。クラーラ殿への贖罪、そして、そなたの境遇……そう、責任だ。余はそなたのことを――」

 ……すごく悩んでいた。そう、だね。君は気にするよね……なら、私は。
 私は深呼吸をした、そして。

「――余は、エドワード・アタラクシア・ロウラウンド。ララシアの王族であるぞ。ってね」
「……シャーロット殿?」

 寄せる気のない物真似。エドワード君はまったく笑ってなかった。笑えないよね。

「ほんとはね。君が言い出すまで知らない振り、そうしようって思っていた。でも、言わなくちゃって。君がせっかく、王族として……向き合おうとしているんだから」
「……余は」
「……君にはララシアがあるよ。それが、君の望みなんだ」

 君には前を向いていてほしいんだ。だから、ちゃんと念押ししておかないと。

「まずね、君はクラーラさんに何もしていない。していないんだよ。斬りかかったりとかもしていないんだ」

 私は言い通した。もうこれでいく気。あの場には私たちしかいなかった。クラーラさん自身がどう出るかはわからないけれど。信じたいとするなら――『秘密』を明らかにするなら、彼女が止める理由が無くなると言うこと。私はそれに賭けたい。

「あとはね、責任は感じなくていいんだよ――」
「違う、違うのだ。シャーロット殿!」
「!」

 エドワード君が私の腕を……び、びっくり。

「責任などと恰好つけて悪かった! 余がただ、そなたと一緒にいたかっただけだ! ……なのに、余は」

 エドワード君はその手は離しはしない。といっても、掴む手の力は弱まってきていた。

「……もう、ララシアのことも見捨てておけぬ。余は、なんて強欲なことか」
「……」
「――だがな」

 その手は弱弱しくても、エドワード君はこちらに眼差しを向けた――その目には光が宿っていた。

「今は難しい。余は未熟者だ……だが、力をつけて。ララシアの復興もやり遂げて。立派な男と名乗れるようになったら――そなたを迎えにいく」
「……エドワード君、それは」

 意味深、それは考え過ぎだとは思うけれど。それでも、どう受け取ったものかな……私は考えあぐねいていた。

「……そなたが半信半疑なのも、余が未熟が故。そうして余裕なのも腹立たしい」
「いや、全然余裕とかじゃ」
「いや、余より全くもって余裕であろう。年上だからと、いつもそうだ。今は……甘んじるしかあるまい。今にみておれ!」
「えっと……」

 エドワード君にそう宣言されて、私は困惑するばかり……といっても。

「ふふ」

 君の力強さに感化されたんだね。私は笑顔になった。

「……君が頑張るなら、私も頑張らないとね。お互いやりきって。再会できたらいいね」

 勇気だってもらえた。楽しみもできた。私はそれで良かった。ありがとう、エドワード君。

「……ああ、楽しみにしているぞ」

 エドワード君は掴んでいた手を離した。彼が見るのは、夜明け前の空。紫と橙が溶け合う、魔法のような時間。

「綺麗だね……」
「ああ」

 今もこうして見られること。この場所で見られること。いつだって綺麗な夜明け前の空。

 夜が明ける。

 魔法の時間は終わる。

 終わったんだ。

 辺りは霧がかるも、それは一瞬のこと。霧は晴れ――真実の姿が現れた。

「……」

 エドワード君は立ち上がり、振り返った。彼の目に映る、ララシアの姿。

 淀んだ空は、毒々しい色の雲が漂っている。活気あふれた都も跡形もない。
 朽ち果て、倒壊した建物。
 豊かだった植物らも枯れ果て、腐り落ちていた。

 民の亡骸もまた、当時のまま――。

「ああああああ……」

 ……エドワード君の身に重く圧しかかった。彼は民の亡骸の上で、夢の国を成り立たせていた。
 民の亡骸の上で、彼は愉快に笑っていたんだ……。

「げほっ……」

 エドワード君は吐き気が止まらない。その場で吐いてしまった。

「……うん、吐いちゃって。受け止めるからね」

 私はワンピースでそれを受け止めた。リッカもそうだ。エドワード君の体にぴったりとくっついていた。支えるかのように。

「すまない……」
「ううん……そうだよね、いきなりは厳しいよね。だって、君にとっては、心の拠り所でもあった。救われてもいたのにね……」
「……」
「ゆっくりでいいんだよ、ゆっくりで……」 

 エドワード君は吐き続けていた。

 私は彼を宥めながらも、滅びた都を目に焼きつけていた。彼がこれから向き合っていかないといけないこと。

 これからが正念場なんだ。
 そんな大変な時でも。
 私はもう彼の側にはいられない。

 だから今だけは。
 エドワード君に寄り添っていたい。私はそう願っていた。



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