355 / 557
第四章
彼の目に映る、ララシアの姿
そうして、海辺を歩いた先で。
「……シャーロット殿?」
水着姿のエドワード君がいた。彼は浜辺に座り込んでいた。ずっと泳ぎ続けていたのかな。
「散歩、してたんだ」
「……ふむ」
私の目元を注視していたエドワード君。泣いた跡があったから、彼はそれを見抜いているのかも……。
「……いや。ならば、休まないか。ほら、余の隣が空いておるぞ」
エドワード君はそれには触れない。普通に隣を勧めてきた。
「……うん、座るね」
私も隣に座った。リッカもちょこんとお座りした。
「……そなたもまた、そうなのだな。夜が明けたら、そなたも過酷な日々に身を投じることになる。全て……余が招いたことなのに」
――不安になるのも当然だって、エドワード君は言う。巫女への加害者として追われることになるのもあって。
「余が、罪なきクラーラ殿にあのような……裁かれるは余ではないのか」
自分を責めているエドワード君。彼は。
「余は責任を感じているのだ……。クラーラ殿への贖罪、そして、そなたの境遇……そう、責任だ。余はそなたのことを――」
……すごく悩んでいた。そう、だね。君は気にするよね……なら、私は。
私は深呼吸をした、そして。
「――余は、エドワード・アタラクシア・ロウラウンド。ララシアの王族であるぞ。ってね」
「……シャーロット殿?」
寄せる気のない物真似。エドワード君はまったく笑ってなかった。笑えないよね。
「ほんとはね。君が言い出すまで知らない振り、そうしようって思っていた。でも、言わなくちゃって。君がせっかく、王族として……向き合おうとしているんだから」
「……余は」
「……君にはララシアがあるよ。それが、君の望みなんだ」
君には前を向いていてほしいんだ。だから、ちゃんと念押ししておかないと。
「まずね、君はクラーラさんに何もしていない。していないんだよ。斬りかかったりとかもしていないんだ」
私は言い通した。もうこれでいく気。あの場には私たちしかいなかった。クラーラさん自身がどう出るかはわからないけれど。信じたいとするなら――『秘密』を明らかにするなら、彼女が止める理由が無くなると言うこと。私はそれに賭けたい。
「あとはね、責任は感じなくていいんだよ――」
「違う、違うのだ。シャーロット殿!」
「!」
エドワード君が私の腕を……び、びっくり。
「責任などと恰好つけて悪かった! 余がただ、そなたと一緒にいたかっただけだ! ……なのに、余は」
エドワード君はその手は離しはしない。といっても、掴む手の力は弱まってきていた。
「……もう、ララシアのことも見捨てておけぬ。余は、なんて強欲なことか」
「……」
「――だがな」
その手は弱弱しくても、エドワード君はこちらに眼差しを向けた――その目には光が宿っていた。
「今は難しい。余は未熟者だ……だが、力をつけて。ララシアの復興もやり遂げて。立派な男と名乗れるようになったら――そなたを迎えにいく」
「……エドワード君、それは」
意味深、それは考え過ぎだとは思うけれど。それでも、どう受け取ったものかな……私は考えあぐねいていた。
「……そなたが半信半疑なのも、余が未熟が故。そうして余裕なのも腹立たしい」
「いや、全然余裕とかじゃ」
「いや、余より全くもって余裕であろう。年上だからと、いつもそうだ。今は……甘んじるしかあるまい。今にみておれ!」
「えっと……」
エドワード君にそう宣言されて、私は困惑するばかり……といっても。
「ふふ」
君の力強さに感化されたんだね。私は笑顔になった。
「……君が頑張るなら、私も頑張らないとね。お互いやりきって。再会できたらいいね」
勇気だってもらえた。楽しみもできた。私はそれで良かった。ありがとう、エドワード君。
「……ああ、楽しみにしているぞ」
エドワード君は掴んでいた手を離した。彼が見るのは、夜明け前の空。紫と橙が溶け合う、魔法のような時間。
「綺麗だね……」
「ああ」
今もこうして見られること。この場所で見られること。いつだって綺麗な夜明け前の空。
夜が明ける。
魔法の時間は終わる。
終わったんだ。
辺りは霧がかるも、それは一瞬のこと。霧は晴れ――真実の姿が現れた。
「……」
エドワード君は立ち上がり、振り返った。彼の目に映る、ララシアの姿。
淀んだ空は、毒々しい色の雲が漂っている。活気あふれた都も跡形もない。
朽ち果て、倒壊した建物。
豊かだった植物らも枯れ果て、腐り落ちていた。
民の亡骸もまた、当時のまま――。
「ああああああ……」
……エドワード君の身に重く圧しかかった。彼は民の亡骸の上で、夢の国を成り立たせていた。
民の亡骸の上で、彼は愉快に笑っていたんだ……。
「げほっ……」
エドワード君は吐き気が止まらない。その場で吐いてしまった。
「……うん、吐いちゃって。受け止めるからね」
私はワンピースでそれを受け止めた。リッカもそうだ。エドワード君の体にぴったりとくっついていた。支えるかのように。
「すまない……」
「ううん……そうだよね、いきなりは厳しいよね。だって、君にとっては、心の拠り所でもあった。救われてもいたのにね……」
「……」
「ゆっくりでいいんだよ、ゆっくりで……」
エドワード君は吐き続けていた。
私は彼を宥めながらも、滅びた都を目に焼きつけていた。彼がこれから向き合っていかないといけないこと。
これからが正念場なんだ。
そんな大変な時でも。
私はもう彼の側にはいられない。
だから今だけは。
エドワード君に寄り添っていたい。私はそう願っていた。
