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第四章
五年
「……ふう。婦人へのつきまといが目に余る。女神の巫女として見ていられない、だとさ」
「……なんと?」
緊張しきっていたエドワード君の顔が、間抜けなものになっていた。あまりにも予想だにしない言葉だったようで。
「そのままだよ。最近はすっかり一人に集中していたが……去年とか、酷かっただろ」
「なんと……だが、それだけか?」
「それだけだ。だが、中々酷いぞ?」
「いや、もっとこう……」
エドワード君はまだあるだろうと、催促している。それを軽く流しているのは先生。
「……エドワードなぁ。巫女様がそう仰ってるんだ。――せっかくの命、大事にしろよ」
「……!」
驚きつつも、エドワード君はその言葉をしっかりと受け止めていた。私も……私だってそう。無関係とは思えなかった。
「……とまあ、こんなところだ。様子見がてら、来たわけだ。それと、お前は……退学になった。流れ的にもな」
「はい」
国外追放は永久的にと思った方が良さそうだった。もう学園にも故郷にも戻れない。夢だった店も、そのまま手放すしかないんだ。
「……先生、色々とありがとうございました。私、やっていけます。先生やクラーラさんが、かけあってもくださったのですから」
国外追放で済んだのも、ララシアの復興に携われるのも。クラーラさんやモルゲン先生が尽力してくださったから。
「おいおい、俺じゃない。クラーラが頑張ってくれたんだ」
「はい、そうですね」
「なんだかな……まあ、良かったってことだ――元気でな、シャーロット」
「はい。モルゲン先生もお元気で」
モルゲン先生ともこれが別離になるんだ……。
先生とはもう……。
「……」
……どうしてかな。この感情が不思議だった。こんな、切なくなるような気持ちが。
「……海のせいかな」
私は微かな声で呟いた。片桐先生を彷彿してしまうモルゲン先生と――海。この組み合わせがそうさせたのかな……。
「わふっ」
「うん、リッカ。ララシアにいていいって」
リッカも嬉しい。私だってそうだよ。定住できるとか、思ってもみなかったから。
「……なんとも。なんともまあ、だっ!」
エドワード君はしばらく惚けていたけれど、表情が明るくなった。みるみるうちにテンションも高くなっていってる。
「ああ、まこと感謝致すぞ! シャーロット殿がララシアにいてくれる。この余と共にだっ。百人力ぞ、余はやり遂げてみせるぞ!」
「ああ、良かったなぁ」
エドワード君は有頂天だった。先生も微笑みをたえていた。
「――エドワードは学園に通い続けてもらうけどな?」
「……なんと?」
エドワード君の目が点になった。彼は現実を受け入れられていなかった。
「とあるご年配の方からだ」
「翁ではないか。翁しかいないだろうが」
「……どなたかはさておいて。お前はまだ学ぶことが多いから、学園生活は続けろと。復興はこちらに任せろと」
「な、なんということか。学ぶことも大事だ、だが、余はそれよりも――」
エドワード君は焦燥に駆られていた。ララシアを置いてはいけない、彼はそう決意したばかりなのに……。
「――あと五年。ララシアが浄化しきる年月だ」
「!」
五年。エドワード君にとって……辛く重いもの。
「浄化、ですか?」
浄化。私は気になり、先生に尋ねていた。
「ああ、そうだ。これまではあの方が単独で行われていたが、人手も欲しかったそうだ。お前の知識も役に立てるだろうな」
「……はい!」
翁さん……一人で留まり。一人で戦い続けていたんだ。私はっきりと返事した。自分の役目も出来た。
「……翁には、頭が上がらぬな」
エドワード君も感服していた。彼はこれ以上は反論することはなかった、ただ。
「定期的には訪れるからな。余とて、出来ることはあるのだ! 無論、ダイヤノクトでもだ」
「うん、そうだね」
未来が明るく見えた。まだ、始まったばかりなんだ。これからなんだ……!
「さて、次は。重労働だな」
先生は体を伸ばし、ストレッチをしていた。突然の謎行動……先生?
「ああ、大変なミッションだ。あいつらにも話をすること……特に我が弟な。あいつは相当ごねるぞ。学園も辞めると言いかねない」
「ああ……」
そう、彼らとも話をしないと。
「じー」
「リッカ……」
リッカが期待を寄せてきていた。あの三人と話をすること。リッカと約束したことだった。
「――モルゲン先生、私も行きます。行かせてください」
「おっ。お前も来るか? なんとか説得してくれ、な?」
先生は助かったと安堵の表情を浮かべた。
「ふむ、余も向かおう。彼らとは改めて話がしたかったのだ!」
エドワード君も加わった。
「へっへっへっへっ」
リッカは先行して走り出していた。
ここは、ララシア。淀んだ空の隙間から――日が差していた。
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