「……シャーロット殿?」
水着姿のエドワード君がいた。彼は浜辺に座り込んでいた。ずっと泳ぎ続けていたのかな。
「散歩、してたんだ」
「……ふむ」
私の目元を注視していたエドワード君。泣いた跡があったから、彼はそれを見抜いているのかも……。
「……いや。ならば、休まないか。ほら、余の隣が空いておるぞ」
エドワード君はそれには触れない。普通に隣を勧めてきた。
「……うん、座るね」
私も隣に座った。リッカもちょこんとお座りした。
「……そなたもまた、そうなのだな。夜が明けたら、そなたも過酷な日々に身を投じることになる。全て……余が招いたことなのに」
――不安になるのも当然だって、エドワード君は言う。巫女への加害者として追われることになるのもあって。
「余が、罪なきクラーラ殿にあのような……裁かれるは余ではないのか」
自分を責めているエドワード君。彼は。
「余は責任を感じているのだ……。クラーラ殿への贖罪、そして、そなたの境遇……そう、責任だ。余はそなたのことを――」
……すごく悩んでいた。そう、だね。君は気にするよね……なら、私は。
私は深呼吸をした、そして。
「――余は、エドワード・アタラクシア・ロウラウンド。ララシアの王族であるぞ。ってね」
「……シャーロット殿?」
寄せる気のない物真似。エドワード君はまったく笑ってなかった。笑えないよね。
「ほんとはね。君が言い出すまで知らない振り、そうしようって思っていた。でも、言わなくちゃって。君がせっかく、王族として……向き合おうとしているんだから」
「……余は」
「……君にはララシアがあるよ。それが、君の望みなんだ」
君には前を向いていてほしいんだ。だから、ちゃんと念押ししておかないと。
「まずね、君はクラーラさんに何もしていない。していないんだよ。斬りかかったりとかもしていないんだ」
私は言い通した。もうこれでいく気。あの場には私たちしかいなかった。クラーラさん自身がどう出るかはわからないけれど。信じたいとするなら――『秘密』を明らかにするなら、彼女が止める理由が無くなると言うこと。私はそれに賭けたい。
「あとはね、責任は感じなくていいんだよ――」
「違う、違うのだ。シャーロット殿!」
「!」
エドワード君が私の腕を……び、びっくり。
「責任などと恰好つけて悪かった! 余がただ、そなたと一緒にいたかっただけだ! ……なのに、余は」
エドワード君はその手は離しはしない。といっても、掴む手の力は弱まってきていた。
「……もう、ララシアのことも見捨てておけぬ。余は、なんて強欲なことか」
「……」
「――だがな」
その手は弱弱しくても、エドワード君はこちらに眼差しを向けた――その目には光が宿っていた。
「今は難しい。余は未熟者だ……だが、力をつけて。ララシアの復興もやり遂げて。立派な男と名乗れるようになったら――そなたを迎えにいく」
「……エドワード君、それは」
意味深、それは考え過ぎだとは思うけれど。それでも、どう受け取ったものかな……私は考えあぐねいていた。
「……そなたが半信半疑なのも、余が未熟が故。そうして余裕なのも腹立たしい」
「いや、全然余裕とかじゃ」
「いや、余より全くもって余裕であろう。年上だからと、いつもそうだ。今は……甘んじるしかあるまい。今にみておれ!」
「えっと……」
エドワード君にそう宣言されて、私は困惑するばかり……といっても。
「ふふ」
君の力強さに感化されたんだね。私は笑顔になった。
「……君が頑張るなら、私も頑張らないとね。お互いやりきって。再会できたらいいね」
勇気だってもらえた。楽しみもできた。私はそれで良かった。ありがとう、エドワード君。
「……ああ、楽しみにしているぞ」
エドワード君は掴んでいた手を離した。彼が見るのは、夜明け前の空。紫と橙が溶け合う、魔法のような時間。
「綺麗だね……」
「ああ」
今もこうして見られること。この場所で見られること。いつだって綺麗な夜明け前の空。
夜が明ける。
魔法の時間は終わる。
終わったんだ。
辺りは霧がかるも、それは一瞬のこと。霧は晴れ――真実の姿が現れた。
「……」
エドワード君は立ち上がり、振り返った。彼の目に映る、ララシアの姿。
淀んだ空は、毒々しい色の雲が漂っている。活気あふれた都も跡形もない。
朽ち果て、倒壊した建物。
豊かだった植物らも枯れ果て、腐り落ちていた。
民の亡骸もまた、当時のまま――。
「ああああああ……」
……エドワード君の身に重く圧しかかった。彼は民の亡骸の上で、夢の国を成り立たせていた。
民の亡骸の上で、彼は愉快に笑っていたんだ……。
「げほっ……」
エドワード君は吐き気が止まらない。その場で吐いてしまった。
「……うん、吐いちゃって。受け止めるからね」
私はワンピースでそれを受け止めた。リッカもそうだ。エドワード君の体にぴったりとくっついていた。支えるかのように。
「すまない……」
「ううん……そうだよね、いきなりは厳しいよね。だって、君にとっては、心の拠り所でもあった。救われてもいたのにね……」
「……」
「ゆっくりでいいんだよ、ゆっくりで……」
エドワード君は吐き続けていた。
私は彼を宥めながらも、滅びた都を目に焼きつけていた。彼がこれから向き合っていかないといけないこと。
これからが正念場なんだ。
そんな大変な時でも。
私はもう彼の側にはいられない。
だから今だけは。
エドワード君に寄り添っていたい。私はそう願っていた。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。